祭りと言ったらハッピだろう!
商店街の奥にあるこぢんまりとした建物に向かっていった。
商店街には、肉屋や野菜売り、魚屋、洋品店、小物屋、武器屋に防具屋、しまいには魔道具屋なんてのもあって、何でもありだった。
そんな活気のある商店街の一角にある建物にはやはり酒を片手に騒ぐおっさんたちがいた。
「おお、ゲオルグじゃねーか。いまかえってきたのか?隣の小僧は誰だ?」
「ああ、この人はカーマ・トールってんだ。訪問者になる予定で、この町に来た人だ」
「けっ。また、訪問者かよ。んで、こんなとこに何の用だってんだい。俺たちゃいま忙しいんだ!武器がほしいんなら明日以降にしな!」
赤ら顔のおっさんは、徹が訪問者志望だと聞くと一気に機嫌を悪くした。
「まあ、おちつけって。クランのやつらに、負けそうでイライラしているのはわかるが、こいつには関係ないだろう」
「うるせえ!若い奴はみんなクランクランであっちいっちまってよお。商店街の誇りってもんがねえんだ!」
「あーわかったわかった。頼みなんだが。カーマは、今日この街にきて祭りが終わるまでギルド登録できないんだがな。祭りに参加したいんだ。ギルド登録してないからギルドの方で参加するわけにもいかないし、ここは商店街の方で参加させてくれねえかな?将来有望な訪問者だから実力の方は保証するぜ?」
「なんだよぉ。そういうことなら早くいえって、歓迎するぜ兄ちゃん。訪問者希望なら力はあるんだろうね」
「うっす!香山 徹っていいます!祭りのためなら何でもするであります!」
「いいねえ。もう説明をされてっかもしれないけど、まあ聞け。この祭りのメインはな。神輿合戦なんだ。それぞれの本拠地から神輿を担いで、決められたルートを通って、街の北にある迷宮まで行く。そういう祭りだ」
簡単だろうと赤ら顔のおっさんはいう。
「だがな!ルートを通ってるとどうしてもほかの神輿とかち合う!そこで始まるのが神輿合戦だ!男なら道を譲るなんてイモひいちゃいけねえ!ぶちかましてやって、道をこじ開けんのさ!そこで、神輿を地面に落としたり、壊されたら負けだ!そうしたら俺たちの祭りは終わりになっちまう!おめえさんに神輿を守りきる勇気はあんのか!?」
「おっす!俺の心は神輿と共にあります!神輿に土がつくときは、俺が死ぬ時です!」
「よおし!よく言った」
おっさんだけじゃなく、周りからも称賛の声が上がる。
「ほらこっちゃこい。ほれ、これもて」
そういって渡されたのは木の升だった。
それを両手で恭しくとるとそこに酒がなみなみと注がれた。
「駆け付け3杯だ。ほれほれほれ」
掛け声とともにぐいっと升をからにする。
「おー、いい飲みっぷりだな!それじゃ次だ」
そういわれて、ぐいぐい飲まされる。おっさんたちとのガチムチの前夜祭は今始まった…
「おい、兄ちゃん、起きろ」
ゆっさゆっさと揺られて起きる。
昨日割と飲まされたが、二日酔いにはなってないようだ。
「おし、おきたか。じゃあこれに着替えて外に来てくれ」
そういって渡されたのは、もも引きに胸当て、そして商店街の商の字がでかでかと書かれたハッピだった。
(やべえ。みなぎってきたあああ)
朝に弱い徹にしてはめずらしくテンションがあがってきた。
コートと武器を秘密基地に放り込んで、渡されたハッピに着替える。
着替えが終わって表に出てみれば、ハッピをガッツリ着込んだおっさんたちが待ち受けていた。
その後ろには、見事な装飾が施された神輿が鎮座している。
「兄ちゃんにあってるぜ。しまいにゃこれだ」
そういって渡された鉢巻を頭の横に縛り口が来るように締める。
