第25話 評価される日々と、家族の時間。
王都での生活が始まって、三ヶ月が経った。
レオは、顧問として——順調に働いていた。
「レオ殿の提案、素晴らしいです」
エドワードが、満足そうに頷いた。
「この政策なら、民衆の支持を得られるでしょう」
「ありがとうございます」
レオは、少し照れくさそうに笑った。
「でも、これは——私一人の考えではありません」
「と、言いますと?」
「フェルトハイムで学んだことです」
レオは、説明した。
「あの町の人々が、どう生きているか。何を求めているか——それを見てきたから」
「なるほど……」
エドワードは、感心した顔をした。
「やはり、あなたを招いて正解でした」
会議室には、他の貴族たちもいた。
彼らも、レオの提案に——頷いている。
「レオ顧問の意見は、いつも的確だ」
「そうだな。民衆の目線を忘れていなかった」
「グレゴリー時代とは、大違いだ」
貴族たちの評価は、上々だった。
レオは、胸が温かくなった。
認められている。
自分の力で——。
◇ ◇ ◇
その日の夕方。
レオは、早めに仕事を終えて部屋に戻った。
「ただいま」
「おかえりなさい」
ミレイが、笑顔で迎えた。
ルナは、床で遊んでいる。
「ぱぱ!」
ルナが、レオを見て手を伸ばした。
「ルナ!」
レオは、駆け寄った。
「今、『ぱぱ』って言った!?」
「はい! 今日、初めて言ったんです!」
ミレイは、嬉しそうに笑った。
「ルナ、もう一回言ってみて?」
「ぱぱ!」
レオは、感動で涙が出そうになった。
「ルナ……! すごいね……!」
レオは、ルナを抱き上げた。
「お父さん、嬉しいよ……!」
「まま!」
ルナは、ミレイを指差した。
「そうだよ、お母さんだよ」
ミレイも、涙を浮かべて笑った。
三人は、抱き合った。
小さな成長。
でも、かけがえのない——瞬間。
◇ ◇ ◇
その夜。
ルナを寝かしつけた後。
レオとミレイは、二人きりの時間を過ごしていた。
「仕事、順調みたいですね」
ミレイが、お茶を入れながら言った。
「うん」
レオは、頷いた。
「エドワード様も、貴族たちも——認めてくれてる」
「よかったです……」
「でも」
レオは、ミレイを見た。
「君は? 大丈夫?」
「え……?」
「王都での生活、慣れた?」
レオは、心配そうに聞いた。
「友達とか、できた?」
「……正直に言うと」
ミレイは、少し俯いた。
「まだ、あまり……」
「そっか……」
レオは、申し訳なさそうな顔をした。
「ごめん。僕、仕事ばかりで——」
「いえ! レオさんのせいじゃないです!」
ミレイは、慌てて首を横に振った。
「ただ……その……」
「うん?」
「王都の人たち、みんな——華やかで、優雅で……」
ミレイは、困ったように笑った。
「私みたいな村娘とは、違う世界の人たちで……」
「ミレイ……」
「大丈夫です」
ミレイは、レオの手を握った。
「レオさんとルナがいれば、それで十分ですから」
レオは、ミレイを抱きしめた。
「ごめんね……」
「謝らないでください」
ミレイは、レオの胸に顔を埋めた。
「レオさんが、幸せそうに働いているのを見るのが——私の幸せですから」
「ミレイ……」
「だから、大丈夫です」
でも、レオには分かっていた。
ミレイは、寂しいんだ。
何か、してあげたい——。
◇ ◇ ◇
数日後。
レオは、エドワードに相談した。
「妻のことで、お願いがあるのですが」
「ミレイ様のことですか?」
「はい」
レオは、事情を話した。
ミレイが、王都に馴染めていないこと。
友達ができていないこと。
「なるほど……」
エドワードは、少し考えた。
「では——お茶会は、いかがでしょうか」
「お茶会……?」
「ええ。王宮では、定期的に貴族の夫人たちが集まるお茶会があります」
エドワードは、説明した。
「そこに、ミレイ様を招待しましょう」
「でも……ミレイは、貴族じゃありません」
「構いませんよ」
エドワードは、微笑んだ。
「レオ殿の奥様です。それだけで、十分な資格です」
「……ありがとうございます」
レオは、深々と頭を下げた。
◇ ◇ ◇
その夜、レオはミレイに伝えた。
「お茶会……?」
ミレイは、驚いた顔をした。
「うん。貴族の夫人たちが集まるんだって」
「でも、私……そんな……」
「大丈夫」
レオは、ミレイの手を握った。
「君なら、できるよ」
「でも、マナーとか……分からないです……」
「教えるよ。一緒に、練習しよう」
レオは、優しく微笑んだ。
「君は、素晴らしい人だ。きっと、みんな分かってくれる」
ミレイは、少し不安そうだったが——。
