ごみのポイ捨てはやめましょう
タイトルが…思い浮かばない(´・ω・`)
「ぐふっ」
徹は、地面に投げ出される感覚で覚醒した。
「いってえ…どこだここ?」
周りを見回せば、そこは森の中だった。うっそうと茂る木々に遮られ、日光が地面まで差し込まない。
そのせいか地面がしっとりと濡れていた。
さっきまで寝ていたために、シャツにスウェッター&裸足という無防備な状態だ。
じめじめした地面に直接座っているため、スウェッターが濡れてきた。
「畜生、なんだよここ。日本にこんなとこあったのか?」
座っているとじめじめして気持ち悪いので立ち上がることにした。
その拍子にかちゃんと2つのピアスが地面に転がる。
「あ…これは、夢の?じゃあ、あれは、あの変態は夢じゃなかったのか?糞が!用が終わったんなら元の場所に戻せよな!」
悪態をつきながらピアスを拾う。昔開けたピアスの穴が開いていたので、その穴に通しておくことにした。
不思議なことにそれなりの大きさがあるのだが、全く重さを感じなかった。
「いつまでもこんなとこにいても仕方ないし、移動しますかね…」
森の出口を目指して歩き出すことにした。
とはいっても、地面は枯葉やコケで覆われており、裸足で歩くには気持ち悪い上に歩き難い。
だが、不思議と虫の鳴き声が聞こえなかった。
しばらく歩きながらやることが無いので、あの変態自称神様と会った時のことを考える。
「まず、あの変態からもらったのは、このピアスが一組。後『グリモワール』ももらったんだよな?」
『グリモワール』ってなんだ?と考えると一気に頭に『知識』が流れ込んできた。
あの時ほどではないが、頭に激痛が走る。流れ込んだ『知識』の量が多すぎたのだ。
片手をそばの気について、肩で大きく息をする。少しずつ息を整え、精神を落ち着かせる。
ひどい目にあったが、これで分かったことが一つある。
「ふふふ。たしかにこれは魔道書・グリモワールだ…すごい…すごい量の魔法だった」
手に入れたものに喜びを隠せない。
ずっとモニターの向こう側にしかなかった『魔法』が今この手にあるのだ。喜ばずにいる方がおかしい。
と、そこにゲル状の生き物が現れる。
「おお!ちょうどいいひょう…て…き?ゲル状?ス…スライム?」
目の前にいるのはゲル状の生き物。ぬちゃぬちゃと音を立てながら動いている。
じっと見ていると、こちらに気づいたようで向きを変えてこちらへ迫ってくる。
(あ?まあいいやこいつに魔術を使ってみよう)
「闇にともる炎よ わが手に来りて 彼方を打ち砕かん 《ファイア》」
………………………………
切なかった。
それは家に帰ったら机の上にエロ本が置いてあるような。
自家発電していたら部屋に妹が入ってきたような。
家族でTVを見ていたら、ブラのCMが流れたときのような
親父の机の中からコンドームが出てきたときのような
そんな気まずい…痛々しい空気が充満していた。
ノリノリだったのが、わにかけて痛い。
(ちょっとなんで!?呪文噛まずにいえたよ!?何か間違っているの?この魔道書つかえねええええ)
そのとき、ゲル状の生き物はこちらに向かってだいぶしてきた。
とっさに命の危険を感じた徹は、横に倒れこむようによけることができた。
しかし、ゲル状の生き物の分泌物が少しだけ足にかかる。
ジュッ
何かが焦げる音がする。その音につられて足を見てみると足の甲が赤く焼けただれていた。
「いってえええええ」
あまりの痛さに叫び声を上げる。
ゲル状の生き物はそんな俺に絶好のチャンスと見たのか、再び突撃をかけに来る。
幸いなことに、ゲル状の生き物の突撃は外れて木にぶつかる。狙うがうまくいかないようだ。
しかし、ぶつかられた木は、焼けるようなものすごい音と共にとけだし、こちらに倒れてきた。
倒木をとっさによけたが、腕がかすってしまったのか、腕に激痛が走る。
ゆとりの中を生きてきた理性は、そこが限界だった。
「うわあああああああ」
知らないところに放り出された不安と命の危険と疲労で精神失調を起こした。
その場から、全力で逃げ出した。恐慌を起こした子供のようにめちゃくちゃに走った。
悪路をひたすら走る。だが、木の根や苔に足をとられて何度も何度もころんだ。
10分ほど走っただろうか、後ろからは何もついてきていない。
酸欠に陥った俺は、その場に手をついて大きく息をしている。何度も転んだため、体じゅう泥だらけだ。
(くそ!くそ!なんだよ、あの不思議生物!軟体動物のくせに動きが早すぎるんだよ!しかも魔道書も糞の役にも立たねえし!何かないのか!なにか!)
