表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/20

第8話 会えない日々と、募る想い。

レオからの手紙が、来なくなった。


一週間。


二週間。


三週間——。


ミレイは、毎朝郵便馬車を待った。


でも、レオからの手紙は——届かなかった。


「レオさん……」


ミレイは、最後に届いた手紙を何度も読み返した。


『必ず、また君のもとへ』


その言葉を信じて——待ち続けた。


でも、不安は日に日に大きくなっていった。


何かあったんじゃないか。


レオさんに、何か——。


   ◇ ◇ ◇


ある日。


ミレイが森から帰ると、見知らぬ男が家の前に立っていた。


「ミレイさんですね?」


男は、王宮の制服を着ていた。


「は、はい……」


「少し、お話を」


男は、冷たい笑みを浮かべた。


「私は、王宮宰相グレゴリーの使いで参りました」


ミレイの心臓が、早鐘を打った。


王宮——。


グレゴリー——。


「あなたと、レオン王子殿下の関係について——お聞きしたいことがあります」


「関係……?」


ミレイは、動揺を隠せなかった。


「とぼけても無駄ですよ。全て、調査済みです」


男は、懐から書類を取り出した。


「ミレイ。十九歳。両親はすでに他界。天涯孤独。村では『落ちこぼれ』と呼ばれている」


「……っ」


「そんなあなたが——どうして、レオン王子殿下と親しくなったのか」


男の目が、鋭く光った。


「何か、企んでいるのではないですか?」


「企むなんて……!」


ミレイは、慌てて首を横に振った。


「私は、ただ——」


「ただ?」


「レオさんを……殿下を、お慕いしているだけです……」


「お慕いしている、ですか」


男は、鼻で笑った。


「身の程知らずな。あなたのような平民が、王子殿下を慕うなど——」


「私は……!」


ミレイは、思わず声を上げた。


「私は、本気です! レオさんのこと、本当に——」


「本気?」


男は、冷たく言い放った。


「ならば、殿下のために——身を引きなさい」


その言葉に、ミレイは息を呑んだ。


「身を、引く……?」


「そうです。あなたのような存在が、殿下の傍にいることは——殿下の立場を危うくします」


「でも……」


「殿下は、『完璧な王子』でなければなりません。平民との恋愛など——許されないのです」


男は、一歩近づいた。


「あなたが本当に殿下を想うなら——消えるべきです」


ミレイは、言葉が出なかった。


消えろ。


それが——レオのため?


「お考えになる時間を差し上げます」


男は、踵を返した。


「一週間後、また参ります。それまでに——答えを」


そう言い残して、男は去って行った。


   ◇ ◇ ◇


ミレイは、その場に崩れ落ちた。


「……どうしよう」


手が、震えている。


消えろと言われた。


レオのために——身を引けと。


でも。


レオさんは、私がいないと——。


あの人は、私がいないと壊れるって、言ってた。


ミレイは、頭を抱えた。


どうすればいいのか、分からない。


レオのために身を引くべきなのか。


それとも——。


「ミレイ!」


声がした。


顔を上げると——マリアおばあさんが、心配そうに駆け寄ってきた。


「どうしたの!? 顔色が真っ青よ!」


「おばあ、さん……」


ミレイは、おばあさんにしがみついた。


そして——全てを話した。


レオのこと。


王宮からの使者のこと。


全部。


おばあさんは、黙って聞いていた。


「……そう」


話し終えると、おばあさんは深くため息をついた。


「やっぱり、そういうことだったのね」


「おばあさん……私、どうしたら……」


「ミレイ」


おばあさんは、ミレイの肩を掴んだ。


「よく聞きなさい」


「はい……」


「あんたは、自分のために生きなさい」


「え……?」


「相手のためだけに生きちゃダメ。前にも言ったでしょう?」


おばあさんの目が、真剣だった。


「身を引くにしても、一緒にいるにしても——それは、あんた自身が決めること」


「でも……レオさんのためには……」


「レオン王子のため? それとも、あんた自身のため?」


ミレイは、言葉に詰まった。


「分かるでしょう? あんたは今、『レオン王子のため』って言いながら——本当は、自分が傷つきたくないだけなんじゃない?」


「……っ」


「相手に依存されて、必要とされて——それが、嬉しいんじゃないの?」


おばあさんの言葉が、ミレイの胸に刺さった。


「違います……!」


「本当に?」


「本当に、違います! 私は、レオさんを——」


「愛してるの?」


「……はい」


ミレイは、涙を流しながら頷いた。


「愛してます。本当に……」


「ならば」


おばあさんは、ミレイの涙を拭った。


「あんたは、どうしたいの? レオン王子と、どうなりたいの?」


「私……」


ミレイは、胸に手を当てた。


どうしたい?


レオさんと、どうなりたい?


答えは——。


「一緒に、いたいです」


ミレイは、はっきりと言った。


「レオさんと、ずっと——一緒にいたいです」


「なら、そうしなさい」


おばあさんは、優しく微笑んだ。


「誰が何と言おうと、あんたの人生よ。あんたが決めなさい」


ミレイは、涙が止まらなくなった。


「おばあさん……」


「泣くな。あんたは、強い子だよ」


おばあさんは、ミレイの頭を撫でた。


「さあ、顔を上げて。これからどうするか——考えなさい」


「……はい」


ミレイは、涙を拭った。


そうだ。


私は、レオさんと一緒にいたい。


それが、私の答え。


誰が何と言おうと——。


   ◇ ◇ ◇


その夜。


ミレイは、レオに手紙を書いた。


   ◇ ◇ ◇


『レオさんへ


お元気ですか?

