そうだ、祭りへいこう
「いやー、助かった。本当にありがとう。礼を言わせてもらおう」
ナイスミドルは、豪快にわらって礼を言った。
「……いや…偶然通りかかっただけで…」
「なんだなんだ。元気がないじゃないか?どした?はらへったのか?」
心が折れて、ローテンションの徹とおっさんはしばらく休憩して話をしていた。
おっさんの名前は、ゲオルグ・サーチェス。
なんでも隣の町に所用で出かけた帰りに、魔獣の群れに襲われたらしい。
なんとか切り抜け命からがら脱出したが、途中でけがを負いここに倒れていた。
徹が見つけたときはだいぶ血を失っていたようだが、神崎プレゼンツのポーションで傷口を洗い、残りを飲ますと元気になったようで意識が覚醒した。
そうして今に至る。
「それで、坊主はどうしてこんな道を歩いていたんだ?こんな、魔獣の出る道はめったに人が来ないぞ?」
「ああ、名乗っていませんでしたね。香山 徹といいます。今はヴォルフと名乗る怪しい男に拉致されてそこの森に捨てられたので、いま森から這い出てきたところです。ということで、ここら辺のことを教えてもらえると助かります」
要点だけ絞って話したので、残りの部分はゲオルグさんが、都合がいいように解釈してくれるだろう。
こういう、世渡りも『グリモワール』に書いてあった。魔道書ってレベルじぇねーぞ!
『グリモワール』の著者(?)である神崎さんは本当にいろいろな世界を旅していた。
そのためか、異世界において違和感なく怪しまれない行動というものがわかる。
言語においては、人間レベルの知性生命体が言語様式をパターン化し、短時間でその言語を習得する方法や言語を操る生物から言語様式の知識を吸い出す方法がある。奥の手には、言語を超越して無理やり相手の話していることを理解し、自分の話していることを理解させるような神々の奇跡レベルの方法もあった。
今回、徹が使ったのは、2番目の方法になる。気を失っているゲオルグさんが近くにいたのでちょうどよかったというのもある。
ただし、取り出してからちゃんとそれを参考に言語を習得しなきゃいけない。
だけど、神崎流魔術の基礎を修めたおれは、異常に記憶力と理解力が上がっているために、すぐにしゃべれるようになった。神崎流ぱねえ。
1番目の方法は、習得している言語が多ければ多いほど習得が早くなるため、1カ国語しかしゃべれない俺では時間がかかる。
3番目は、まだ使えない。単純に魔術に対する理解や習熟が足りない。魔術師になって5年目のドさんぴんな徹に神の奇跡の行使など無理だ。
「そうか、おめえいろいろ大変だったんだな。カーマ・トールか?俺にできることなら何でも言ってくれ、できる限りで協力するからよ!」
予想以上に同情されてしまった。協力者げちゅー。
「ああ、そういえば。ゲオルグさんが襲われていた魔獣って、犬の体にサルの頭のやつですか?」
「お?おお、そうだ。よくわかったな」
「あそこにいますよ」
そこっと森の切れ目から顔を出している不思議生物をゆびさした。
「なんだと!?しまった!囲まれている!!」
ゲオルグさんはいきなり焦りだした。
「会話に夢中で周囲の警戒を怠った…すまん!さてどうする?」
「ここは、ゲオルグさんが『俺のことはいい!この道をまっすぐ走れば町に着く。すぐ行くんだ!』って言って、俺が涙を流しながら逃げるパターンですね!」
「おい!勝手に俺を殺すな!俺だって死にたくないぞ!死ぬなら一緒に死のうぜ」
「えー、さっきできることなら何でも協力するって言ってくれたじゃないっすかー」
「これはできないことの範囲だ!あほたれ!」
「うっわー、ひどくね?それが命の恩人に言うセリフかよ」
「んなもん命あってのもだねだろ!」
「それじゃあとれる選択肢は一緒に戦うしかないじゃないかよ」
無駄な言い合いをしているうちに猿頭犬体の不思議生物は俺たちを中心に範囲網を狭めてきた。
それに対して、俺たちは背中合わせに戦闘態勢をとった。
「おいカーマ。どれくらい戦える?」
「え?俺のこと?まあ、それなりには戦えますよ。多分。それで、なに?この不思議生物は!」
自信はない。戦闘なんてさっきの小鹿くらいしかやったことが無い。だけど、俺には『グリモワール』があるし何とかなるんじゃないかと思える。
「ああ?こいつらか?こいつらは『ヌエ』っていうんだ。猿頭で犬の体、尻尾が蛇だろ」
