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THE★掃除

遅れた人



 ちゃんと、あの壺は回収しておいた。――――お嬢様によると、あの壺はロズワルド・ジッキーニ伯作の壺で、王家に代々伝わっている家宝中の家宝だったそうだ。

 改めて、侍女長に見つからなくてホッとする。


 

 大体、家宝をあんな所において、その上萎れてフニャフニャのマーガレットを生ける奴も生ける奴だ。私みたいな侍女が、居ると分かっているだろうに。


 

 ……でもついつい、あの壺、売ったら何円位になったのだろう?――――と考えてしまうクセは直せない。

 どーせ、私は貧乏公爵家の三女で末っ子ですよー。


 

 投げやりに箒を動かす。只今、以外に散らかっている、お嬢様の部屋の掃除中だ。あちらこちらに埃が積もっている。くもの巣だって、所々に蔓延っているのだから、どれ程汚いのかは想像がつくだろう。


 

 あれ、この前掃除したのは、いつ頃だったかしら。一週間ほどは絶対に掃除してないから……? でも、一週間で、良くここまで汚くなったねぇ。


 

 頭の中に『チムチムチェリー』のBGMを流す。残念なことに、私は煙突掃除屋さんではないのだけれど、箒を持ってて、掃除をしてたら全部『チムチムチェリー』じゃね?


 

 私がそう思って鼻歌を歌っていると、ノック音が聞こえ、「失礼します」という声と共に、運命共同体の姉、貧乏公爵家の次女、スペードが入ってきた。


 

 何で私も姉も、男の名前だって? だから、私とこの姉は運命共同体って言ったでしょう?


 

 姉は私を見ると、吃驚したようで目を丸くした。


 


「あれ、ジャックじゃない。早いわね、貴方掃除きr――――」




「何を言ってらっしゃるのですかお姉様。私は掃除が大好きですよ?」



 

 ニッコリ笑って、スペードの声を遮る。誤解を生む発言は控えていただきたいものだ。何たって私は、掃除が大の大の大好きなのだから、ね。そもそも金目当てで性格を偽り、趣味も偽って、お嬢様の侍女をやっている訳じゃ、消して無い事だから。

 

 

 でも、まぁ、金は要るものでしょう。カッコつけて「釣りは要らねぇぜ」と言って生きていける世界では、消してないのだ。その為なら、性格だって偽れ――――……けほん、私は何も言ってないから。多分貴方が今聞いたのは幻聴ね、忘れなさい。


 


「……ジャック、貴方最近ボーっとして、おかしいわよ?」




 スペードが私を怪しむように覗き込む。私は止めていた手を動かし、埃の山を崩していった。埃が気管に入り、咳き込む。




「大丈夫?」




 私は黙って(咳き込んではいるが)頷く。

 


 ひとしきり咳き込んだ後、今度は心配そうな顔をしたスペードに向かってニコリ、と良家のお嬢様風の笑い方を実践した。




「大丈夫です、お姉様。――――嗚呼、ここの掃除を任されていた侍女は如何したのでしょうね。埃が積もってますわ」




「いやいや、その侍女は貴方でしょう」




 姉――スペードの突っ込みは、キッパリと無視する。そして箒を持って、掃除を再開した。

 もうもうと埃が湧く。ここからは、私VS埃君だ。例え姉でも邪魔できない。一対一の勝負だ。勝てばぴかぴか、負ければゲホゲホ。因みに私は埃アレルギーでは無い。スギ花粉アレルギーだ。



 埃さん埃さん、天下の侍女、ジャックさんをナメちゃいけませんよ。






          ☆





 掃除を始めてから、大体一時間ぐらいは経っただろうか? お嬢様の、金箔の溢れた、でも少しばかり汚い部屋は、少しは綺麗になったはず。



 それにしても、金箔の溢れた部屋とは、なんとも羨ましい。私のあの汚らしい部屋と交換して欲しい。交換したら、効率良く、値切って装飾品を売り出すのに。

 そしたら何万と金が……。



 スペードも私と共に、部屋を掃除している。大体綺麗になったところの四分の二位は、全部スペードが掃除した。

 私といえば、装飾品ばかり磨いているもので、もう売りに出せるくらいピカピカになった。




「ねえ、ジャック。お嬢様が帰ってらっしゃるまで、あと三十分しかないわ」




 スペードの声に、慌てて私は装飾品を磨く手を早めた。何、後磨くものは二十個ほどだから、直ぐに終わるだろう。それまでに部屋の掃除頼むぞ、我が姉。



 姉はもう、掃除機の如くゴミを掃いていく。隅から隅へ、その隅から開いている窓から外へ。姉の魔の手(?)から逃げるように、可愛いクモや、羽虫が慌てて飛び出す。



 お、一匹だけヤモリが居た。




 この絵画、かのレリー・レイリーが描いた名作、『馬車の中の蛙』は、故郷から都会へと旅立って行く、寂しそうな蛙の姿が、それはもうリアルに描かれている。まるで『ドナド○』の様。あ、でもアレは牛だったか。



 こんな凄い売れそうな絵が、こんなに埃を被っているだなんて! と私は心の中で嘆く。



 例え、その絵に描かれている蛙が、気味の悪い緑色だったとしても、目がギョロリと光っていても、私が蛙嫌いだったとしても! この扱いは無いだろう! この部屋の掃除当番に私がボイコットしに行くぞ!




 憤慨しながらも、手は止めない。あぁっ! こんな所に20金が! とか思っていても、手だけは止めない。




 スペードはどうやら、三十分間のうちに、約3,000平方センチメートルを掃除し終わったようだ。我ながら、姉に感心した。




そして此方も、約26.1個の装飾品兼お嬢様の遊び道具を磨き終わった。




 これで侍女長に怒られることがない、とホッとした。






 

 





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