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第6話 疑惑の目と、隠せない想い。

レオとの再会から、また一週間が経った。


ミレイは、今日も森へ向かおうとしていた。


でも——。


「ミレイ、ちょっといい?」


マリアおばあさんが、深刻な顔で呼び止めた。


「はい……?」


「あんた、最近——様子がおかしいわよ」


「え……?」


ミレイは、ドキッとした。


「何がですか……?」


「毎日森に行って。ぼーっとして。それに——」


おばあさんは、ミレイの顔を覗き込んだ。


「なんだか、幸せそうな顔してる」


「そ、そんな……」


「恋でしょう?」


ズバリ。


ミレイの顔が、真っ赤になった。


「お、おばあさん……!」


「図星ね」


マリアおばあさんは、くすりと笑った。


「別に責めてるわけじゃないのよ。ただ——」


表情が、少し真剣になった。


「相手は、誰?」


「それは……」


言えない。


レオのこと——レオン王子のことなんて、言えるはずがない。


「言えないのね」


「……はい」


「そう」


おばあさんは、深くため息をついた。


「ミレイ、あんたは優しい子だから——心配なのよ」


「心配……?」


「利用されてるんじゃないかって」


その言葉に、ミレイの胸がチクリと痛んだ。


「利用なんて……」


「あんた、自分のこと『落ちこぼれ』だって思い込んでるでしょう? だから、誰かに優しくされると——すぐに信じちゃう」


「そんなこと……」


「本当に、その人はあんたのこと——大切にしてくれてるの?」


マリアおばあさんの目が、真剣だった。


ミレイは——答えに詰まった。


大切にされてる?


レオは、いつも「愛してる」と言ってくれる。


「君がいないと生きていけない」と言ってくれる。


でも——。


それは、本当に「大切」なんだろうか?


依存されてるだけじゃないのか?


