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第5話 手紙に込められた、溺愛。

レオが王都へ帰って、五日が経った。


ミレイは毎朝、郵便馬車が来るのを心待ちにしていた。


王都まで馬車で二日。レオが手紙を書いて、それがここまで届くには——これくらいの時間がかかる。


長い。


とても長い五日間だった。


村の外れにある自分の小さな家。一人暮らしのミレイは、誰にも邪魔されずに手紙を受け取れる。


そして——。


「ミレイさん! 王都からの手紙ですよ!」


郵便配達人が、分厚い封筒を差し出した。


「ありがとうございます!」


ミレイは、封筒を受け取って家に飛び込んだ。


封を開ける。


中には、びっしりと文字が書かれた便箋が——五枚も入っていた。


『親愛なるミレイへ』


初めて見る字。


少し癖のある、でも丁寧な筆跡——これが、レオの字なんだ。


ミレイは、胸を高鳴らせながら読み始めた。


   ◇ ◇ ◇


『親愛なるミレイへ


王都に戻って、数日が経ちました。

でも、僕の心は——ずっと、君のところにあります。


毎日が辛い。

朝起きて、君がいないことに気づく。

朝食を取りながら、君と一緒じゃないことに絶望する。

会議中も、君の顔が頭から離れない。


君に会いたい。

会いたくて、会いたくて——たまらない。


昨夜は、君の夢を見ました。

森の泉で、君が笑っている夢。

目が覚めたとき、君がいないことに気づいて——涙が出ました。


おかしいよね。僕、もう大人なのに。

でも、止められないんです。

君がいない寂しさが——僕を押し潰しそうなんです。


ミレイ、君は元気ですか?

ちゃんと食事を取っていますか?

夜は寒くないですか?

一人で寂しくないですか?


僕のことを、忘れていませんか?

他の誰かと、笑っていませんか?


ごめんなさい。

こんなことを書くなんて、重いですよね。

でも、書かずにはいられないんです。


君が僕の全てだから。

君がいないと、僕は——何もできないから。


来週、必ず会いに行きます。

待っていてください。

僕だけを、見ていてください。


愛してる、ミレイ。


レオより』


   ◇ ◇ ◇


ミレイは、手紙を読み終えて——胸がいっぱいになった。


「レオさん……」


手紙から、レオの切実さが伝わってくる。


寂しさ。苦しさ。愛おしさ。


全部が、この文字に込められている。


重い。


確かに、重い。


でも——。


嬉しい。


こんなにも想ってもらえることが、嬉しい。


ミレイは、すぐに返事を書き始めた。


   ◇ ◇ ◇


『レオさんへ


手紙、ありがとうございました。

何度も読み返しています。


私も、レオさんに会いたいです。

毎日、森に行っています。

レオさんがいないけれど——あの場所にいると、少しだけ、レオさんを感じられる気がして。


レオさんは、辛い毎日なんですね。

私も、辛いです。

でも、レオさんの手紙を読むと——頑張ろうって思えます。


レオさん、無理しないでくださいね。

完璧でいなくてもいいんです。

少しくらい、失敗してもいいんです。


私は、どんなレオさんでも——好きですから。


来週、待っています。

絶対に、会いに来てくださいね。


私も、愛しています。


ミレイより』


   ◇ ◇ ◇


数日後。


また、郵便馬車がやってきた。


今度は、レオからの手紙が——三通も届いた。


どれも分厚い封筒。


「こんなに……」


ミレイは、驚きながら封筒を開けた。


一通目は、ミレイの返事が届く前に書かれたもの。二通目は、返事を読んだ直後。三通目は、その翌日——。


レオは、毎日手紙を書いていたのだ。


ミレイは、まず二通目から読むことにした。


『ミレイ!!


君からの手紙を読んで、泣きました。

嬉しくて、嬉しくて——どうしていいか分からなくて。


君も僕を愛してくれてる。

それだけで、僕は生きていけます。


でも、君が「森に行っている」って書いてあって——少し不安になりました。

一人で森に行くのは、危険じゃないですか?