「へー、鵺かー。初めて見た。それじゃ、ゲオルグさんは半分頼む。あと半分はやるわー」
そういって、包囲網の隙を作っている弱そうな個体の方へ突っ込んでいった。
「☯」
身体強化を発動させ、一気に加速する。そして、愛刀『月』を一閃。
スピードを載せて弧を描いたそれは、簡単にヌエの首を胴体から切り離していた。
徹はそのままの勢いで、包囲網の外側へ降り立つ。
取って返すと、右側のヌエへと標的を定め、袈裟懸けに切り捨てる。
さすがは、神崎さんの愛刀だけあってその切れ味は抜群だった。筋肉や骨を断つ手ごたえは感じるも、障害というほどもなくやすやすと切れてしまった。
それを感じると手を左方向に突き出した。
「☤」
青白い炎の塊が連続で発射された。それは、先ほど小鹿を打ったものより小さいが、音速に近いスピードでヌエを襲った。
それを食らったヌエ達は、炎の塊を受けた部分が一瞬で蒸発する。
打ち終わってみると、そこらかしこに頭のないヌエや胴の部分が欠損しているヌエなどが転がっている。
この3連の動作で、包囲しているヌエの1/3が物言わぬ骸として転がっている。
とてつもない理不尽な火力によって、包囲していたヌエ達は動揺し、浮足立っていた。
ゲオルグさんはその隙を逃さず、アイアンメイスを腰から取り出すと、一匹のヌエに躍りかかった。
こうなると後は簡単で、一方的な殲滅が繰り広げられるだけだった。連携のとれていない群れなど、格好の餌食でしかない。
ヌエを倒したあと、ヌエの血の匂いによって集まってくる魔獣から逃げるために街への道を急いだ。
目的の町は、『カーマイン』といい。このあたりでは、一番大きい街らしい。
「いやー、カーマは強いな。こんなに強いとは思わなかったぞ。それに魔術師だったのか。なんか、俺の知らない魔術を使っていたんだが」
「んーあー。どうなんだろう?誰かに教えてもらっているわけじゃなくて、魔道書で独学だから人と違うのかもね。一般的な魔術ってどんなの?」
「俺も魔術師じゃないから詳しいことはわかんないんだがな。魔術には属性があって火、水、土、風、光、闇、無、の7つがあるらしい。だいたいの魔術師はこのうちの2つか3つを扱えるらしいんだ。すごい魔術師だと4つとか使えるとかなんとかいっていたかな?」
ふんふんと聞きながら、『グリモワール』の叡智をもとにこの世界の魔術技術水準を図った。
「一般的な男の魔術師だと光属性と火、水、土、風のどれか一つの2つが使えて、女になると無属性と火、水、土、風のどれかを使うのが一般的だな。闇属性は、あるらしいんだが使い手がいるって話は聞いたことが無い。魔術を発動させるための呪文はそれこそ、魔術師の隠すものだ。俺にゃあわからん」
そういって、禿げ上がった後頭部をポンとたたく。それが何とも愛嬌あのあるしぐさだった。
それを後目に、俺はなんとなく理解した。この世界の魔術技術水準をだ。
言語魔術を主とする世界で魔術が属性分けされるのは珍しくない。
基本的に、2つに属性分けすると光と闇、陰陽道などにいわせれば陰と陽というものになる。
つまり、陰陽道の考え方なら、陰は女性を示し、陽とは男性を示す。そのため、女性は闇属性を手繰り、男性は光属性を手繰る。
なぜ、無属性でなくて闇属性なのかというと、魔術では本来無属性というものは存在しない。
どんな存在であろうと、体内にある魔力は微妙に属性というものを帯びている。光属性を得意とするものは光属性に、水と火属性ならばその両方に本当に微妙なだけ属性を帯びる。
これにより、魔術を発動させることが可能になっている。
無属性では魔力に指向性が付与することができず魔術発動ができない。
この世界でいわれている無属性魔術である『身体強化』を代表とする魔術は実は、イメージに遠いが闇魔術なのである。イメージにそぐわないため、魔術技術水準が高くないと勝手に無属性などと間違った分類を受ける。
そして2つに分けた属性をさらに2つに分け4つに分けると光属性が火と風に、闇属性が水と土に、といった4属性になる。
このため、男性は火や風の属性、女性は水や土の属性を得意とする人が多い。
さらには、この4属性を修めると使える雷属性-純粋なエネルギーを扱う属性なんていうのもあるが、多分この世界ではまだ確認されていないだろう。
(以上『グリモワール』からお伝えしました。細かいところは省いているけどおおむねこんな感じ!)
