第26話 ルナの成長と、家族の日常。
王都での生活が始まって、一年が経った。
ルナは、もう一歳半。
歩けるようになり、言葉も増えてきた。
「ぱぱ! あそぼ!」
ルナが、レオの足にしがみついた。
「ルナ、お父さんは今——」
「あそぼー!」
ルナは、レオを見上げた。
大きな瞳。
期待に満ちた顔。
レオは、負けた。
「……分かった。少しだけね」
「やったー!」
ルナは、嬉しそうに飛び跳ねた。
「レオさん、仕事は?」
ミレイが、苦笑しながら聞いた。
「今日は、もう終わったから」
レオは、照れくさそうに笑った。
「それに、ルナの成長は——一瞬だから。今しか、見られない」
ミレイは、微笑んだ。
レオさん、本当に——いいお父さんになった。
◇ ◇ ◇
庭で、三人は遊んでいた。
ルナが、花を摘もうとしている。
「ルナ、これは?」
レオが、花を指差した。
「おはな!」
「そう、お花だね。何色?」
「あか!」
「正解!」
レオは、ルナの頭を撫でた。
「ルナ、賢いね」
「えへへ」
ルナは、嬉しそうに笑った。
ミレイは、二人を見ながら——幸せを感じていた。
こんな日々が、ずっと続けばいいのに。
◇ ◇ ◇
その夜。
ルナを寝かしつけた後。
レオとミレイは、二人きりの時間を過ごしていた。
「ルナ、すごく成長したね」
レオが、しみじみと言った。
「はい……もう、あんなに大きくなって……」
ミレイは、涙ぐんだ。
「寂しい?」
「……少し」
ミレイは、正直に答えた。
「赤ちゃんの頃が、懐かしくて……」
「分かる」
レオは、ミレイの手を握った。
「でも、これからも——ルナの成長を、一緒に見ていこう」
「はい……!」
二人は、微笑み合った。
その時。
「ままー! ぱぱー!」
ルナの声がした。
「あれ? まだ起きてたの?」
ミレイが、ルナの部屋に行くと——。
ルナは、ベッドに座っていた。
涙を浮かべて。
「どうしたの?」
「こわい、ゆめ……みた……」
「そっか……」
ミレイは、ルナを抱き上げた。
「大丈夫よ。お母さんがいるから」
「ぱぱも……?」
「ああ、お父さんもいるよ」
レオが、ルナの頭を撫でた。
「怖い夢、もう来ないからね」
「うん……」
ルナは、二人に挟まれて——安心したように眠った。
レオとミレイは、顔を見合わせた。
「今夜は、一緒に寝る?」
「そうしましょうか」
三人は、大きなベッドで——寄り添って眠った。
◇ ◇ ◇
ある日。
エドワードが、レオに相談してきた。
「レオ殿、少しお時間よろしいですか?」
「はい、何でしょう」
「実は——近々、大きな会議があるのですが」
エドワードは、書類を見せた。
「近隣諸国との、交易会議です」
「交易会議……」
「ええ。各国の代表が集まります」
エドワードは、真剣な顔になった。
「そこで、レオ殿に——スピーチをお願いしたいのです」
「スピーチ……ですか?」
「はい。あなたの経験を——語っていただきたい」
エドワードは、レオを見た。
「影武者として苦しんだこと。そこから自由になったこと。今、王国がどう変わろうとしているか——」
「でも、私は……」
「あなたの言葉には、重みがあります」
エドワードは、力強く言った。
「きっと、他国の代表たちにも——響くはずです」
レオは、少し考えた。
それから——。
「分かりました。やらせていただきます」
「ありがとうございます!」
◇ ◇ ◇
その夜、レオはミレイに相談した。
「スピーチ……?」
ミレイは、驚いた顔をした。
「うん。大勢の前で、話すんだ」
「大丈夫ですか……?」
「正直、緊張する」
レオは、苦笑した。
「でも、やらなきゃいけないことだと思う」
「レオさん……」
「君は、どう思う?」
レオは、ミレイを見た。
「僕の過去を——話すことについて」
ミレイは、少し考えた。
それから——。
「話すべきだと思います」
「本当に?」
「はい」
ミレイは、レオの手を握った。
「レオさんの経験は——きっと、誰かの役に立つはずです」
「ミレイ……」