必死で現状を変える方法を考える。何か道具がないかポケットを漁るがなにもでてこない。-チリンッ
その時、イヤリングに手が触れた。
(これだ!あの変態自称神様にもらったピアス、あいつが本物なら何か効果があるはずだ。これはなんだ?グリモワールに何か書いてないのか?)
そう思った瞬間、頭に『グリモワール』から知識が流れ込んできた。
“工房”
“秘密基地”
名前と共に使用方法やその他の知識が流れ込んでくる。
「工房?秘密基地?これは、この『グリモワール』の製作者のものか?」
秘密基地の響きに心が少し踊ったのは男の子だからだ。
(とりあえず、秘密基地へ…)
先ほどと同じように手を胸の高さまで上げて前に突き出す。
「開門せよ そは阻むことなき 扉 《オープンゲート》」
その呪文が終わると同時に目の前の空間が湾曲し、人が一人通れる程度の楕円形の門ができた。
さっき魔術が発動しなかったトラウマのせいで、これが発動しなかったらどうしようと新底ビビっていた。そのため、無事魔術が発動して安堵している。
ぼおっとしていると目の前の門が閉まりだしたのであわてて転がりこむように中に入った。
中に入るとばしゅっと音がして門がしまった。
だが、そんなことに気づかないぐらい秘密基地に驚いていた。
「な…なんだ…これは?」
そこは先ほどのじめじめした森とは違い、さわやかな風が吹き、うららかな春のような日差しが降り注いでいた。
なにより驚いたのが、目の前にある塀によって全体をおおわれた家だった。
塀の真ん中にある門をくぐりぬけてみれば、そこにはあるのは純和風の1階平屋建ての建物であった。
左右を見渡せば、松、梅、桜といった木々が植えられており、丁寧に管理された庭が見える。
門から玄関まで敷かれている石畳を歩いて、玄関を開けるとそこには見事なまでの木造建築の家屋であった。
そこで、ふと自分の気持ちが平静を取り戻していることに気づいた。
「ここにいると、とても気が安らぐな…」
決して派手な装飾はない。だが、ところどころ花や絵画が飾っており寂しさも感じない。
古典だけではなく古今の礼典を知り、現代に適応した教養人が、その粋を集めて作り上げたような不思議な調和を持つ空間だった。
「この秘密基地をつくったのって、日本人なのか…?少なくとも、わびさびの日本文化をかじっただけの人間に作れるようなものじゃない…」
そこでふと自分の格好に気付く。森を駆け抜けていたので自分の体は泥だらけだ。しかも濡れており気持ち悪い。
そこで、誰もいない家に上がって風呂を借りることにした。
うん、お風呂もすごかった。
4~5人ほどいっぺんに入っても余裕そうな檜の香りがいいお風呂にシャワー、自動湯沸かし器まであった。
脱衣所には洗面台はもちろん、乾燥機とドラム式洗濯機もおいてあった。
「こ…ここってホントに魔術師の秘密基地なのかよ…」
その呟きは誰にも聞かれることはない。
「はー、すっきりした」
服を洗濯機に放り込んで回すとさっさと風呂に入った。
さすがに湯船に水を張るほど時間はなかったのでシャワーだけだったが、おいてあるシャンプーだの石鹸だのは超高級品だった。
洗濯機がまだおわっていなかったので、この家の元の持ち主の服を借りてきている。
(ちくしょう。この人、俺より足長いじゃないか…サイズは一緒なのにさ…)
システムキッチンに行き、水を一杯入れてから今に戻ってきた。
コップの水を半分くらい飲むと一息いれる。
一息いれると、思考能力が戻ってきた。
まず、外は危険だということ。日本ではない可能性が高いということ。でも日本だって可能性も残っているよ!
とりあえず、この秘密基地は安全で住みやすいということ。先ほど確認したら、食糧が唸るほどあった。
(電気ガス水道はどこから引いているんだろう。外には何もなかったはずだけど…)
そこまで考えていると、精神的な疲れのせいかまたは安心したせいか眠気が襲ってきて、眠りこけてしまった。