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ガラスのハート

作者もね!


お気に入りが100超えた―ヾ(*・ω・)ノ゜+.゜★ィェィ☆゜+.゜ヾ(・ω・*)ノ

徹は意を決して、チェイサーに向かう。ステータスが強化された肉体に、『身体強化』乗せた突進は、今までの比ではないほどのスピードを持っていた。


「あぶない!」


おやっさんの声か、ゲオルグさんの声かわからなかったが、その掛け声に徹はぎりぎり止まることができた。

目の前をチェイサーのアルメドシリーズが通り過ぎる。実際に触れることはなかったが、風圧が頬をたたく。

アルメドシリーズは徹の体を切り裂くことはなかったが、心はぼろ雑巾のように切り捨てられていた。

まるで背中が凍りつくような恐怖が徹を支配する。これまで、格下いじめしかしてこなかった徹にとって、命のやり取りなんて初めてだ。

先ほどの一振りは、命のやり取りをしていることを徹にわからせる(・・・・・)には十分なほどであった。


(やばい、やばい。やばすぎる。これは、恐怖で体が動かないのか?)


体は正直に恐怖の感情に反応する。唇からは血の気が引き。手は震える。

徹の意志では体は動かず、完全に棒立ちで立ち尽くしている。

チェイサーもいきなりの徹の棒立ちにいぶかしみ、攻めあぐめていたのが唯一の幸いであった。


(次に、チェイサーが来たら死ぬ…はやく‘あれ’をやらないと…)


徹だって、自分がこれまで平和な世界で生きていた自覚はあった。恐怖にとらわれてしまう状況も想定の範囲内にある。

しかし、恐怖は感じていても全く体が動かなくなるということはまるで想定外の出来事である。

チェイサーは徹の状態が恐慌を起こしているだけだと悟り、アルメドシリーズを振りかぶる。

徹はとっさに反応して、無謀にも腕でその攻撃を防ごうと腕を上げた。

恐怖で集中が切れ、『身体強化』も解除されたのに防御が間に合ったのはステータスを上げたおかげだといえよう。






「カーマ!」


リンの悲鳴が上がる。

当然だろう、徹の装備は軽装。ゲオルグさんの鉄の盾すら叩き割ったアルメドシリーズのことを考えれば、徹が内臓をまき散らす未来しか見えない。


キィィィイイイイイイイイイン


可聴域ギリギリの高音がコダマの様に迷宮内に反響した。

あまりの音の暴力に3人は顔をしかめるが、その中何かが壁にぶつかる鈍い音がした。


「ぅぐ…」


うめき声に反応すると、そこには徹がうずくまっている。

リンはその光景にホッとすると同時になぜという疑問を抱いたのは無理もないことだろう。

徹の着ている防具は、見た目はおしゃれ着であるが、心の師匠たる神崎さんの愛用していた逸品であり、その防御力は魔道具といったレベルではなく、神々の遺物の域まで達している。

そのために、超音波振動ブレード程度の獲物では、傷物にできるような代物ではなかった。

一見、普通の服に見えるために、リンからすれば鉄よりも固いなどとは想像もできない。







(い…生きている)


神崎さんの残したコートが、チェイサーの斬撃を防ぎ、打撃を軽減してくれたため、骨や筋肉に異常はない。

だが、それでも壁にたたきつけられただけあって、痛いものは痛い。


(だけど、痛みで恐怖が幾分か薄れた…いまのうちに)


徹は左手の親指で、自分の胸をつく。ちょうど心臓がある部分だ。

その行動がトリガーになり、人格が変わる(・・・・・・)

これは、昨日までロクにケンカすらできないような人間が、すぐにもキラーマシーンに替わる技術。特に魔術とは関係がないが、これもグリモワールに記載されていた。

いや、ただ記載されているのではなく、習得することが当たり前という基本技の扱いを受けていた。

自分の中に下位人格を作る。それも、戦闘向けに感情といったものを持たない人格。この場合、オリジナルの人格と同じ記憶を共有するために解離性同一性障害といった方がいいのかもしれない。

ただ、いわゆる精神病である解離性同一性障害では、症状の進行と共に人格が増えて収拾がつかなくなるために、この技術では一工夫が置かれて任意でしか人格が増えないようになっている。