「……分かりません」


ミレイは、正直に答えた。


「でも、私——その人が、好きなんです」


「そう……」


おばあさんは、少し悲しそうな顔をした。


「分かったわ。これ以上は言わない。でもね、ミレイ」


「はい」


「自分を、大切にしなさい。相手のためだけに生きちゃダメよ」


その言葉が、ミレイの胸に重く響いた。


   ◇ ◇ ◇


森。


ミレイが泉に着くと、レオはもう待っていた。


「ミレイ!」


いつものように、嬉しそうな顔。


でも——今日のミレイは、少しだけ複雑な気持ちだった。


「レオさん……」


「どうしたの? 元気ない?」


レオは、すぐに気づいた。


ミレイの手を取って、心配そうに顔を覗き込む。


「何かあった?」


「いえ……その……」


「誰かに、何か言われた?」


レオの目が、鋭くなった。


「誰? 誰が君に何を言ったの?」


「レオさん、落ち着いて……」


「落ち着けないよ! 君が悲しそうな顔してる!」


レオは、ミレイの肩を掴んだ。


「教えて。誰が君を傷つけたの?」


「傷つけられたわけじゃ……」


「じゃあ、何?」


レオの声が、焦っている。


ミレイは、少し迷った。


でも——言うことにした。


「おばあさんに、言われたんです」


「何を?」


「……利用されてるんじゃないかって」


その瞬間、レオの顔が青ざめた。


「利用……?」


「はい。私、自分に自信がないから——誰かに優しくされると、すぐ信じちゃうって」


「そんな……」


レオは、ミレイの手を強く握った。


「僕は、君を利用なんかしてない!」


「分かってます……」


「本当に愛してるんだ! 君がいないと、僕は——」


「レオさん」


ミレイは、レオの頬に手を添えた。


「大丈夫です。私、レオさんのこと信じてますから」


「ミレイ……」


「ただ……」


ミレイは、少し言葉を選んだ。


「レオさんは、私のこと——本当に『大切』にしてくれてますか?」


「え……?」


レオは、目を見開いた。


「当たり前じゃないか! 君は僕の全てなんだよ!?」


「全て……」


ミレイは、胸が痛んだ。


全て。


それは——重い言葉。


「レオさん、私が『全て』っていうのは——」


「ダメ?」


レオが、不安そうに見つめる。


「重い? 嫌?」


「そうじゃなくて……」


ミレイは、言葉を探した。


「レオさん、私がいなくなったら——どうするんですか?」


「いなくなる……?」


レオの顔が、さらに青ざめた。


「どういうこと? 君、どこか行っちゃうの!?」


「違います! そうじゃなくて……」


ミレイは、慌てて首を横に振った。


「例えば、です。もし私がいなくなったら——レオさんは、大丈夫ですか?」


「大丈夫なわけないだろ!」


レオは、叫んだ。


「君がいなくなったら、僕は——生きていけない!」


その言葉に、ミレイの胸がぎゅっと締め付けられた。


「レオさん……」


「君がいないと、僕は何もできない! 何の価値もない!」


レオの目から、涙が溢れた。


「君だけが、僕の居場所なんだ! 君だけが——」


「レオさん、落ち着いて!」


ミレイは、レオを抱きしめた。


「私、いなくなりませんから!」


「本当に……?」


「本当です! ずっと、ここにいます!」


「約束……?」


「約束です!」


レオは、ミレイにしがみついた。


子どものように。


泣きながら。


「怖いんだ……君がいなくなるのが……」


「大丈夫ですよ……」


ミレイは、レオの背中を撫でた。


「ここにいます……ずっと……」


でも、ミレイの心には——不安が募っていた。


レオの依存が、あまりにも深すぎる。


このままで、本当にいいんだろうか。


   ◇ ◇ ◇


しばらくして、レオは落ち着いた。


「ごめん……また、取り乱しちゃった……」


「いいんですよ」


ミレイは、優しく微笑んだ。


でも——心の中では、まだモヤモヤしていた。


二人は、泉のほとりに座った。


沈黙が、少し重い。


「ねえ、ミレイ」


レオが、小さく呟いた。


「僕、おかしいよね」


「え……?」


「君に依存してる。君がいないと、何もできない。そんなの——」


レオは、自嘲するように笑った。


「王子として、失格だ」


「レオさん……」


「でも、やめられないんだ」


レオは、ミレイを見た。


その目は、どこか絶望的だった。


「君がいないと、僕——本当に壊れちゃう」


「どうして……そこまで……」


「理由が、あるんだ」


レオは、俯いた。


「僕が完璧でいなきゃいけない理由。僕がこんなに——脆い理由」


「……教えてくれますか?」


ミレイは、そっと聞いた。


レオは、少し迷った。


でも——。


「話すよ」


レオは、決心したように頷いた。


「君には、全部話す。僕の——秘密」


ミレイは、息を呑んだ。


「僕はね——」


レオは、空を見上げた。


「本当は、王子じゃないんだ」


「え……?」


「正確には——『本物の王子』じゃない」


何を言ってるんだろう。


ミレイは、混乱した。


「僕は——」


レオは、苦しそうに言葉を絞り出した。


「『代わり』なんだ」


「代わり……?」


「うん。本物の第一王子は——もう、いない」


その言葉に、ミレイは目を見開いた。


「どういう……ことですか……?」


「本物のレオン王子は、五年前に——病気で亡くなった」


レオの声が、震えた。


「でも、王家は——それを隠した」


「隠した……?」


「うん。跡継ぎがいないと、国が混乱するから。だから——」


レオは、ミレイを見た。


