表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/72

第63話 町に潜む影

フェルトハイムの昼下がり。


 広場の市場は、いつも以上に賑わっていた。


 王国の商人。

 連邦の交易人。

 公国の使節。


 三国会談の影響で、人の流れは増えている。


 町の人々は忙しそうだが、どこか誇らしげだった。


 自分たちの町が、世界の中心になっている。


   ◇ ◇ ◇


 金獅子亭の前。


 ルナはソラを乗せた小さな乳母車を押していた。


「ソラ、みて!」


 通りの大道芸人が火を吹く。


 ソラはまだよく分かっていないが、小さく声を出した。


「うー」


   ◇ ◇ ◇


 ミレイはその様子を見て微笑む。


 こんな平和な時間があるからこそ、レオは頑張れるのだろう。


   ◇ ◇ ◇


 そのとき。


 ミレイは、ふと違和感を覚えた。


   ◇ ◇ ◇


 市場の端。


 黒い外套の男。


   ◇ ◇ ◇


 観光客のように見える。


 だが。


 目が動かない。


   ◇ ◇ ◇


 ずっと。


 ルナとソラを見ている。


   ◇ ◇ ◇


 ミレイの背筋が冷えた。


   ◇ ◇ ◇


 その瞬間。


 男は視線に気づいたように、ゆっくり背を向けた。


 そして人混みに消える。


   ◇ ◇ ◇


 ミレイはすぐルナの肩に手を置いた。


「ルナ」


「うん?」


「今日は、もう帰りましょう」


   ◇ ◇ ◇


 ルナは不思議そうにする。


「えー?まだあそびたい」


 ミレイは優しく言う。


「ソラも疲れちゃうから」


「……わかった」


   ◇ ◇ ◇


 ミレイは歩きながら、何度も後ろを確認した。


 もう男の姿はない。


   ◇ ◇ ◇


 だが。


 胸のざわめきは消えなかった。


   ◇ ◇ ◇


 夕方。


 レオが金獅子亭に戻る。


「ただいま」


「おかえりなさい」


 ミレイはすぐレオの手を掴んだ。


「レオさん」


   ◇ ◇ ◇


 レオはすぐ気づく。


 ただ事ではない。


   ◇ ◇ ◇


 部屋に入るとミレイが言った。


「今日、市場で……」


 黒い外套の男。


 子どもたちを見ていたこと。


 消えたこと。


   ◇ ◇ ◇


 レオの目が変わる。


   ◇ ◇ ◇


「……間違いない」


   ◇ ◇ ◇


 海商ギルドの影。


   ◇ ◇ ◇


 レオは窓の外を見る。


 フェルトハイムの町。


 平和な灯り。


   ◇ ◇ ◇


 だが。


 敵はもう、町の中にいる。


   ◇ ◇ ◇


 レオは静かに言った。


「護衛を増やす」


「それと」


 ミレイを見る。


「しばらく、子どもたちは外出を控えよう」


   ◇ ◇ ◇


 ミレイは頷いた。


「分かりました」


   ◇ ◇ ◇


 そのとき。


 ルナが部屋に入ってくる。


「ぱぱー!」


   ◇ ◇ ◇


 レオはすぐ笑顔を作った。


「どうした?」


「ソラ、ねた!」


   ◇ ◇ ◇


 ルナはレオに抱きつく。


「ぱぱ、だいすき!」


   ◇ ◇ ◇


 レオはルナを抱き上げる。


 小さな体。


 温かい。


   ◇ ◇ ◇


 守る。


   ◇ ◇ ◇


 この家族を。


 この町を。


   ◇ ◇ ◇


 一方。


 フェルトハイムの外れの宿。


   ◇ ◇ ◇


 黒い外套の男が戻っていた。


「確認しました」


   ◇ ◇ ◇


 机の向こうの男が聞く。


「子どもは?」


   ◇ ◇ ◇


「二人」


「娘と息子」


   ◇ ◇ ◇


 男は静かに笑った。


「なるほど」


   ◇ ◇ ◇


 そして言う。


「影の王子の弱点か」


   ◇ ◇ ◇


 窓の外。


 フェルトハイムの灯り。


   ◇ ◇ ◇


 男は静かに言った。


「均衡を壊すのは簡単だ」


   ◇ ◇ ◇


「守るものを奪えばいい」


   ◇ ◇ ◇


 その言葉は、静かに夜に溶けた。


 均衡の町フェルトハイム。


 だがその内側で——


 危機は、確実に近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