ひとを見下していたい
初めて感想いただいて舞い上がってしまいました。
実は筆不精なので、何かいていいのか…え?本文?これは妄想垂れ流しです
「おい、くせーぞ」
訪問者ギルドでの歓迎の言葉がそれだった。
「ったく、ここに来るやつらは迷宮帰りが多いから多少は仕方ないが、ゾネはひどすぎるだろう」
「うるせえ、ゲオルグ(ひまじん)。カーマを連れて迷宮に入ったら洗礼を受けたんだよ!」
洗礼とは、小玉鼠による自爆のことである。
小玉鼠は弱くレベル1の初心者でも安全に狩れる。
しかし、小玉鼠には敵に驚かされたり、自分の体力が少なくなったりすると自爆して臓物をまき散らすという地味に嫌な特性がある。
小玉鼠の対処法や、攻撃力が弱い初心者は必ずと言っていいほど迷宮で臓物まみれになるために、誰もが通る道として、洗礼と呼ばれている。
「それにしちゃカーマはきれいだけど?それよりも、そのレベルで洗礼受けるってのも恥ずかしいな!明日の新聞の一面はそれだな!祝!ヴァニル・クランマスター洗礼を受ける!どうよ?」
「その情報は、俺が商店街の方にリークして大弾幕作っといてもらうからいいとして…」
「やめろ!まじでやめろ!」
「腹減ったから、さっさと換金してくれないか?」
「もう、迷宮に行ってきたのか?後ろの嬢ちゃんたちも同じ換金か?」
「今チキチキ迷宮金稼ぎレースしててね。その帰りってこと。別々に換金よろしく!結果発表は酒場でだから内緒にしてくれい!」
ゲオルグはわかったと換金のカウンターを親指で指す。
そこには、丸々と太ったおばちゃんが暇そうにしていた。
リンと徹はカウンターの前に、今日の稼ぎを袋に入れて持って立っていた。
リンの袋はこれでもかと硬貨が入ってぎちぎちになっている。一方、徹の袋にはもうわけ程度にしか入っていなかった。
それをカウンター越しににやにやとおやっさんがながめている。
二人の後ろでは、それぞれのパーティがこのイベントの結果を楽しそうに待っていた。
賭けの倍率はリン1.7の徹2.6らしい。祭りを見ていたメンツは徹に、それ以外はリンにかけたようだ。
「ほう、二人とも自信満々て、面じゃねーか。ワシとしてはリンに勝ってほしいんじゃけどな」
おやっさんはそういいながらちらっと徹を見る。
「こっちみんな!」
「そういうな。別に勝敗関係なしに一晩付き合ってくれてもいいんじゃよ?」
「やめろ!一般人には手を出さないんじゃなかったのかよ!」
「同意があれば問題ない」
「たち悪いなおっさん」
そんな徹を豪快に笑い飛ばすおっさんは徹の中のホモに対するイメージと全く違った。
もっとなよなよした男の娘みたいなイメージだったのが崩壊してく。
「別にこの男が、ホモだろうが変態だろうがどうでもいいのよ。さっさと終わらせましょ。これが私の稼ぎよ」
リンは、そうたかだかに宣言すると、金貨袋の中身をカウンターに開けた。
それは、大量の銅貨と数枚の銀貨だった。
それをおやっさんは慣れた手つきで計算していく。
「ふん。銀貨3枚と銅貨67枚だな。この稼ぎってことは2Fまでいったな?」
その質問にリンはうなずく。
「な…にい…!?」
徹のうめき声は、酒場を支配していた意志を体現したものだった。
ヴァニル・クランでは完全な初心者が所属することはほとんどない。
それはクランが初心者お断りとしているのではなく、本拠地にある宿が最低でも銀貨2枚ということもあり、これが払えない人間ではクランでやっていけないからだ。
この金額を稼げるころにはすでに駆け出しは卒業している。
訪問者になって1週間という初心者にもかかわらず、この宿代をはるかに超える金額を稼いでいるリンはすでに初心者を卒業しているということになる。
逆に言えばこの条件がクリアできるからこそ、初心者にもかかわらずヴァニル・クランに所属できたといえる。
「わかった?これが実力の違いってものなの。わかったらあきらめなさい。いまなら、這いつくばって謝れば許してあげてもいいわよ」
リンは完全に勝ち誇っていた。
「くっ…」
「おい、カーマ。負けを認めるのは勝手にすればいいが、賭けの結果もあるからとっととその袋の中身を出せ」
(畜生、あけすけに賭けやがって!もっとオブラートに包めよおやっさん)
徹はおっさんの言葉にうなずきながら、金貨袋をさかさまに振った。
重い音を響かせて、金貨袋からこぼれ落ちた5枚コインはカウンターを転がった。
