侍女による、侍女の為の、文学的思考
基本グダグダ。
私は黙って、エリザベート様が大切そうに抱えた湯浴みの湯入りの壺を手渡してもらった(奪い取った)そしてそのまま、壺の中身を壺ごとベランダに放り捨てた。
お嬢様は「あぁ……」とため息をつく。
この場面を侍女長に見られると、後が怖い。有無を言わさない顔で指の爪を剥がれるかもしれない。
だが、このような壺を、王族のお嬢様が持つもんじゃない。
まあ、自分でも、放り投げるのはどうかと思うけれど。
「このような壺は、お嬢様が持つものじゃありません。何なら、壺の代わりに花束でもお持ちになられてはどうでしょう?」
大雑把に花瓶に活けてあった花を掴んで、お嬢様に差し出した。花の茎の先から、水滴がぽたぽた落ちてはいるが、それが如何したで通してやんよ。
しまった、お嬢様の目が輝いた。
「このマーガレット、この萎れ方が良いわ! ええ、普通に活けているお花よりも輝いているわ!」
お嬢様は私が差し出した花を大切そうに受け取ると、花の茎をブチッと千切り、花の部分だけを頭に飾った。そして嬉しそうに頭を左右に振る。そのたびに、かわいそうなマーガレットが、力なく左右に揺れる。
お嬢様の奇行に私は慣れている。伊達にお嬢様つきの侍女を五年間も務めていない。困ることと言っても、時々お嬢様の兄様、メリアドール国第一王子から、お嬢様の奇行を正すように、直々に土下座を食らう事位。それでさえも困っていることに分類されない。
だって、お偉いさんが土下座するなんて、ざまーみろって思わない?
「……でも、なんで活けてあるお花が、萎れているの?」
「ええ、それは花瓶の中に、水が入っていなかったからでしょうね」
「…………ジャック、貴方本当に王族付きの、綺麗好きな侍女よね?」
「あはははは、今更当たり前のこと言わないで下さいヨー」
☆
改めて自己紹介致しましょう。
お嬢様の奇行を正せる、唯一の人間、それが私、ジャック・ぺリアスと言う、少し思考回路が老けているぴちぴちの十六歳だ。
公爵家令嬢の癖して、口が悪い所とかは、黙秘で通している。
スリーサイズとか聞いたら、一発であの世の果てに飛ばしますから、覚悟してください。
そして、私の主、前も説明したが、エリザベート・ルド・フライユ・メリアドールは王女様と言う、御偉い方だ。やろうと思えば私を誰にも気づかれずに消滅させるなんて、お茶の子さいさいらしい。
私よりも1才年上の彼女は、全てにおいて私よりも完璧だ。
身のこなしも、お嬢様語も、乗馬も、お嬢様によるお嬢様の為のお嬢様会議(井戸端会議)も御得意でいらっしゃる。
その様なお嬢様に何で仕えてるのかは秘密だ。私は黙秘権を盾にする!!
これで私たちの事が御分かり頂けたであろうか? 良い、良い。これからもっと知ればいいのだよ、ワトソン君。
……とりあえず、あの放り投げてしまった壺を回収しないと……。