第69話 守るための選択
翌朝。
フェルトハイムの空は、変わらず穏やかだった。
だが、金獅子亭の中には、静かな余韻が残っていた。
昨夜の出来事——。
客との衝突。
疑いの言葉。
それは確かに、この町の空気を変えた。
ルナはいつも通りパンを食べている。
ソラも小さな声を上げている。
だがミレイは、どこか気を張っていた。
レオはそれに気づいていた。
◇ ◇ ◇
「……大丈夫ですか」
ミレイが小さく聞く。
レオは少し笑った。
「うん」
「でも」
一瞬だけ視線を落とす。
「思ったより、早かった」
ミレイは頷いた。
疑いが、ここまで形になるのが。
◇ ◇ ◇
レオは静かに言う。
「このままだと」
「町が分裂する」
◇ ◇ ◇
ミレイの表情が強張る。
◇ ◇ ◇
「どうするんですか」
◇ ◇ ◇
レオは少し考えた。
そして言った。
「選ぶしかない」
◇ ◇ ◇
「均衡を守るか」
「町を守るか」
◇ ◇ ◇
ミレイは息を呑む。
◇ ◇ ◇
それは——。
同じようでいて、違うものだった。
◇ ◇ ◇
「……違うんですか?」
◇ ◇ ◇
レオは静かに答える。
「違う」
◇ ◇ ◇
「均衡は全体を守る」
「でも」
「町は、目の前にある」
◇ ◇ ◇
ミレイは理解した。
もし選ぶなら。
レオは——。
◇ ◇ ◇
「……町を守るんですね」
◇ ◇ ◇
レオは頷いた。
◇ ◇ ◇
「家族がいるから」
◇ ◇ ◇
ミレイの目が揺れる。
だがその奥にあるのは、不安ではない。
覚悟だった。
◇ ◇ ◇
そのとき。
ガレスが店に入ってきた。
「レオ」
顔は真剣。
◇ ◇ ◇
「町の連中が集まってる」
「話がしたいってよ」
◇ ◇ ◇
レオは立ち上がった。
「分かった」
◇ ◇ ◇
ミレイが手を握る。
「気をつけて」
レオは微笑む。
「大丈夫」
◇ ◇ ◇
広場。
町の人々が集まっていた。
ざわめき。
緊張。
◇ ◇ ◇
レオが現れると、空気が変わる。
◇ ◇ ◇
ひとりの男が前に出る。
昨夜、声を上げた男だった。
◇ ◇ ◇
「話を聞かせてくれ」
◇ ◇ ◇
レオは頷いた。
◇ ◇ ◇
「正直に話します」
◇ ◇ ◇
町の人々が静かになる。
◇ ◇ ◇
「今、この町は狙われています」
◇ ◇ ◇
ざわめき。
◇ ◇ ◇
「理由は」
「三国会談です」
◇ ◇ ◇
誰かが言う。
「やっぱり……」
◇ ◇ ◇
レオは続ける。
「でも」
「それだけじゃない」
◇ ◇ ◇
「戦争を起こしたい者たちがいる」
◇ ◇ ◇
人々の顔が変わる。
◇ ◇ ◇
「この町を壊せば」
「三国は争う」
◇ ◇ ◇
沈黙。
◇ ◇ ◇
レオは言う。
「だから守る必要がある」
◇ ◇ ◇
男が聞く。
「どうやって?」
◇ ◇ ◇
レオは答えた。
◇ ◇ ◇
「この町を」
「中立都市として守ります」
◇ ◇ ◇
ざわめき。
◇ ◇ ◇
「三国すべてが」
「この町を守る」
◇ ◇ ◇
ガレスが言う。
「つまり」
「戦争は起きねぇってことか」
◇ ◇ ◇
レオは頷いた。
「ここでは、起こさせません」
◇ ◇ ◇
男はしばらく考えた。
◇ ◇ ◇
「……信じていいのか」
◇ ◇ ◇
レオはまっすぐ答える。
「信じてください」
◇ ◇ ◇
沈黙。
◇ ◇ ◇
やがて——。
男は小さく頷いた。
「分かった」
◇ ◇ ◇
完全ではない。
だが——。
信頼は、まだ残っている。
◇ ◇ ◇
一方。
黒い外套の男は、その様子を遠くから見ていた。
◇ ◇ ◇
「……持ち直したか」
◇ ◇ ◇
だが、すぐに笑う。
◇ ◇ ◇
「だが遅い」
◇ ◇ ◇
「次で終わりだ」
◇ ◇ ◇
男は部下に言う。
「準備しろ」
◇ ◇ ◇
その目は冷たい。
◇ ◇ ◇
「決定的な一撃を」
◇ ◇ ◇
フェルトハイムの均衡は、まだ保たれている。
だが——。
次の一手で、それは崩れる。
物語は、ついに決定的な局面へと向かう。




