第54話 甘い鎖
数日後。
王宮に一通の外交書簡が届いた。
差出人。
北方連邦外務院。
◇ ◇ ◇
王とエドワード、そしてレオが集められる。
書簡は短い。
だが内容は重い。
王国の安定と繁栄を願い、
北方連邦は“保護条約”締結を提案する。
沈黙。
◇ ◇ ◇
エドワードが静かに言う。
「これは事実上の同盟要求です」
レオが首を振る。
「同盟ではない」
「保護です」
つまり。
王国は“守られる側”。
外交主導権は連邦へ移る。
◇ ◇ ◇
王が書簡を置く。
「内容を読め」
条項は三つ。
・北方連邦軍の常駐権
・港湾の共同管理
・外交協議の義務化
それはもう、ほぼ属国。
◇ ◇ ◇
レオは静かに言う。
「拒否すれば?」
エドワードが答える。
「連邦は“安全保障の懸念”を理由に経済圧力をかける」
王国の北方貿易は大きい。
単純に断れない。
◇ ◇ ◇
さらに問題はもう一つ。
公国。
もし王国が北方へ傾けば、
南方は敵になる。
王国は二大勢力の板挟み。
◇ ◇ ◇
その夜。
屋敷。
レオは静かにミレイへ話す。
「北方が、正式に動いた」
ミレイはすぐ理解する。
「保護条約ですね」
レオが驚く。
「どうして」
「市場の噂です」
情報は既に街へ流れている。
◇ ◇ ◇
ミレイは静かに言う。
「レオさん」
「これは外交じゃありません」
「選択を迫る罠です」
◇ ◇ ◇
翌朝。
王宮評議室。
王、エドワード、そしてレオ。
北方連邦の保護条約案が机に広がっている。
◇ ◇ ◇
王が静かに言う。
「断れば経済圧力」
「受ければ主権を失う」
どちらも敗北。
◇ ◇ ◇
エドワードが腕を組む。
「北方は急ぎすぎている」
「公国との緊張を利用しているのです」
つまり。
王国を“緩衝国”として取り込む。
◇ ◇ ◇
レオは静かに言う。
「ならば――」
「利用される前に、均衡を作る」
二人が顔を上げる。
◇ ◇ ◇
「三国会談を提案します」
沈黙。
◇ ◇ ◇
「公国」
「北方連邦」
「王国」
三国を同じテーブルへ座らせる。
◇ ◇ ◇
エドワードが目を細める。
「危険な賭けです」
「だが成功すれば」
「王国は“争う価値のある国”から」
「均衡を支える国になる」
◇ ◇ ◇
王はしばらく黙る。
そして言う。
「若いな」
だが、口元はわずかに笑っている。
「しかし面白い」
◇ ◇ ◇
王は決断する。
「三国会談を開く」
「場所は――」
レオが言う。
「フェルトハイム」
二人が驚く。
◇ ◇ ◇
王都ではない。
外交都市でもない。
小さな町。
だが。
レオとミレイの“始まりの場所”。
◇ ◇ ◇
レオは言う。
「大国の威圧を消すには」
「中立の空気が必要です」
「そして」
「王国が守りたいものを見せる」
◇ ◇ ◇
夜。
屋敷。
レオはミレイに話す。
「三国会談をフェルトハイムで開く」
ミレイは少し驚く。
「町の人たち、驚きますね」
「うん」
レオは微笑む。
「でも」
「僕が守りたい国は、ああいう場所だから」
◇ ◇ ◇
ルナが言う。
「またフェルトハイムいくの?」
「うん」
「やった!」
ソラは手をぱたぱた動かす。
◇ ◇ ◇
だが。
同じ頃。
北方連邦商館。
報告書が書かれていた。
王国、保護条約を回避する動き
三国外交を提案
商館長は低く呟く。
「面白い」
「だが均衡など――」
「簡単に崩れる」
◇ ◇ ◇
そして。
公国王城でも。
アシュレイが書簡を読む。
「フェルトハイムで会談」
静かに笑う。
「……いいだろう」
三国の視線が交差する。
小さな町が。
大国外交の舞台になる。