「それに」
ミレイは、微笑んだ。
「レオさんの強さを——みんなに知ってほしいです」
レオは、ミレイを抱きしめた。
「ありがとう……君がいてくれて、本当によかった……」
◇ ◇ ◇
それから、レオはスピーチの準備を始めた。
何を話すか。
どう伝えるか。
毎晩、ミレイと一緒に——練習した。
「どう? 緊張してる?」
ミレイが、聞く。
「うん……すごく」
レオは、原稿を見つめた。
「自分の過去を、こんなに大勢の前で話すなんて——」
「大丈夫ですよ」
ミレイは、レオの背中を撫でた。
「レオさんなら、できます」
「……うん」
レオは、深く息をついた。
「やってみる」
◇ ◇ ◇
会議の日。
大広間には、各国の代表が集まっていた。
王族。貴族。大臣たち。
レオは、壇上に立った。
手が、震えている。
心臓が、早鐘を打っている。
でも——。
客席を見ると、ミレイがいた。
ルナを抱いて。
微笑んで。
レオは、勇気をもらった。
「皆様、初めまして」
レオは、話し始めた。
「私は、レオ・アシュトンと申します」
声が、会場に響く。
「私は——かつて、この国の影武者でした」
会場が、どよめいた。
「本物のレオン王子が亡くなった後、私は——彼の代わりとして、五年間生きてきました」
レオは、淡々と語った。
「完璧でいなければならない。失敗は許されない。本当の自分を、隠し続ける——」
「それは、とても苦しいことでした」
レオの声が、少し震えた。
「でも、ある日——一人の女性に出会いました」
レオは、ミレイを見た。
「彼女は、私を——『レオン王子』としてではなく、ただの『レオ』として見てくれました」
ミレイの目から、涙が溢れた。
「彼女のおかげで、私は——本当の自分を取り戻せました」
レオは、また前を向いた。
「そして今、この国は——変わろうとしています」
「強権ではなく、対話を。秘密ではなく、透明性を」
レオの声が、力強くなった。
「人は、誰でも——自分らしく生きる権利があります」
「それを、認め合える国に——この国は、なろうとしています」
会場が、静まり返った。
「私は、これからも——この国のために働きます」
レオは、深々と頭を下げた。
「皆様、どうか——この国の挑戦を、見守っていただけますように」
沈黙。
それから——。
拍手が起きた。
一人、また一人。
やがて、会場全体が——拍手に包まれた。
レオは、涙を流していた。
受け入れてもらえた——。
◇ ◇ ◇
スピーチの後。
ミレイが、駆け寄ってきた。
「レオさん……! 素晴らしかったです……!」
「ミレイ……」
レオは、ミレイとルナを抱きしめた。
「ありがとう……君がいてくれたから、話せた……」
「ぱぱ、すごい!」
ルナも、嬉しそうに言った。
「ルナも、見ててくれたの?」
「うん! ぱぱ、かっこよかった!」
レオは、二人を強く抱きしめた。
この家族がいるから——。
僕は、頑張れる。
◇ ◇ ◇
その夜。
「今日、本当にお疲れ様でした」
ミレイが、レオの肩を揉んでいた。
「ありがとう」
レオは、リラックスした顔をしている。
「でも、君のおかげだよ」
「私、何もしてませんよ」
「いや」
レオは、ミレイの手を握った。
「君がいてくれただけで——十分だった」
「レオさん……」
「これからも、ずっと——一緒にいてほしい」
レオは、ミレイを見つめた。
「どんな困難があっても、君と——家族で、乗り越えたい」
「はい……!」
ミレイは、涙を浮かべて微笑んだ。
「私も、ずっと——レオさんと一緒にいたいです」
二人は、キスをした。
優しく。
愛おしく。
隣の部屋では、ルナがすやすやと眠っている。
小さな家族の、幸せな日々——。
これからも、続いていく。
◇ ◇ ◇
こうして、レオは——大きな一歩を踏み出した。
自分の過去を、公にした。
それは、勇気のいることだった。
でも、家族がいるから——。
ミレイとルナがいるから——。
何でも、乗り越えられる。
物語は、さらに続いていく——。




