第60話 均衡の前線
フェルトハイム北方街道。
森の入口で、二つの集団が向き合っていた。
一方は武装した男たち。
粗い鎧、だが整った隊列。
ただの盗賊ではない。
そしてもう一方。
町の人々。
鍛冶屋のハンマー。
農夫の鍬。
荷馬車の棒。
まともな武装ではない。
だが、誰も退こうとはしなかった。
◇ ◇ ◇
中央に立つのはレオ。
その隣にガレス。
後ろには町の仲間たち。
◇ ◇ ◇
武装集団のリーダーが笑った。
「おいおい」
「王国の顧問が」
「農民を盾にするのか?」
◇ ◇ ◇
ガレスが一歩前に出る。
「違うな」
「俺たちが」
「町を守ってる」
◇ ◇ ◇
男は鼻で笑う。
「英雄ごっこか」
そして剣を肩に担ぐ。
「だがな」
「俺たちは四十人だ」
ゆっくりと隊列が広がる。
「お前らで止められるか?」
◇ ◇ ◇
レオは一歩前に出た。
「止める必要はない」
◇ ◇ ◇
男が眉をひそめる。
「何?」
◇ ◇ ◇
レオは言った。
「ここから先は」
「三国共同中立都市だ」
◇ ◇ ◇
武装集団の何人かが顔を見合わせる。
◇ ◇ ◇
レオは続けた。
「ここで武器を使う者は」
「三国すべての敵になる」
◇ ◇ ◇
男は笑った。
「三国?」
「ここには王国しかいないだろう」
◇ ◇ ◇
そのときだった。
◇ ◇ ◇
森の奥から馬の足音。
重い鎧の音。
◇ ◇ ◇
武装集団が振り向く。
◇ ◇ ◇
現れたのは二つの部隊。
北方連邦の衛兵。
南方公国の騎士。
◇ ◇ ◇
セルゲイの声が響く。
「連邦は中立都市の秩序を守る」
◇ ◇ ◇
アシュレイが続く。
「公国も同じだ」
◇ ◇ ◇
武装集団の男たちがざわめく。
予想外だった。
◇ ◇ ◇
リーダーの顔が歪む。
「……外交官の遊びに」
「本気で付き合うのか?」
◇ ◇ ◇
セルゲイが言う。
「外交は遊びではない」
◇ ◇ ◇
アシュレイは笑う。
「そして」
「この町は壊させない」
◇ ◇ ◇
武装集団は完全に包囲された。
◇ ◇ ◇
レオが静かに言う。
「帰れ」
◇ ◇ ◇
沈黙。
◇ ◇ ◇
リーダーは歯を食いしばる。
だが状況は明らかだった。
戦えば全滅。
◇ ◇ ◇
男は舌打ちした。
「……撤退だ」
◇ ◇ ◇
武装集団は森の奥へ消えていく。
◇ ◇ ◇
静寂。
◇ ◇ ◇
ガレスが大きく息を吐いた。
「はぁ……」
「心臓止まるかと思った」
◇ ◇ ◇
町の人たちが笑う。
◇ ◇ ◇
セルゲイがレオを見る。
「見事だ」
「剣を使わず勝った」
◇ ◇ ◇
アシュレイも頷く。
「均衡外交」
「悪くない」
◇ ◇ ◇
レオは空を見上げた。
フェルトハイムの空。
戦争は起きなかった。
◇ ◇ ◇
町へ戻ると、ミレイとルナが待っていた。
「レオさん!」
ミレイが駆け寄る。
◇ ◇ ◇
ルナが聞く。
「ぱぱ、かった?」
◇ ◇ ◇
レオは笑った。
「うん」
「町を守れた」
◇ ◇ ◇
ルナは嬉しそうに言った。
「やっぱり」
「ぱぱ、かっこいい」
◇ ◇ ◇
ミレイはレオの手を握った。
温かい手。
◇ ◇ ◇
フェルトハイムは守られた。
だが——。
森の奥で消えた武装集団。
誰が送り込んだのか。
◇ ◇ ◇
三国の均衡は、まだ始まったばかりだった。
物語はさらに深く、外交の闇へ進んでいく。