もし、何かあったら——。


考えただけで、怖くなります。


お願いです。

あまり森の奥には行かないでください。

君に何かあったら——僕は、きっと正気を失います。


君は、僕の全てなんです。

君がいないと、僕は——。


ごめんなさい。また重いこと書いてしまいました。


でも、本当なんです。

僕、君のことばかり考えています。

会議中も、君の顔が浮かんで——何度も叱られました。


側近のユリウスが心配してきます。

「殿下、最近様子がおかしい」って。


でも、言えないんです。

君のこと、誰にも言えない。


これは、僕たちだけの——秘密。


秘密の恋人。


それが、たまらなく愛おしい。


ああ、ミレイ。

会いたい。

今すぐにでも、そっちに飛んで行きたい。

でも、今日は重要な会議があって——。


くそっ。

こんな会議、どうでもいいのに。

君に会いたい。

君を抱きしめたい。

君の声が聞きたい。


あと四日。

あと四日で、会える。


待っていてね、ミレイ。

僕は、必ず——君のもとへ。


愛してる。愛してる。愛してる。


何度でも言います。


君だけを、愛しています。


レオより』


   ◇ ◇ ◇


ミレイは、手紙を読んで——少し心配になった。


レオの様子が、不安定だ。


感情の起伏が激しい。


大丈夫だろうか。


ミレイは、また返事を書いた。


   ◇ ◇ ◇


『レオさんへ


心配してくれて、ありがとうございます。

でも、大丈夫ですよ。

私、もう何年もあの森に通っていますから。


レオさん、無理していませんか?