「僕が、選ばれたんだ。レオン王子の『影武者』として」


ミレイは、言葉を失った。


影武者。


レオが——レオン王子の、影武者。


「僕は元々、王族の遠い親戚だった。顔が、レオン王子に似てたから——」


レオは、自嘲的に笑った。


「完璧に演じろって言われた。一つでも間違えたら、全てが崩れるって」


「レオさん……」


「だから、僕は——完璧でいなきゃいけない。失敗は許されない。本音も、弱音も——何もかも、隠さなきゃいけない」


レオの目から、涙が溢れた。


「僕は、『レオン王子』じゃない。僕は——ただの偽物なんだ」


ミレイの胸が、張り裂けそうになった。


「そんな……」


「だから、僕——ずっと一人だった。誰も、本当の僕を知らない。誰も——」


レオは、ミレイの手を握った。


「でも、君は違った。君だけが、本当の僕を見てくれた」


「レオさん……」


「君がいなかったら、僕——とっくに壊れてた。偽物の自分を演じ続けることに、耐えられなかった」


レオは、ミレイを抱きしめた。


「だから、お願い。僕を——見捨てないで」


ミレイは、レオの背中に手を回した。


ああ、そうだったんだ。


この人は、ずっと——。


偽りの自分を演じ続けてきたんだ。


本当の自分を、誰にも見せられずに。


涙が、溢れた。


「見捨てません……」


ミレイは、レオを強く抱きしめた。


「絶対に、見捨てませんから……」


「ミレイ……!」


「レオさんは、偽物なんかじゃないです」


ミレイは、レオの顔を両手で包んだ。


「レオさんは、レオさんです。それだけで、十分です」


その言葉に、レオは声を上げて泣いた。


「ありがとう……ありがとう……」


何度も、何度も。


ミレイは、ずっと——レオを抱きしめ続けた。


この人を、守りたい。


支えたい。


愛したい。


その想いが——ミレイの胸を満たしていた。


   ◇ ◇ ◇


それから、二人はずっと抱き合っていた。


レオは、ようやく泣き止んだ。


「ごめんね。重い話、しちゃって」


「いいんですよ」


ミレイは、優しく微笑んだ。


「教えてくれて、ありがとうございます」


「……怖くない?」


「何がですか?」


「僕が、偽物だって知って」


レオは、不安そうに見つめる。


「偽物の王子と付き合ってるなんて——」


「レオさん」


ミレイは、レオの唇に指を当てた。


「私が好きなのは、『レオン王子』じゃないです」


「え……?」


「『レオ』です。目の前にいる、あなたです」


その言葉に、レオの顔が輝いた。


「ミレイ……!」


「だから——偽物とか本物とか、関係ないです」


ミレイは、レオの手を握った。


「レオさんは、レオさんですから」


レオは、また泣きそうな顔になった。


でも、今度は——嬉しそうに。


「君は……本当に……」


「はい?」


「天使だよ」


レオは、ミレイを抱きしめた。


「僕の、天使」


「大げさですよ……」


「大げさじゃない。本当だよ」


レオは、ミレイの額にキスをした。


「君がいてくれて、本当によかった」


「私も……レオさんに会えて、よかったです」


二人は、また抱き合った。


温かい。


安心する。


でも、ミレイの心には——まだ、不安があった。


レオの秘密を知って。


彼がどれほどの重荷を背負っているか、分かった。


でも——。


それは同時に、彼の依存がさらに深くなることを意味している。


このままで、本当にいいんだろうか。


レオを、本当に救えるんだろうか。


ミレイは、胸の中で——そっと、問いかけた。


でも、答えは出ない。


ただ——。


今は、この温もりを——感じていたい。


それだけで、いい。


ミレイは、目を閉じた。


レオの心臓の音を、聞きながら。


   ◇ ◇ ◇


その頃、王宮では。


「殿下が、また無断で王宮を抜け出されました」


ユリウスが、報告した。


相手は——王の側近、宰相グレゴリー。


「またか……」


グレゴリーは、深くため息をついた。


「最近、頻繁だな。レオン殿下の外出が」


「はい……」


「何か、心当たりは?」


「いえ……」


ユリウスは、首を横に振った。


でも——心の中では、分かっていた。


殿下には、何か——大切なものができたのだ。


「困ったものだ」


グレゴリーは、眉をひそめた。


「あの方は、『完璧な王子』でいなければならない。一つでも綻びが出れば——」


「はい……」


「秘密が、バレてしまう」


秘密。


レオン王子が——偽物だという秘密。


それがバレれば、王国は大混乱に陥る。


「殿下を、監視しろ」


「し、しかし……」


「命令だ」


グレゴリーの目が、冷たかった。


「あの方は、王国のために存在している。個人的な感情など——許されない」


「……はい」


ユリウスは、頭を下げた。


でも、心の中では——複雑な想いがあった。


殿下は、ずっと苦しんでこられた。


完璧を演じ続けることに、どれほど疲れておられるか——。


それなのに、幸せすら許されないのか。


ユリウスは、唇を噛んだ。


でも、何も言えなかった。


それが——王宮の掟だから。


   ◇ ◇ ◇


こうして、レオの秘密が明かされた。


影武者として生きる苦しみ。


誰にも本当の自分を見せられない孤独。


全てを背負いながら——彼は、ミレイに救いを求めている。


でも、王宮では——。


レオの行動が、監視され始めていた。


二人の恋は——次第に、試練の時を迎える。


果たして、この先に待つものは——。

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