手紙が届かなくて、心配していました。


今日、王宮の方が来ました。

身を引けと、言われました。


でも、私——


レオさんと、離れたくありません。


一緒にいたいです。

ずっと、ずっと。


これは、わがままでしょうか。

身の程知らずでしょうか。


でも、私の気持ちは——本物です。


レオさんを、愛しています。


だから——


私、待ってます。

レオさんが来てくれるまで。


何があっても、待ち続けます。


愛しています、レオさん。


ミレイより』


   ◇ ◇ ◇


手紙を出した。


届くだろうか。


レオのもとに——。


ミレイは、不安だった。


でも、信じることにした。


必ず、届く。


そして、レオさんは——来てくれる。


そう信じて——。


   ◇ ◇ ◇


王宮。


レオは、部屋に軟禁されていた。


「くそっ……!」


扉を叩く。


でも、開かない。


「僕を、出せ! グレゴリー!」


「殿下、お静かに」


扉の向こうから、ユリウスの声がした。


「これは、殿下のためです」


「僕のため!?」


レオは、怒りに震えた。


「僕を閉じ込めて、ミレイに会えなくして——それが、僕のため!?」


「はい」


ユリウスの声が、冷静だった。


「殿下は、あの娘に依存しすぎています。このままでは——」


「うるさい!」


レオは、扉を蹴った。


「僕に、ミレイが必要なんだ! 分からないのか!?」


「だからこそ、です」


ユリウスの声が、少し悲しげになった。


「殿下は、『レオン王子』です。個人的な感情で動いてはいけません」


「レオン王子なんて……!」


レオは、叫んだ。


「僕は、偽物だ! 本物じゃない!」


「……殿下」


「偽物の僕が、どうして——本物のように生きなきゃいけないんだ!」


レオは、床に座り込んだ。


「僕は、僕として生きたい……ミレイと一緒に……」


その時。


扉の下から、何かが差し込まれた。


手紙だ。


「これを」


ユリウスの声がした。


「ミレイからです」


レオは、飛びつくように手紙を掴んだ。


「ミレイ……!」


封を開ける。


手が、震えている。


そして——読んだ。


ミレイの言葉を。


『レオさんと、離れたくありません』


『一緒にいたいです』


『愛しています』


レオの目から、涙が溢れた。


「ミレイ……ミレイ……!」


胸が、熱くなった。


君は、僕を——。


選んでくれた。


身を引けと言われても、僕を——。


「ありがとう……ありがとう……」


レオは、手紙を胸に抱きしめた。


「僕も、君と一緒にいたい」


小さく呟いた。


「必ず——会いに行くから」


「だから、待っててくれ」


「ミレイ……」


レオは、立ち上がった。


目を、拭う。


もう、迷わない。


君が、僕を選んでくれたから。


だから、僕も——。


君を、選ぶ。


レオは、扉に向かって叫んだ。


「ユリウス! グレゴリーを呼べ!」


「殿下……?」


「話がある。今すぐだ」


レオの声は——今までとは違っていた。


強く。


確かに。


決意を秘めた、声。


   ◇ ◇ ◇


一時間後。


グレゴリーが、レオの部屋に来た。


「何の御用でしょうか、殿下」


冷たい声。


レオは、真っ直ぐにグレゴリーを見た。


「僕を、解放してくれ」


「それはできません」


「なら——」


レオは、深く息を吸った。


「僕は、『レオン王子』を辞める」


グレゴリーの顔が、凍りついた。


「何を……おっしゃっているのですか……」


「聞こえただろう。僕は、もうこの役を——続けられない」


「殿下!」


グレゴリーの声が、鋭くなった。


「あなたは、王国のために存在しているのです! 個人的な感情など——」


「うるさい」


レオは、グレゴリーの言葉を遮った。


「僕は、人間だ。感情がある。愛する人がいる」


「殿下……」


「僕は、ミレイと一緒にいたい。それだけだ」


レオの目が、真剣だった。


「だから——僕を、解放してくれ。この役から」


グレゴリーは、深くため息をついた。


「……殿下は、本気ですか」


「本気だ」


「ならば」


グレゴリーは、冷たく笑った。


「あなたは、全てを失いますよ。地位も、名誉も、財産も」


「構わない」


レオは、即答した。


「それより大切なものが、僕にはある」


「……そうですか」


グレゴリーは、踵を返した。


「では、上に報告しましょう。殿下が、役を降りると」


「ああ。頼む」


グレゴリーが去った後。


レオは、窓の外を見た。


森の方角を。


(ミレイ……)


心の中で、名前を呼ぶ。


(もう少しだけ、待ってて)


(必ず——君のもとへ行くから)


レオは、手紙を握りしめた。


ミレイからの手紙を。


君が、僕を選んでくれた。


だから、僕も——全てを捨てて、君を選ぶ。


もう、迷わない。


レオの目が、決意に満ちていた。


   ◇ ◇ ◇


こうして、レオは決断した。


『レオン王子』を辞めると。


全てを捨てて、ミレイのもとへ行くと。


でも、それは——。


王国を揺るがす、大きな決断。


果たして、この先に待つものは——。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