「俺の今日の稼ぎは金貨5枚だ」
「「「「「「「ハァアアアアアアアア?」」」」」」」
酒場には絶叫が響き渡った。
金貨5枚は、クランマスターであるゾネならば1回の迷宮探索で簡単に稼いでくる額ではあるが、それは入念に準備してパーティを組んで入った時の話だ。
ぽっと出の初心者が、ちょっとそこのコンビに行ってくる程度の感覚で稼いでいい金額ではない。
(んはあああああああ。きんもちいいいいいいいい)
そこには、ドヤ顔の徹と驚きでフリーズしたリン、ついて行けないオーディエンスにため息をつくゾネとアニタの姿があった。
「あらー、雌豚さんさっきなんておっしゃっていましたっけ?這いつくばって謝れば許す?なんてお優しいこと、私感動してしまいましたわん」
徹はキモめの猫なで声をだして、煽っている。
「な…なによ…あんたさっきまで、驚いてたじゃない…」
リンは下を向いて顔を真っ赤にさせながら震えていた。
「そりゃ、決まってんじゃん。様式美だよ?もしくはあげて落とすともいう。基本だよね!生きていく上では!」
「ふざけんじゃないわよ!なに!?ずっと私のことを馬鹿にしていたわけ!?実力もないのにわめくバカって!」
「うーん!!!」
徹は満面の笑顔でリンの怒鳴り声に返事をした。
予想外の返答だったのかリンは面食らった顔になっていた。
「だいたい、初対面の人間に向かってあんな暴言を吐くなんてどうかしているよ?それも、相手を心配するということを言い訳にして、他人をコケおろして自分のプライドを満たそうとしたよね」
声のトーンをいきなり落としてとうとうと語る徹に、その雰囲気にのまれ、リンは歯をくいしばって耐えていた。
さっきまであった軽薄さを全く感じさせないその口調は、一言一言リンの心をえぐった。
「そんな醜悪な人間に対して、何に気を使えっていうんだい?」
「カーマ!エルフというのはプライドの高い種族でね…」
その光景に耐えられなかったアニタがなんとかフォローを入れようとする。
しかし、それはフォローにはなっていなかった。
「へえ、プライドが高いんだ?人を見下すことしか知らない雌豚ちゃんは全然エルフっぽくないね。あそっか、雌豚だもんねー。エロフじゃなかったよね、ごめんごめん」
こうして、徹によるネチネチっとした説教は30分ほど続き、リンが泣いたことによって終了した。
それは、パンチパーマで紫の服を着たおばちゃんが、家の前の電柱におしっこをひっかけた犬の飼い主にネチネチと苦情を言っているようだったという。
結局泣き出したリンは、アニタに連れられて宿の部屋へ行き、残された徹は、ゾネによって『やりすぎだ』の一言と共に一発殴られたのだった。
時間は少しさかのぼる。
徹とリンがそれぞれ、今日の獲物を換金している間に、ゲオルグ、ゾネ、アニタの中年トリオはやや深刻そうに話をしていた。
「で、あの二人な何を争ってんだ?」
事情を知らないゲオルグが、野次馬根性丸出しで聞いていた。
「ああ、ささいなことさ。カーマのステータスが低いとかそんなことが発端だった気がするけどな」
「ええ、この勝負でまけたら、相手の奴隷になるそうで、二人ともがんばっていましたよ」
「はあ?奴隷だと?なぜ、止めなかった!そんなのギルドとしても認められんぞ?」
訪問者が、訪問者を奴隷として売却または手に入れる時にはギルドの査定が入る。
これは、その奴隷になった経緯に不正はないかを調べ、詐欺まがいの方法であった場合は、その奴隷をギルドが取り上げ解放し、仕掛け人にはペナルティを課す。
迷宮に潜る人を減らさないための対策でもある。
そう簡単に訪問者が、減ってもらっては困るのだ。
「いやー、まあいろいろとあってなあ」
「ゾネは、止めるどころか煽っていましたからね」
アニタは徹がクランに入ったことも今回の勝負事も気に入らなかったので、ついついゾネに不満が漏れてしまう。
だが、それは、次のゲオルグの言葉によって驚愕に代わる。
「煽っただと?馬鹿な、お前はリンを次のギルドマスターに考えていたはずだ。それを風来坊のあの野郎にやるっていうのか?もう、耄碌したのか?」
「まあ、そうなんだがよ。まあ大丈夫だって、話したらどうせ奴隷にできるなんて思ってないから好きに育ててやってくれって言ってくれたしさ。奴隷とかにはならないよ」
(えっ?ゾネがそんなことを考えていたの?うんう。それよりなんで、この人たちはカーマの勝ちを疑わないの?)
