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終章 セラ(Selah)

あなたは失われていたが見い出すことはできなかった

 何故か分からないがあなたは地上に生を受けた。しかしあなたは自分自身の存在を実感できなかった。それはあなたが今まで関わった人々があなた以上に不幸であったから。あなたは不法を働かず、その口に偽りもなかったが、彼らはあなたの存在を否定した。あなたが悲しみ苦しむ様は彼らの慰めとなり、彼らは一時的に彼ら自身の存在を肯定できた。あなたは顔を覆って忌み嫌われる者のように、あなたは侮られた。しかしあなたは口を開かなかった。言っても無駄だと思ったから。ついにあなたは感情が麻痺し、現実感が消失し離人感が残った。それでもあなたには人間のささやかな良心が残っていた。あなたは誰も傷つけず、誰からも奪わず、誰も石もて追わなかった。またあなたには人間のささやかな復讐心もあった。あなたを拒否した世界から距離を置いて沈黙しようと。誰も憎まない代わりに誰も愛さないで無関心でいようと。世界は赦しも裁きも値しないと。そしてあなたは一人になった。不幸な人々とって孤独は牢獄であるが、あなたにとって孤独は楽園であった。

 しかしあなたには深い喪失感とは別に救いや変化の訪れを待ち望む切実な思いがあった。聖書を少し読んでみたが、よく分からなかった。あなた以上に虐げられた人の祈りと十字架上のイエスの祈りに対して神が沈黙していることを。それはあなたが知らなかっただけである。沈黙は神が働く余白であり、神は声ではなく存在そのものであなたに囁くことを。たとえあなたがそれを左脳で理解できても右脳で感じることはできなかった。

 そんな砂を嚙むような生活が雌猫のミー子に会うまで続いた。

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