手紙から、疲れているのが伝わってきます。


会議、大変なんですね。

でも、ちゃんと集中してくださいね。

私のことは、会議が終わってから考えてください。


レオさんが倒れたら——私、悲しいです。


だから、お願い。

ちゃんと食べて、ちゃんと寝てください。


あと四日。

私も、カウントダウンしています。


待っています。


いつまでも、待っています。


レオさんだけを——愛しています。


ミレイより』


   ◇ ◇ ◇


そして、四日後。


ミレイは、朝から森で待っていた。


レオは「午後には着く」と手紙に書いていた。


泉のほとりに座って——じっと、待つ。


時間が、やけに長く感じる。


太陽が、少しずつ傾いていく。


「まだ、かな……」


不安になってきた頃——。


「ミレイ!!」


声がした。


振り返ると——。


レオが、走ってきた。


息を切らして、髪を乱して——でも、その顔は嬉しそうで。


「レオさん!」


ミレイも、駆け寄った。


二人は、抱き合った。


「会いたかった……! 会いたかった……!」


レオが、何度も繰り返す。


「私も……! 私も、会いたかったです……!」


ミレイの目からも、涙が溢れた。


一週間。


たった一週間。


でも——こんなにも長く感じた一週間は、初めてだった。


「ミレイ……ミレイ……」


レオは、ミレイの名前を呼び続けた。


まるで、確かめるように。


「ここにいます……ちゃんと、ここにいますよ……」


「よかった……本当に、よかった……」


レオは、ミレイをさらに強く抱きしめた。


そして——。


いきなり、キスをした。


「んっ……!?」


突然のキスに、ミレイは目を見開いた。


でも、レオは離さない。


むしろ、もっと深く——。


「んん……っ」


ミレイの唇を、貪るように。


激しく。


切なく。


「レ、レオ……さ……ん……っ」


ようやく、レオが離れた。


二人とも、息が荒い。


「ごめん……我慢、できなくて……」


レオの顔が、真っ赤だった。


「一週間も会えなくて……もう、限界で……」


「レオさん……」


「君に触れたくて。君を感じたくて——」


レオは、ミレイの頬に手を添えた。


「ずっと、ずっと——君のこと考えてた」


「私も……です」


ミレイは、レオの手に自分の手を重ねた。


「毎日、レオさんのこと考えてました」


「本当?」


「本当です」


レオは、嬉しそうに笑った。


「よかった……君も、僕と同じ気持ちで……」


それから、レオはミレイの手を引いた。


「ねえ、座ろう」


二人は、泉のほとりに座った。


レオは、ミレイの肩に頭を乗せた。


「疲れた……」


「レオさん……?」


「この一週間、本当に——辛かった」


レオの声が、弱々しい。


「毎日、完璧王子を演じて。笑顔を作って。誰とも本音を話せなくて」


「レオさん……」


「君がいないと、僕——本当にダメなんだ」


レオは、ミレイの手を握った。


「君だけが、僕の居場所なんだ」


ミレイの胸が、痛んだ。


レオの依存が——また、深くなっている。


でも、それは同時に——。


それだけ、苦しんでいるということ。


「……レオさん」


ミレイは、レオの頭を優しく撫でた。


「大丈夫ですよ。今は、ここにいます」


「うん……」


「今は、完璧じゃなくていいんです」


「……うん」


「泣いてもいいし、弱音を吐いてもいいんです」


その言葉に、レオの目から涙が溢れた。


「ミレイ……」


「ここでは、何もかも——下ろしていいんですよ」


「……ありがとう」


レオは、ミレイに寄りかかった。


そして——静かに、泣いた。


声を上げずに。


ただ、涙を流して。


ミレイは、ずっと——レオの頭を撫で続けた。


この人を、守りたい。


支えたい。


癒してあげたい。


その想いが——ミレイの胸を満たしていた。


   ◇ ◇ ◇


しばらくして。


レオは、泣き止んだ。


「ごめんね。また泣いちゃった」


「いいんですよ」


ミレイは、微笑んだ。


「レオさんの涙、私が全部受け止めますから」


「ミレイ……」


レオは、ミレイの手を両手で包んだ。


「僕、君と出会えて——本当によかった」


「私も……です」


「君がいなかったら、僕——きっと、とっくに壊れてた」


レオの目が、真剣だった。


「君が、僕を生かしてくれてるんだ」


「そんな……大げさですよ……」


「大げさじゃない」


レオは、首を横に振った。


「本当なんだ。君は、僕の——」


そこで、レオは言葉を切った。


少し迷うような表情。


「僕の……?」


「……ううん。やっぱり、まだ言わない」


「レオさん?」


「いつか、ちゃんと——全部話すから」


レオは、少し寂しそうに笑った。


「僕の秘密。僕が完璧でいなきゃいけない理由。全部——」


「……無理に話さなくていいですよ」


ミレイは、レオの頬に手を添えた。


「レオさんが話したいときに、話してください」


「ミレイ……」


「私、待ってますから」


その優しさに、レオはまた涙ぐんだ。


「ありがとう……本当に、ありがとう……」


それから、レオはミレイを抱きしめた。


今度は、優しく。


「大好きだよ、ミレイ」


「私も……大好きです、レオさん」


二人は、しばらくそのまま——抱き合っていた。


温かい。


安心する。


ああ、この時間が——ずっと続けばいいのに。


ミレイは、心からそう思った。


   ◇ ◇ ◇


それから、二人はたくさん話をした。


レオは、王宮での出来事を話した。


退屈な会議。


うんざりする社交界。


誰も本音を言わない宮廷。


「みんな、僕に完璧を求めてくる」


レオは、疲れたように言った。


「一度でも失敗したら——すぐに批判される」


「辛いですね……」


「うん。だから——」


レオは、ミレイを見た。


「君といると、ほっとする。何も求められない。ただ、いてくれるだけで——」


「レオさん……」


「君は、僕の——」


また、言葉を切る。


ミレイは、不思議に思った。


レオさん、何を言おうとしてるんだろう。


でも、聞かなかった。


きっと、言いたくなったら——言ってくれる。


「ねえ、ミレイ」


「はい?」


「次、いつ会える?」


レオが、不安そうに聞いてくる。


「いつでも……レオさんが来られるときに」


「じゃあ——」


レオは、少し考えた。


「一週間後。また来る」


「一週間……」


「ダメ?」


「ダメじゃないです。待ってます」


「本当?」


「本当です」


レオは、安堵したように息をついた。


「よかった……また会えるって分かってると——頑張れる」


「はい」


「君が、僕の希望なんだ」


レオは、ミレイの手を握った。


「君がいるから、僕は——まだ、やっていける」


その言葉が、ミレイの胸に重く響いた。


希望。


自分が、レオの希望。


それは——嬉しいけれど。


同時に、怖くもあった。


もし、自分がいなくなったら——レオは、どうなってしまうんだろう。


壊れてしまうんじゃないだろうか。


でも、今は。


今は、そんなこと考えたくない。


ミレイは、レオの手を握り返した。


「大丈夫ですよ。私、ずっとここにいますから」


「約束?」


「約束です」


レオは、やっと笑った。


子どものような、無邪気な笑顔。


ミレイは、その笑顔が——大好きだった。


   ◇ ◇ ◇


日が暮れ始めた。


「もう、行かなきゃ」


レオが、寂しそうに立ち上がった。


「はい……」


「嫌だな……まだ、一緒にいたいのに……」


「私も……です」


二人は、名残惜しそうに手を繋いだ。


「また、手紙書くね」


「はい。私も書きます」


「毎日?」


「毎日」


「約束?」


「約束です」


レオは、嬉しそうに笑った。


それから——また、ミレイにキスをした。


今度は、優しく。


唇を重ねて、額を合わせて。


「大好きだよ」


「私も……」


「君だけが、僕の全てだから」


「……はい」


レオは、何度も振り返りながら——森を去って行った。


ミレイは、その背中が見えなくなるまで——手を振り続けた。


「……また、一週間」


ぽつりと呟く。


長い一週間。


でも——待つ。


レオのために。


ミレイは、胸に手を当てた。


温かい。


レオの温もりが、まだ残っている。


「頑張ろう」


小さく呟いて——ミレイは、村へと戻って行った。


   ◇ ◇ ◇


こうして、二人の恋は——深まっていく。


手紙で想いを交わし。


会えるときに、全てを受け止め合う。


レオの依存は、日に日に強くなっていく。


でも、ミレイは——それを、優しく受け入れ続ける。


この恋の行方は——。


そして、レオが隠している秘密とは——。


物語は、少しずつ——核心へと近づいていく。

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