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プロローグ

性懲りもなくまた異世界ものを書き始めました。

見切り発車ですが頑張ります

―ふふふ、やっと見つけた。


その男は古代ギリシャ人のような恰好をしていた。しかしひときわ目立つのは頭に生えた耳と臀部にぶら下がる尻尾だ。それは、オオカミのようなものに見えた。


―今度は絶対に失敗しない。彼こそが…


それだけ言うと、その人(?)は闇夜に溶けて行った。





プツン

TVの電源が落ちる。今は深夜の1時半。深夜アニメが終わった時間だ。

最近何をやっても面白くない。ただ惰性で、アニメをみて、ゲームをやっているだけだ。

食事をするのもおっくうになってきている。それでもおなかは減る。

さっき体が空腹を訴えかけてきている。空腹に嫌気がさして立ち上がるが、料理なんてやる気が起こらない。

ネット通販で大量に購入した人用TMR(完全栄養飼料)-カ○リーメイトをひと箱と500mlのペットボトルを手にパソコンの前に座った。

つけっぱなしのパソコンからニコニ○動画を開き、適当にランキングで気に入った動画を開く。そのまま、ボーっと動画を見ながらエサを胃にいれていた。


俺の名前は香山 徹。今年で25になる。

いわゆるニートってやつだ。一応大学を出て工場に就職した。

適当な大学しか行ってなかったので、就職活動は予想以上にしんどかった。結局内定を取れたのが安月給の工場だけだったというわけだ。

2年ほど続けたそこも今から3か月前に辞表を提出してきたところだ。

今は失業手当と親の仕送りで生活している。

次の就職先を探さなきゃいけないのだが全くやる気が起こらない。それどころか自分の家から出る気も起らない。

なんでそんなふうになったのか親にも言われたが、考えるまでもない。俺には分かり切ったことだった。



始まりは中学1年生のころ、中学に上がって2次性徴を迎えたころ。

性へ目覚めというやつか、友達同士でエロ本を持って集まって自家発電の練習(・・)をしていた時だ。

友達の液体は白いのに、自分のだけ無色透明だった。

その時はまだわからなかったが、事実を突き付けられたのは高1の時だった。

病院へ行って『非閉塞性無精子症』と診断された。

あの時のショックはどれほどだったか…将来好きなことの子供をつくるという夢が破れたのだ。それ以降の世界観すら変わった気がする。

その後も、将来の夢を見つけて努力した。だけど、大学受験に失敗。滑り止めに入学し、今に至る。

工場では一生懸命働いたが、ふと10年後、20年後もこのままだと考えると生きていることに嫌気がさした。

そして、家にこもった。一人暮らしで友達もいないために、この3か月はほとんど人としゃべっていない。


(あー、隕石でも落ちてきて俺もろとも死なないかな…)

自殺する気力もない。ただ、事故で自分が死ぬことを願う日々だった。



夜食のついでに見ていた動画を惰性でそのまま見ている。

なんとなく眠気が襲ってきたので、PCを落としてベッドに転がり込んだ。

不思議にもすとんと意識は落ち込み、ブラックアウトしていった。





―ふふ、どうやら彼は眠ってしまったようですね


マンションの上に古代ギリシャ人の格好をした男が降り立っていた。

男は徹の部屋のベランダから窓も開けずに(・・・・・・)侵入し、何かを抱えて出てきた。

ベランダから飛び上がると、男は再び闇に消えて行った。




バチン

大きな音に驚いて目が覚める。急な覚醒で心臓がバックンバックンいっている。

まずは、荒れる心臓が収まるまでしばらく待った。

ようやく余裕ができて周りを見回してみると、そこは慣れ親しんだ自分の部屋ではない。

むしろ、部屋ですらなかった。

そこには何もなかった。空も地面もない。なぜ自分が落下しないのかすら不明だった。


「ここはどこだ?」


自然と口から零れ落ちる疑問。


「ここは、急増で作った世界ですよ」


それに答えが返ってくる。

目の前には古代ギリシャ風の服を着た男が立っていた。その男にはオオカミの耳としっぽがついている。

髪が長いので、普通にあるべき場所に耳があるのか確認はできない。


「どちらさんで?」


思わず、目の前にいる獣人(?)に聞いてしまった。

コスプレしているような奴だから頭がわいているのは確定だが、何かを知っているとしたらこいつしかいない。


「ふむ。人に名前を尋ねるなら自分から名乗るのが礼儀だと、このパターンでは言うのかね?私の名前は、ヴォルフだ」

「あ、いや。俺は、香山 徹といいます」


なんだか、このコスプレ男の雰囲気にのまれる感じで答えてしまった。

だけど肝心な聞きたいところが一切わからない。


「ふむ。そうだな、貴殿は私がどのような存在なのか気になるといったところか。だが説明は難しい。私は貴殿が認識しうる存在ではない。近いものといったら、そうだな神とか鬼とか言ったら近いだろうか。いや、この世界では九十九神といった方がいいか…」


最悪だ。コスプレ男は完全にあれが決まった痛い人だった。


「そんなことより、ここはどこなんだ?」

「ふむ。先ほども言ったように、私が作り出した急増の世界だ。だから空間だけあってほかに何もない。まあ私の用件が終わったら消すのだから作る必要はないがね」

「は?」

「ふむ。信じられないか。まあ、それもよいだろう」

「おーけい、あんたの言っていることが正しいとしよう」


(全く信じられん奴だ。だがとりあえず帰る方法を聞かねば…)