まるで、狂気の産物だが、あいにくとグリモワールにとって、狂気などの善悪など取るに足らない些事(さじ)に過ぎなかった。


(ブースト)


改めて身体強化をかけ直し、顔を上げるとそこには、チェイサーのアルメドシリーズが迫っていた。

生きている徹を確認してとどめを刺しに来ているのだ。

それを認識した徹は壁を蹴って脱出する。

途中で、先ほど弾き飛ばされた際に、手元から零れ落ちた愛刀『月』を回収する。

チェイサーが、先ほどの攻撃から態勢を整えなおす前に、チェイサーの後ろに回り込むことに成功していた。

身体強化におけるAgiの上昇が、身体強化時の上昇の底上げをしているようで、昨日の約130%の速度で動けている。

チェイサーが徹の方を振り向いていないのをいいことに、チェイサーのひざ裏にけり足を入れる。

鈍い音が響き渡り、チェイサーがバランスを崩したことを確認すると、徹はいったん距離をとった。


「おやっさん、あいつから逃げられるか?」

「無理じゃな。5Fにはまだモンスターが残っているじゃろう。あれに足止めされているうちに後ろからグサッていうのが落ちじゃな」

「わかった。ならば、あれを排除する」

「できるのか?」

「ああ、方法はある」


そうつぶやくと、徹はチェイサーに再び向かっていく。

その姿は先ほどの焼きまわしの様であった。

そして、再びふるわれるアルメドシリーズ。その攻撃に対して徹は、間合いを取るのではなく、踏み込んで避けた。

チェイサーの懐に潜り込むことに成功した徹は、ボディに重い一撃を放つ。

その一撃は鈍い金属音と共に、チェイサーの体が軽く浮かび上がる。

だが、チェイサーは痛みを感じた様子もなく、ひじ打ちで徹の頭部を狙った。

徹は、その攻撃を予想したかのようにバックステップでよけ、間合いを取る。

睨み合う形となった二人だが、チェイサーの腹部にはきれいに拳の形の後がついていた。







「なあ、キャラ変わってないかあいつ」


リンよる治療を受け、左手に包帯を巻いたゲオルグさんがぼやく。


「そうじゃなあ…軽薄さがなくなったっていうか、剽軽(ひょうきん)さがなくなったというか、雰囲気が薄くなったというか…あんなのワシのカーマちゃんがじゃいのお」

「そうだよな。あいつはこう、ちょっとバカなところがいいだよな。あれはいかん、あれは…」


二人の場違いな会話に、リンがキレた。


「ちょっと二人とも!そんなこと言っている場合じゃないと思います!はやく加勢しないと!」


しかし、おやっさんたちの反応はリンが期待したようなものではなかった。

二人とも痛いほど理解している。今、目の前で行われている戦闘に援護すらできるほどの能力がないことを…


「いや、俺じゃあ無理だ。左腕もこのざまだし、第一あの攻撃をかいくぐって攻撃を当てることなどできん」

「ワシもだな。槍が切られた時点で、もうただの老いぼれになっただけだ」

「でも・・・」

「大丈夫だ。あいつは口だけじゃない。今も優勢に戦っている」

「リンは加勢するなよ。今加勢してもリンの実力では邪魔にしかならん」


おやっさんの言葉に、リンは静かにうなずいた。リンもだんだんと理解していた。

桁外れに良い装備。常識外の魔術。死すらも恐れず戦いに身を投じる精神力。

どれも、自分が持ってないものだった。

目の前の男は、自分のはるか先を走っているという事実を。




徹は理解していた。

桁外れに良い装備。常識外の魔術。死すらも恐れず戦いに身を投じる精神力。

どれもこれも、神崎さんの粗悪な模倣品(デッドコピー)でしかない現実を。

チェイサーと徹の死闘は続いていた。

本来ならば徹が劣勢に追い込まれるだろうその戦いは、たった一枚の布切れがアルメドシリーズの剣戟をはじくことにより徹の優勢に事が運んでいた。

徹は、アルメドシリーズの剣戟をよけ、あるいは受け流し、少しずつチェイサーにダメージを与えて行った。

いまや、チェイサーの体表には無数の拳の後が残っている。

それでも、チェイサーは動きが鈍ることはなかった。

それは徹も同じであった。

徹の(まと)うコートがいかに斬撃をはじき、打撃を緩和しようと少しずつダメージは蓄積される。