頭と一緒に心まで絞められたように、気合が一段とはいってくる。
「オッチャン達だって、いかすぜ。どこぞの渋いイケメンかとおもったぜ」
「かあー言ってくれるねえ。おっし兄ちゃんには俺の場所を譲ってやろう!神輿の右前を担いでくれ!」
「おっしゃあ!任された!大船に乗った気持ちでいてくれ!」
準備が整ったので、配置につく。
するとそこへゲオルグさんがハッピを着てやってきた。
「あれ?なんで、ゲオルグさんがここに?あの人訪問者ギルドの職員じゃなかったの?」
「ゲオルグは商店街の町内会長だ。今日はギルドよりこっちを優先してくれている。道案内とかはあの人だ」
徹の後ろで神輿を担ぐ人が教えてくれた。
そのころには、商店街の人たちがハッピを着てみんな集まっていた。
神輿を担げない人でも、神輿の後についていって練り歩くらしい。
「それでは!商店街の無事とますますの繁栄を願って、万歳三唱をする!」
その号令に合わせて、おっさんたちは神輿をがっと担ぐ。
「「「「ばんざああああああい。ばんざああああああい。ばんざああああああい」」」」
神輿を担ぐおっさんたちもちゃんと神輿を持ち上げて万歳をする。
全長30mを超える神輿を担いでるのに元気なおっさんたちである。
そのあと、神輿の後ろから聞こえるラッパの音に合わせて、俺たちは商店街を出発したのだった。
「「「ヤイソ!ソイヤ!ヤイソ」」」
野太い男の掛け声と共に神輿は進む。
神輿は、商店街をぬけ、道を2度ほど曲がると大通りに差し掛かった。
そこには、別の神輿を担ぐ集団がいた。
「なんだあれ?あいつらなんか俺たちを馬鹿にしてないか?」
その集団から受ける目線に蔑みを敏感に感じた俺は、仲間達にきいてみる。
「ああ、あいつらはクランさ。訪問者のやつらが作る組織だな。俺たち商店街が毎年初めの方で神輿に土をつけるもんだからなめきっているのさ」
「ほう。祭りで相手をなめるとか、祭りを馬鹿にするにもほどがあるぞ。いいだろう、では制裁だ!」
「ゲオルグ!邪魔だ!どけ!」
「ふざけんな、俺も担ぐ!あいつらにはわからせてやらねえとな!」
そういうとゲオルグは徹とは逆側の棒をかついだ。
「よし!祭りは先手必勝だ!いくぞお!☯」
『身体強化』を全員にかけると、目の前の神輿に向けて駆け出した。
相手の神輿は油断していたようで、俺たちの先制に驚いて固まっていた。
それをいいことに、オヤジたちは神輿のどてっぱらめがけてぶちかましをかける。
完全に奇襲が決まった形で、相手のみこしの担ぎ手は何人か吹き飛ばされていた。
神輿も斜めに崩れ落ちていく。
「おい!相手の神輿はまだおわっちゃいないぜ!もう一度ぶちかましだ!」
「「「おうよ!」」」
威勢のいいおっさんの返事と共に再びぶちかましをかけると、神輿は一回転して完全に壊れてしまった。
後ろからは空気を読んだラッパ隊が勝利の音楽を鳴らす。
「おら!ガキども!調子に乗ってんじゃねーよ」
「わかったか!これが実力の差ってやつだ!」
「てめーらみてえな、サンピンはお家でママのおっぱいしゃぶってるのがちょうどいいんだよ」
調子に乗ったオヤジたちは言いたい放題である。
オヤジたちは神輿を担いだまま、神輿を壊されて呆然としているクランを後目に大通りで勝利の練りを見せつけていた。
大通りを進むとすぐに次の標的が現れた。
先ほどのやつらとは違い、俺たちを確認するとすぐにこちらに向いて戦闘態勢をとった。
「どいつもこいつもいいガタイしてやがるぜ」
「どうしたカーマ怖気づいたか?」