俺はとりあえず、目の前のヴォルフという自称神をおだてていろいろ情報を聞き出すことにした。


「どうやったらここから出られる?どうやったら家に帰れる?」

「ふむ。貴殿が現段階で、自力でここから出るのは不可能だろう。それにそもそも、帰りたいのかね?」

「えっあ…」


核心を突かれた。

俺は自分が見ず知らずの場所にいる不安から無意識に回帰を意識していた。だが、改めて本当に帰りたいかと聞かれればNOだった。

あんな、夢も希望もないようなところに帰ったってやることはない…


「ふむ。だが貴殿の気持ちもわからないではない。貴殿が置かれている状態は自分のキャパシティを超えている。不安になるだろう。てっとり早く私の用件を終わらそう」

「用件…だと?」

「ふむ。なかなか協力的になってくれたね。貴殿には魔法使いになっていただく」

「はあ?馬鹿じゃねーの?そっかあれか、俺はもうDT卒業してっから魔法使いにはなれんよ」

「ふむ。それはあれかね30で魔法使い。40で大魔法使いといったのだったかな?君は素人DTだったね。もうなれないということか」


自称神様のくせに俗っぽいこと知ってやがる。


「な…なんでしってやがる!」

「ふむ。この星だけでも80億以上いる人間の中で貴殿を選んだのだ。それくらい調査する。実際のところ、貴殿がDTだろうが、短小包茎だろうが関係ないのだがね」


糞ったれが…だが俺を選んだだと?

テンプレ勇者的なあれなのか?

少し期待に胸がわくわくする


「ふむ。それで、貴殿が魔法使いになることだが、私が自ら手取り足取り教えるわけではない。貴殿にはこの『グリモワール』を与えよう。後は『グリモワール』に沿えば魔法使いになれるだろう」


そう男が言うと俺と男の間の空間には1冊の本が浮かび上がっていた。

グリモワールといえば日本ではたしか、魔道書とか魔術書とか訳される奴だ。


「これは…本物?」


うめくようにつぶやく。

そこには豪華に装飾されたA4サイズのハードカバーの本が1冊浮いていた。

すこし手を伸ばせば届く距離、だたなぜか神々しくうかつに手が伸ばせない。


「ふむ。偽物だ」

「は…はい?」


騙された。やはりこいつはただの変人か…

このグリモワールを見た瞬間俺はヴォルフの言ったことを信じかけていたというのに…


「ふむ。やはり、こういうものは人を信じさせる効果があるのだな」


ヴォルフは確かめるようにいった。


「申し訳ないが、今渡そうとしている『グリモワール』は本の形をしていのでな。貴殿たちのいう情報媒体といったところが近いか。説明するよりは感じた方が早いだろう。今渡そう。そうそう、それとこの魔道具も上げよう。必ず役に立つ」


そういって、紅い何の石かわからない宝石の埋め込まれたピアスを渡してきた。

だんだんとわかってきたことだが、ヴォルフはあまり説明というものをしない。むしろする気がない。勝手に分かれというタイプなのだろう。

ヴォルフと俺の間にはかなり距離があったはずなのに、ヴォルフがセリフを言い終わると目の前に立っていた。

そして、ヴォルフが俺の額に触る。

その手は、やさしく、温かく、そして先ほどの幻であった『グリモワール』から感じたものと同じ神々しさを感じた。

その手を感じながら思う。


(もしかしたらヴォルフが言っていたのは本当のことなのかもしれない…)


その瞬間、体のすべてに激痛が走った。


「グィヤアアアアア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」


口からは悲鳴が零れ落ちる。だが体は一切動かない。

固定されたかのように額にヴォルフの手が置かれている。


「ふむ。言い忘れていたが、『グリモワール』は魂に情報として渡す。多分慣れていないだろうから激痛が走るだろうが、適当なところで気絶するだろうから気にしなくて大丈夫だ。死ぬわけではない。そうだな、ついでに貴殿の体も若返らしておこうか。すでに全盛期は過ぎているようであるしな。15歳程度でどうだ?」


(先にいえよ。この変態クソ野郎があああああああ)


声にならない叫びを叫んで、俺の意識は再びブラックアウトしていった。

もちろん、後半の若返りうんぬんは聞こえていない。




彼-香山 徹と名乗った人間は、『グリモワール』の受け渡しの途中で気絶した。

もともと、魂をこんな扱いすれば激痛が走るのも当たり前だった。

ほぼ力技で『グリモワール』を彼の魂の中に入れたせいだ。結果は大成功だったが。


―あの方であれば、痛みなど感じさせずにやってしまわれるのでしょうね…


『グリモワール』の受け渡しは終わったが、このまま彼をここに放っておくわけにはいかない。

かといって、彼の生きていた世界に戻したところで意味がない。あの世界-あの国は平和すぎる。


―さて、彼を育てるためにはどこの世界がいいのでしょうかね?


気絶してぐったりとしている彼を持ち上げ、適当に命の危険がある世界に放り込む。


―あなたには期待しておりますよ。香山 徹さん


―戦神とまで呼ばれたあの魔法使いに届くまで、あがいてくださいね


そういえば、30で魔法使い、40で大魔法使い、50で大賢者でしたっけ?

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