すべての攻撃をよけきれない徹の体には、無数の打撲ができていた。

しかし、感情をそぎ落とされた下位人格は痛みを感じていても、稼働可能である以上動きは鈍ることはない。

それは人間特有の瞬間の判断において、恐怖や願望による揺らぎがないためだ。

常に己が取れうるベストな行動がとれる。

筋肉が切れたり、骨が折れたりしない限り、徹の動きが制限されることはない。


チャイサーはアルメドシリーズを振り上げ、八相の構えより剣を天に向かって突き上げ、腰を低く落とした蜻蛉の構えをとる。

それは、薩摩藩に伝わる示現一刀流の構えに似ていた。

相対する徹は、腰を低く落とし腰だめに愛刀『月』を構える。

一瞬即発の空気が二人の間に流れる。

無言で対峙する二人であったが、先に仕掛けたのはチェイサーの方であった。

もともと、示現一刀流は『先手必勝』の気構えの剛の流派である。後の先をとるような華麗でお上品なものではない。

『速く、髪の毛一本分だけでも速く打ち込むべし』の言葉通り、打ち下ろされたその剣は今までのどこ攻撃よりも迅かった。

だが、徹は裏切った。まるで打ち合うかのような姿勢を表していたが、アルメドシリーズと『月』が打ち合うことはなかった。

徹は、振り下ろされるアルメドシリーズを左腕(・・)で受け流したのだった。

確かに、徹の防具は斬撃を通さない、だが無傷で受け流せるほど甘い一撃ではなかった。


ゴズッ


嫌な音を立てて左腕が折れる。その代償は太刀筋をそらすことだった。

伸びきった体、伸びきった腕。その致命的な隙に、徹はチェイサーの手首にある関節部に愛刀『月』を突き刺す。

その状態から力任せに振りぬけばチェイサーの右手が飛んだ。

それでも足りぬとばかりに左手首にも切りつける。それは、手首半ばまでしかきれなかったが、左手を使用不能にするには十分だったようだ。

チェイサーの手からアルメドシリーズがけたたましい音を立てて落ちる。

徹はチャンスとばかりに、攻撃の手を緩めなかった。

腕をつたって駆け上がると、その般若の面に向かって折れた方の(・・・・・)腕で肘鉄を入れる。


パキンッ


木の割れる子気味のいい音が響くと、その能面の下からは兜の中にテルテル坊主の頭が詰め込まれているような不気味なものがのぞいた。

その不気味な物体に間髪入れずに愛刀『月』を刺す。それは、予想していたような金属の抵抗はなく。驚くほどぬるっと差し込まれていった。

刺されたところからは紅い液体が滴り、覆う布を赤く染めていく。それは、愛刀『月』を引き抜いてからなおひどく。

徹が地面に着地した時には、もともと赤い布であったかのように染め抜かれていた。







「勝ったのか…」


ぽつりとつぶやいたのはおやっさんだった。この中で、唯一チェイサーの討伐経験があったのがおやっさんだけである。

そのために、チェイサーとの戦闘の終了の空気がわかる。それと同時に、単独でのチェイサー撃破がどれだけ馬鹿げたことかも理解していた。

目の前で、チェイサーがバランスを崩すとふらふらっと2・3歩後ずさり、どさっと壁に寄り掛かった。


(俺の現役に戦った時は、8人でよってかかって2時間近くかかった。しかもあの時は3人も人死にを出したというのに…)


その時、チェイサーのもたれかかっている壁が発光すると、まるで泥沼に沈んでいくようにチェイサーが壁に溶け込んでいった。


(回収しおったか…迷宮もチェイサーだけの扱いは丁寧だからな…)


視界の中で徹の背中が(かし)ぐ。

まずいと思う暇もなく、徹の体が地面に崩れ落ちて行った。

あわてて駆け寄るが、先に駆け付けたリンが、その顔を見て安堵している。

ただ気絶しただけだったようだ。

武器もろくなのがない。戦利品の馬鹿でかい剣もある。担いでいかなきゃいかん野郎もいる。

そんな、面倒な帰り道を思ってもなぜかおやっさんの口には笑みが浮かんでいた。


(これだから、訪問者(ヴィジター)は楽しくてなかなかやめられんのじゃよ)


戦闘がシーンが書けない…どうやってごまかそうか悶々としてます

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