「ばかな。なに言ってんだよ!祭りってのはハートで勝負するもんだろうが!いくぜ、おっさんたちも遅れんなよ!」
「「「おうよ!かましてやんぜ」」」
こちらがぶちかましに向かえば、向こうも正面からぶちかましに来る。
相手の横をとるように回り込むなど、祭りをわかっていない、はなたれガキだといわんばかりの勢い。
だが、俺はゲオルグに目配せをする。一瞬のアイコンタクト。たったそれだけで伝わった。
相手の神輿と衝突する数瞬前、俺とゲオルグはそろって腰を落とした。
そして相手の激突の瞬間、一気に体を伸ばし、相撲で言う掬い上げのように相手の神輿を下から襲った。
その衝撃はすさまじく、相手の神輿は一回転して吹き飛んで行った。
つかまっていた担ぎ手も同じように吹き飛ぶ。
それは、少し遅くても早くても相手に対処される。絶妙なタイミングをぶっつけ本番で成功させた。完全な正面からの奇襲。
「「「うおっしゃああああ」」」
オヤジたちの熱い歓声と共に、祭りはまだまだ終わらない。
商店街のメンバーは、ほぼオヤジだが、並み居る神輿を横転させ、踏みつぶし、ここまでやってきた。
目の前には、神輿を奉納する迷宮が見える。
周りからも、今年は神輿を奉納できるのではないかとざわめきが聞こええる。
この祭りに参加するチームは50を超えるのだが、毎年奉納できる神輿の数は多くて2~3台だ。
ゲオルグすら目と鼻の先にある迷宮をみて、興奮し、鼻息を荒くして、足を速めている。
ラッパの音も一層激しくなっていた。
だが、道の終わりに差し掛かった時、一台の神輿とかち合うことになった。
「あ、あいつらは…」
「ん?どうしたゲオルグ。あれは、ラスボスか何かか?」
「最後の強敵?ああ、そうだな。あいつらは、この街でも有名な上位クランだ。たしか、ヴァニルっていったかな」
「へえ。光り輝くものねえ。最後の敵にはちょうどいいな!」
「さすが、うちの大将は怖いもの知らずだな」
知らないうちに商店街の大将にされてしまった。
ヴァニルの神輿とは正面から対峙している。
対峙しただけで分かる、どんな小細工も通用しない。そして使う気もおこらない。
高まる緊張、神輿と神輿の間には、何とも言えない空気が漂っている。
雰囲気にのまれ誰も何も言わない、ただただ衝突の瞬間を待っている。
正面に見えるヴァニルの神輿の担ぎ手たちも力をためているのがわかる。
その隆起した筋肉がまるで引き絞った弓のような雰囲気を漂わせていた。
その空間に空気の読めないラッパの音だけが響く。
それはラッパの音の途切れ目立った。どちらの神輿も示し合わせたかのように突撃をかける。
どちらの神輿も全くよけるそぶりもせずにぶつかり合った。
大音響をさせてぶつかり合った神輿は、片方が派手に吹き飛ばされる結果となった。
吹き飛ばされた神輿はもちろん、俺たちの方だった。
吹き飛ばされたオヤジたちは神輿から離れたところに倒れている。
神輿だけは奇跡的に俺の手の中で地面と垂直に立っていた。
(糞が…俺のせいだ…俺のせいで吹き飛んだ)
原因は、おっさんたちにかかっていた身体強化も魔術の効果が切れていたこと。
完全に魔術師としての経験値の不足ゆえの事態だった。
身体強化の切れ目を見計らってかけなおすことや持続時間を考えて込める魔力量の調節といった運用のためのテクニックがまったく身についていなかったのだ。
それは、魔道書を読むことによって知識を得たために、細かい部分まで詰められない未熟な魔術師。
それが今の徹の限界だった。
「だが…だがな…俺の祭りはまだ終わっていない!」
魔術回路に普段以上に魔力を通す。
それにより魔力量が格段に跳ね上がる。