ちなみに神崎さんはとある特殊スキルにより、存在しないはずの無属性の魔力を持っていた。
このため、神崎さんは魔術を使うために魔力に属性を付与するという特殊な工程を挟まなければならなかった。
そして、実はこの工程を徹も使っている。なぜなら、魔術の威力が上がるからだ。というかなぜか、徹もこの工程を挟まないと魔術が発動しない。
だが、この工程もデメリットがあり、この工程を挟むと詠唱する呪文の長さが2倍になるという不具合だ。
そのため、高速言語を使わないとやってられないほどの長い詠唱をしないといけないはめになる。
ゲオルグによる魔法談議はひと段落し、そのままこの世界の情勢の話になった。
この国は『ファルト』という名前の国で、カーマインはその中でも南中央に位置し、5本指に入るような大きな街らしい。
カーマインのような辺鄙な都市が大きい理由には、カーマインの町の北側の中心に大きな迷宮が存在するからということだ。
ゲオルグさんはそこで、迷宮から出てくる特産物を管理する国営のギルドではたらしているらしい。
ここは特産の管理だけでなく、この迷宮に潜る『訪問者』と呼ばれる職業の人間のバックアップもしている。
なぜ彼らが訪問者と呼ばれる理由は、迷宮はディーナ・シーと呼ばれる存在によってつくられたものだからだ。
ディーナ・シーは、貴金属や宝石類を集める趣味があり、また魔道具や魔剣といった特殊武器の生産もする。
このため、迷宮には地上にいる魔獣とは少し毛色の違うモンスターと呼ばれるものがいる。
ときどき迷宮の主たるディーナ・シーによって制作された魔族付与された武器や防具を持っている個体もいる。
これらを求めて、迷宮に訪問する人間を『訪問者』と呼ぶらしい。
(やばい…迷宮だって!み…みなぎってきたああああ。これは迷宮全クリふらぐだろ!俺の魔術の腕を見せてやんよ!)
俺たちは、わりと『カーマイン』の街の近くにいたらしく半日ほど歩いたら到着した。
「あー、そういえば、身分証明書とかないんだけどいけるかな?」
ここまでの距離でゲオルグさんとなかよくなり余裕のため口になっていた。
「まーここは、私にまっかせなさい」
胸をどんとはって、さっそうと門番の方へあるいていった。
『カーマイン』の街は城壁に囲まれた要塞都市だった。
なんでも、大きな街になると城壁で囲わないと魔獣がうろちょろしているので危険らしい。
街に迷宮があるならそっちも危険じゃないかと聞いたら、迷宮のモンスターは迷宮からでると弱って死んでしまうと教えてくれた。
そうこうしているうちにゲオルグさんがこちらを指さしながら門番と何か話している。
そしたら、案外あっさりと中に入れてもらえた。
「割とあっさりだね。顔パスとかゲオルグさん割と偉い人?」
「いやー、君を『訪問者』の希望者ということにして入れてもらったよ。ああ、望まないなら、中で別の身分証を作ればいい。うちで身分は保証してあげるから何とかなるだろう」
「ああ、いやいや。訪問者をやろうと思っていたからちょうどいいさ」
「おお、カーマならいいとこまで行けるんじゃないか?もしかしたら、カーマインの迷宮の初の踏破者になるかもしれないな。だが…」
ゲオルグさんにはとても好評価をいただいております。
カーマインの街に入ると、予想以上に整然とした街並みの街であった。
活気のある商店街に石造りの高級感ある触れる住宅。
ところどころに公園といった防火地もあり、文化レベルの高さを物語っていた。
「悪いんだが、登録は2日ほど待ってもらえないか?今日はもう夜遅くて無理なんだが、明日のカーマインは祭りなんだ」
「祭り・・・だとう!?」
実は、徹は祭りが超好き。徹の地元では、飲んで食って騒いで練り歩くという参加した人間にしかわからない楽しい祭りがあった。
そのため、祭りは死ぬほど好きなのだ。
「ああ、それならカーマも参加してみるかい?登録もできていないから『訪問者ギルド』の方では無理だが、地元の商店組合の方なら頼めば入れてもらえるかもしれない」
「い…いいの!?やる!ぜったいやる!」
「それなら善は急げだ。多分今頃、商店街で会合をやっているはずだからそこに顔を出そう」
今ちょうど暇な時期にばばっと書きたいんですが、どうにも進まない…