「まって、リンだって優秀よ。現にさっきだって2Fで狩りをしていたのよ?なんで負けることが前提なの!?」
「2Fね。訪問者になって1週間で一人で2Fを狩場にできるなんて、さすがというべきだな。それでもだな。おい、ゾネ。教えてやんな。カーマが何層で何を狩っていたかを」
アニタは、怖かった。
徹のステータスを考えても、今日登録したばかりだという事実を考えても徹が1F以外で狩りをしたとは考えづらい。
しかし、アニタはじっとゾネが口を開くのを注視してしまった。
「8Fで、カク猿を狩っていた。どいつもほぼ一撃で倒していた」
「ありえない!カク猿といえば1対1ならまだいいですが、群れならば、中級のパーティでやっと倒せるかってレベルですよ!?」
「ありえない。そう、ありえないけど、これが事実なんだよ」
ゲオルグとゾネが楽しそうに笑っている。アニタの反応が楽しくて仕方ないようだ。
その反応がアニタを一層怒らせることになった。
「なら!それほどの実力があるというのならば、なぜ次期マスターにしないのですか!?」
「あれはそういうのじゃねえな」
「まあリンとは違うからな。いつかいなくなる男だ」
「将来別のクランに移るだろうと?ならばなぜそんなのを勧誘して育てようとするのですか!」
「ちがう、ちがう。あいつはそんなことをするような不義理な奴じゃない。もう、ヴァニル・クランから他に移るなんてことはしないさ」
ゾネはあわてて、訂正をする。
アニタには、上位クランのマスターであるゾネや古だぬきと恐れられるギルドの長であるゲオルグがなぜこんなにも徹に入れ込んでいるか全く理解できない。
「嬢ちゃんには理解できないのかもな。カーマは、訪問者になったことすら、ちょっと面白そうな店を見つけたから冷やかしに入ってみたくらいの感覚なんだよ」
「冷やかし…ですか?普通は訪問者になったら、死ぬか引退するまで訪問者なのですが…」
「普通じゃねーんだよ、あいつは。そういうことで、カーマとリンだったら、絶対にリンの方にマスターとしての素質はある。カーマにはそう言うものを要求すること自体が間違っているってレベルさ」
「そうだな。カーマは、ふらりとあらわれて、またふらりといなくなるような奴だからな」
「全くだ。とりあえずは迷宮に興味を持っているし、しばらくはいるだろうがな」
「あいつがいれば、来年の祭りは余裕なんだろうけどなあ」
「おいふざけんな。いたら商店街で出すに決まってんだろうが」
まるで、来年には徹がいないような会話をしている二人を見ながら、アニタには二人が何を言いたいのかわからなかった。
ただ、ゾネとゲオルグには、カーマには別に大きな目標があることを見抜いているだけの話ではある。
それは、ここに骨を埋める―迷宮とともに生きて迷宮で死ぬ覚悟の人間とまだ旅の途中で迷宮に立ち寄っただけ人間との差だった。
しかし、アニタにも一つだけわかったことがあった。
それは、上位クランのマスターやギルド長といった人生の成功者たちが、本気で徹の生き方をうらやましがっているということだった。
わーい、ストック切れたぞお~~┗─y(;´Д`)y─┛~~.