溢れ出す魔力に空間が歪む。
ガロン
神輿はところどころ傷ついており、少し動かすと細かい部品が落ちていく。
徹もさっきの衝撃でぼろぼろの体だった。
だがそれでも体にムチ打って無理にでも持ち上げる。
「☯」
今までの比ではない強化が体にかかる。限界を超えたそれによって筋肉がぎちぎちときしむ。
それでも、神輿を担いで再び立ち上がった。
目の前の男が立ち上がった。
俺たちのヴァニル・クランは毎年ここに神輿を奉納している。
この場所で、ほかの神輿とかち合うことはよくあった。
だが、今年の相手は弱すぎた。
相手は商店街の神輿だ。一般人が相手なら仕方ない。
熟練の訪問者と一般人では単純に腕力だけとっても天と地の差がある。
しかし、ここまで残るような相手だ。決して弱いわけがない。
その答えが目の前にあった。
たった一人で、全長3mを超える神輿を担いでいる。
まったく素人であんな行動をされたら、こちらの血肉がわいてしまう。
あまりの嬉しさに口がにやける。
「ちょっと神輿を担ぐのは俺だけにしてくれないか?」
「ちょっと…ゾネ本気?」
この子はアニタという。見ての通り筋肉女だが、細やかな配慮もしてくれてたすかっている。
「ああ、本気だ。頼む」
「まあ、ゾネがやりたいっていうならとめないけど…」
そういうとほかの人も説得して、神輿を俺に任してくれた。
神輿を一人でかついで振り向くと、そこにはさっきの男が俺の準備が整うのを待っていてくれた。
(やはりこいつはいい。わかっている)
ひとり嬉しくなる。
が、その瞬間、男は飛び込んできた。あわてて神輿で防ぐ。
鈍い木と木とがぶつかり合う音が響く。
(くそ!当たり前だ。対峙しているときに気を抜いた俺が悪い)
自省とともに、神輿を無理やりに押し込む。つばぜり合いをしているために相手の男の顔が近くにある。
「小僧…名前はなんていうんだい?俺はヴァニルのマスターをしているゾネってもんだ」
「俺は、昨日この街に来たカーマ・トールだ。一応、祭りが終わったら訪問者登録する予定だ」
その会話を期に再び距離をとった俺たちは再びぶつかり合った。
パラリパラリと神輿の細かい部品が剥落していく。
そんなこともお構いなしに、それから何度もぶつかり合う。
そしてぶつかり合うごとに響く音は大きくなっていった。
その力は、全くの互角。本来ならあり得ない。
訪問者は、迷宮に潜ることによって経験値を稼ぎステータスを上げていくことができる。
訪問者になって、十数年―何度か死にかけたが、迷宮をもぐって強化してきたゾネの腕力は人間のそれを軽く凌駕している。
そんなゾネの腕力と互角に渡り合う不思議な男―カーマ・トール。
久しぶりに全力で打ち合える戦い。
何とも言えぬ快感がぶつかり合うごとに全身をはう。
だが、そんな楽しい時間も終わりを迎える。
最初に限界を迎えたのは、人ではなく神輿だった。
最後のぶつかり合いで、両方の神輿が轟音を立てながら崩れ去ったのだ。
(引き分けか…いまだ訪問者にすらなっていない状態でこれは、将来有望な戦士だな)
そんな思いを知らずに、カーマは心なししょんぼりした表情で膝をついていた。
「おいおい、引き分けでも十分大金星じゃないか。勝つつもりだったのかよ」
そういう、俺のセリフに対して、カーマは静かに首を振った。
「祭り足んねえ…」
(ああ、カーマは俺と戦っていたわけじゃなくて、ずっと祭りを楽しんでいただけなのか…馬鹿なのか…器がでかいのか…)
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