第27話 帰郷と、変わらぬ絆。
スピーチから、一ヶ月が経った。
レオの評判は、さらに高まっていた。
「レオ顧問の話、感動しました」
「あなたの勇気に、敬意を表します」
各国の代表たちが、次々と声をかけてきた。
でも、レオは——少し疲れていた。
連日の会議。
外交の仕事。
スピーチの反響への対応。
「レオさん、大丈夫ですか……?」
ミレイが、心配そうに聞いた。
「うん……ちょっと、疲れてるだけ」
レオは、笑顔を作った。
でも、その笑顔は——どこか、無理をしている。
ミレイは、気づいていた。
レオさん、頑張りすぎてる——。
◇ ◇ ◇
その夜。
ルナを寝かしつけた後。
ミレイは、レオに提案した。
「ねえ、レオさん」
「うん?」
「フェルトハイムに、帰りませんか?」
「フェルトハイム……?」
レオは、驚いた顔をした。
「うん。少し、休暇を取って」
ミレイは、レオの手を握った。
「レオさん、疲れてるでしょう? 息抜きが必要です」
「でも、仕事が……」
「エドワード様に、相談してみましょう」
ミレイは、真剣な顔で言った。
「レオさんが倒れたら——元も子もありません」
レオは、少し考えた。
それから——。
「……そうだね」
レオは、微笑んだ。
「フェルトハイムか……久しぶりだな」
「はい。みんな、きっと喜びますよ」
「うん……会いたいな、みんなに」
◇ ◇ ◇
翌日、レオはエドワードに相談した。
「休暇……ですか?」
エドワードは、少し驚いた顔をした。
「はい。少しの間、フェルトハイムに帰ろうと思いまして」
「なるほど……」
エドワードは、レオの顔を見た。
少し疲れた顔。
「……分かりました。一週間、どうぞ」
「本当ですか!?」
「ええ」
エドワードは、優しく微笑んだ。
「レオ殿、最近働きすぎです。休息も、大切な仕事の一部ですよ」
「ありがとうございます……!」
レオは、深々と頭を下げた。
◇ ◇ ◇
数日後。
三人は、馬車に乗ってフェルトハイムへ向かった。
「ルナ、もうすぐよ」
ミレイが、窓の外を指差した。
「あそこが、お父さんとお母さんが——昔、住んでいた町」
「ほんと!?」
ルナは、目を輝かせた。
「うん」
レオも、懐かしそうに笑った。
「いい町だよ。みんな、優しいんだ」
馬車が、町に入った。
見覚えのある景色。
石畳の道。
小さな店々。
何も、変わっていなかった。
「着いた……」
レオは、深く息をついた。
「ただいま、フェルトハイム……」
◇ ◇ ◇
まず、『金獅子亭』を訪れた。
扉を開けると——。
「いらっしゃ——って、レオ!? ミラ!?」
ガレスが、目を丸くした。
「久しぶりです、ガレスさん!」
「お前ら……! 帰ってきたのか!?」
ガレスは、二人を抱きしめた。
「会いたかったぜ……!」
「私たちも……!」
ミレイも、涙を流していた。
「あら、この子は……?」
酒場にいた客たちが、ルナを見た。
「私たちの娘、ルナです」
レオが、紹介した。
「こんにちは!」
ルナは、元気に挨拶した。
「まあ! 可愛い!」
「リオとミラの子か! そりゃ可愛いはずだ!」
客たちが、口々に言う。
レオとミレイは、涙が止まらなかった。
ここは、やっぱり——。
僕たちの、居場所だ。
◇ ◇ ◇
次に、薬草店を訪れた。
「エルザさん!」
「ミラ!?」
エルザは、驚いて駆け寄ってきた。
「本当に、帰ってきたのね!」
「はい……! 会いたかったです……!」
二人は、抱き合った。
「この子が、ルナちゃん?」
「はい」
「まあ……大きくなって……」
エルザは、涙を拭った。
「ミラに、そっくりね」
「そうですか?」
「ええ。目元が、特に」
エルザは、ルナの頭を撫でた。
「いい子ね」
「えへへ」
ルナは、嬉しそうに笑った。
◇ ◇ ◇
その夜。
『金獅子亭』で、歓迎会が開かれた。
町の人々が、集まってきた。
「乾杯!」
「レオとミラの、帰郷に!」
グラスが、掲げられる。
料理が、並べられる。
音楽が、流れる。
賑やかで、温かい——。
懐かしい雰囲気。