「……分かりました。やってみます」
「ありがとう」
レオは、ミレイを抱きしめた。
◇ ◇ ◇
それから、レオはミレイに——お茶会のマナーを教えた。
紅茶の飲み方。
会話の仕方。
立ち居振る舞い。
「こう……ですか?」
ミレイが、ぎこちなくカップを持つ。
「うん、いい感じ」
レオは、励ました。
「もう少し、リラックスして」
「はい……」
練習を重ねるうちに、ミレイは少しずつ——慣れてきた。
◇ ◇ ◇
お茶会の日。
ミレイは、緊張した顔で王宮の応接室に入った。
そこには、五人ほどの貴婦人たちがいた。
「あら、新しい方?」
一人の夫人が、声をかけてきた。
「は、初めまして……ミレイと申します……」
ミレイは、深々とお辞儀をした。
「まあ、丁寧な方ね」
夫人は、にこやかに笑った。
「私は、アデライン。こちらへどうぞ」
ミレイは、席に座った。
緊張で、手が震えている。
「ミレイさんは、レオ顧問の奥様なんですって?」
別の夫人が、興味深そうに聞いてきた。
「は、はい……」
「レオ顧問、素晴らしい方ですわね」
「最近の政策、とてもいいって——主人が言ってました」
夫人たちが、口々に言う。
「あの……ありがとうございます……」
ミレイは、顔を赤くした。
「ところで、ミレイさん——どちらのご出身?」
「あ……セントラル王国の、ノルン村という……」
「ノルン村? 聞いたことないわね」
「辺境の、小さな村です……」
夫人たちは、少し驚いた顔をした。
でも——。
「まあ、素敵!」
アデラインが、嬉しそうに言った。
「村のご出身なんて、珍しいわ」
「え……?」
「私たち、ずっと王都育ちだから——村のこと、何も知らないのよ」
他の夫人たちも、頷いた。
「そうなのよ。教えてくださらない? 村での暮らしって、どんな感じなの?」
ミレイは、戸惑った。
でも——夫人たちの目は、本当に興味深そうだった。
「えっと……朝は早くから、畑仕事をして……」
ミレイは、話し始めた。
ノルン村のこと。
フェルトハイムのこと。
町の人々のこと。
夫人たちは、目を輝かせて聞いていた。
「まあ、素敵!」
「本当に、違う世界なのね!」
「いつか、行ってみたいわ!」
ミレイは、だんだん——リラックスしてきた。
この人たち、優しい——。
◇ ◇ ◇
お茶会が終わった後。
アデラインが、ミレイに声をかけてきた。
「ミレイさん、また来てくださいね」
「え……いいんですか?」
「もちろん! あなたのお話、とても面白かったわ」
アデラインは、にこやかに笑った。
「次回も、楽しみにしてます」
「ありがとうございます……!」
ミレイは、涙が出そうになった。
受け入れてもらえた——。
◇ ◇ ◇
その夜。
ミレイは、レオに報告した。
「どうだった?」
「すごく……楽しかったです!」
ミレイは、嬉しそうに笑った。
「みなさん、優しくて……私の話、聞いてくれて……」
「よかった……!」
レオは、ミレイを抱きしめた。
「君なら、できると思ってたよ」
「レオさん……ありがとうございます……」
「お礼なんていいよ」
レオは、ミレイの額にキスをした。
「君が、幸せなら——それが、僕の幸せだから」
ミレイは、レオの胸に顔を埋めた。
ああ、この人と——。
家族でいられて、本当に幸せ。
◇ ◇ ◇
それから、ミレイの王都での生活は——少しずつ、充実していった。
お茶会で友達ができた。
町を散策するようにもなった。
ルナも、すくすくと育っている。
そして、レオは——。
仕事でも、家庭でも——幸せだった。
「ねえ、ミレイ」
ある夜、レオが呟いた。
「僕、思うんだ」
「何を……ですか?」
「ここに来て、よかったって」
レオは、ミレイを見た。
「仕事も充実してる。君も、馴染んできた。ルナも、元気だ」
「はい……」
「これが——本当の幸せなんだって」
レオは、ミレイの手を握った。
「君と、ルナと——家族で、一緒にいられる」
「私も……です」
ミレイは、涙を浮かべて微笑んだ。
「レオさんと、ルナと——三人でいられることが、何よりも幸せです」
二人は、抱き合った。
隣の部屋では、ルナがすやすやと眠っている。
小さな家族の、幸せな日々——。
◇ ◇ ◇
こうして、レオとミレイの王都での生活は——順調に進んでいった。
仕事での評価。
友人関係の構築。
家族の成長。
全てが——うまくいっていた。
でも、人生は——いつも順風満帆とは限らない。
やがて、新たな試練が——。
でも、それは——また、別の物語。
今は、ただ——。
この幸せを、噛みしめていたい。




