第58話 見えない刃
フェルトハイム議事館。
三国会談の空気は、一瞬で変わった。
先ほどまでの外交の言葉は消え、代わりに現れたのは——現実の危機だった。
◇ ◇ ◇
エドワードが静かに報告する。
「北方街道、王国側の監視地点で武装集団が確認されました」
セルゲイが低く言う。
「連邦軍ではない」
即答だった。
だが、それは当然の発言でもある。
この場で「連邦だ」と認める国はない。
◇ ◇ ◇
アシュレイが椅子に深く座り直す。
「人数は?」
エドワードが答える。
「約四十」
室内の空気がわずかに重くなる。
◇ ◇ ◇
四十。
軍隊ではない。
だが——町を襲うには十分な人数だ。
◇ ◇ ◇
セルゲイが腕を組む。
「傭兵だろう」
アシュレイが続ける。
「あるいは盗賊」
レオは静かに言った。
「違う」
◇ ◇ ◇
二人の視線がレオへ向く。
「盗賊は四十人で街道を歩かない」
「もっと小さく動く」
◇ ◇ ◇
セルゲイの口元が少し動く。
「では何だ」
◇ ◇ ◇
レオは答える。
「誰かが“送り込んだ”部隊です」
◇ ◇ ◇
沈黙。
◇ ◇ ◇
アシュレイがゆっくりと指を鳴らす。
「面白い」
「会談の最中に武装集団」
「まるで誰かが」
視線が三人の間を動く。
「均衡を壊したがっているようだ」
◇ ◇ ◇
セルゲイが鼻で笑う。
「均衡は脆い」
「誰かが押せば、崩れる」
◇ ◇ ◇
レオは言った。
「だから」
「ここで決めませんか」
◇ ◇ ◇
二人がレオを見る。
◇ ◇ ◇
「この町では」
「武力を使わない」
◇ ◇ ◇
アシュレイが目を細める。
「……続けて」
◇ ◇ ◇
レオは言った。
「フェルトハイムは会談都市です」
「この町で武器を使う国は——」
一拍置く。
「三国すべての敵になります」
◇ ◇ ◇
沈黙。
◇ ◇ ◇
セルゲイがゆっくりと笑った。
「大胆だ」
「つまり王国は」
「ここを中立都市にするつもりか」
◇ ◇ ◇
レオは頷く。
「今日から」
◇ ◇ ◇
アシュレイが小さく笑う。
「宣言もなく?」
「条約もなく?」
◇ ◇ ◇
レオは答えた。
「宣言は今です」
◇ ◇ ◇
そして言った。
「この場にいる三国代表が」
「それを認めれば成立する」
◇ ◇ ◇
会議室の空気が変わる。
◇ ◇ ◇
セルゲイは椅子の背にもたれた。
「……つまり」
「ここを襲う者は」
「三国の敵になる」
◇ ◇ ◇
レオは静かに頷いた。
◇ ◇ ◇
アシュレイは窓の外を見る。
フェルトハイムの町。
市場。
パン屋。
子どもたち。
◇ ◇ ◇
そして笑った。
「いいでしょう」
◇ ◇ ◇
セルゲイが言う。
「連邦も賛成だ」
◇ ◇ ◇
三国の視線が交わる。
◇ ◇ ◇
その瞬間。
フェルトハイムは——
三国共同中立都市となった。
◇ ◇ ◇
だが。
問題はまだ終わらない。
◇ ◇ ◇
エドワードが言う。
「では」
「北方街道の武装集団は?」
◇ ◇ ◇
レオは静かに立ち上がった。
◇ ◇ ◇
「迎えに行きます」
◇ ◇ ◇
セルゲイが笑う。
「外交官が?」
◇ ◇ ◇
レオは答えた。
「この町の代表として」
◇ ◇ ◇
アシュレイが言う。
「一人で行く気ですか」
◇ ◇ ◇
レオは窓の外を見る。
金獅子亭。
あの場所に——
ミレイとルナとソラがいる。
◇ ◇ ◇
「いいえ」
◇ ◇ ◇
レオは言った。
「フェルトハイムの仲間と行きます」
◇ ◇ ◇
その頃。
町の外。
森の影の中。
武装した男たちが進んでいた。
「町まで、あと少しだ」
リーダーが言う。
「標的は影の王子」
◇ ◇ ◇
男は笑う。
「会談を壊せば」
「戦争はすぐだ」
◇ ◇ ◇
フェルトハイムの空はまだ青い。
だが森の奥で——
刃が、静かに近づいていた。
物語は、戦いの影へと進んでいく。