「レオ、お前——立派になったな」
ガレスが、レオの肩を叩いた。
「王都で、顧問やってるんだって?」
「はい……おかげさまで」
「すごいじゃねえか」
ガレスは、嬉しそうに笑った。
「でも、忘れるなよ。お前は、ここの仲間だ」
「はい……! 忘れません……!」
レオは、胸が熱くなった。
「ミラも、元気そうで何よりだわ」
エルザが、ミレイに声をかけた。
「王都での生活、どう?」
「最初は大変でしたけど……今は、楽しいです」
ミレイは、微笑んだ。
「お茶会で、友達もできました」
「よかったわね」
エルザは、優しく微笑んだ。
「でも、たまには帰っておいで」
「はい……! 必ず……!」
◇ ◇ ◇
宴が終わった後。
三人は、昔住んでいた部屋に泊まった。
「懐かしいね」
レオが、窓から町を見下ろしながら呟いた。
「はい……」
ミレイも、隣に立った。
「ここで、たくさんのことがありましたね」
「うん」
レオは、ミレイの手を握った。
「君と、初めて夫婦として暮らした場所」
「はい……」
「ルナが生まれることが分かった場所」
「そうですね……」
二人は、微笑み合った。
「ぱぱ、まま——」
ルナが、二人を呼んだ。
「どうしたの?」
「ここ、すき」
ルナは、にこにこ笑った。
「みんな、やさしい」
レオとミレイは、涙が溢れた。
「そうだね、ルナ」
レオは、ルナを抱き上げた。
「ここは、いい町だよ」
「うん!」
三人は、抱き合った。
◇ ◇ ◇
翌日。
レオとミレイは、ルナを連れて——あの森へ向かった。
「ここが……?」
ミレイが、聞く。
「うん」
レオは、頷いた。
「初めて、君に会った場所」
泉。
木々の間から差し込む、木漏れ日。
鳥の声。
風の音。
何も、変わっていなかった。
「懐かしい……」
ミレイは、泉のほとりに座った。
「ここで、レオさんを助けたんですよね」
「うん」
レオも、隣に座った。
「あの時、君に出会えて——本当によかった」
「私も……です」
ミレイは、レオを見た。
「レオさんと出会えて、人生が変わりました」
「僕も」
レオは、ミレイの手を握った。
「君がいなければ、僕は——今も、苦しんでいたかもしれない」
「レオさん……」
「ありがとう、ミレイ」
レオは、ミレイの唇にキスをした。
優しく。
愛おしく。
ルナは、二人を見て——にこにこ笑っていた。
「ぱぱとまま、なかよし!」
「そうだよ」
レオは、ルナを抱き上げた。
「お父さんとお母さんは——ずっと、仲良しだよ」
「ルナも、なかまにいれて!」
「もちろん!」
三人は、抱き合った。
始まりの場所で——。
家族の絆を、確かめ合った。
◇ ◇ ◇
一週間の休暇は、あっという間に過ぎた。
帰る日。
町の人々が、見送りに来てくれた。
「また、帰ってこいよ!」
「ルナちゃんも、大きくなったら見せてね!」
「待ってるからな!」
みんなが、手を振っている。
「ありがとうございました……!」
レオとミレイは、涙を流しながら手を振った。
「必ず、また来ます……!」
馬車が、動き出した。
町が、遠ざかっていく。
でも——。
心は、繋がっている。
いつでも、帰れる場所。
それが、ここ——。
フェルトハイム。
◇ ◇ ◇
王都に戻る馬車の中。
「楽しかったね」
レオが、微笑んだ。
「はい……」
ミレイも、頷いた。
「レオさん、元気になりましたね」
「うん」
レオは、窓の外を見た。
「休暇を取って、よかった」
「よかったです」
ミレイは、レオの手を握った。
「これからも、たまには休んでくださいね」
「うん。約束する」
レオは、ミレイの手を握り返した。
「君と、ルナのためにも——ちゃんと、自分を大切にする」
ルナは、二人の膝の上で——すやすやと眠っていた。
小さな家族の、幸せな時間——。
◇ ◇ ◇
こうして、休暇は終わった。
でも、レオとミレイは——大切なものを、再確認した。
居場所があること。
愛してくれる人がいること。
そして、家族がいること。
それがあれば——。
どんな困難も、乗り越えられる。
物語は、続いていく——。




