第24話 新しい王都と、変わった王宮。
王都に到着したその日。
三人は、王宮の来客用の館に案内された。
「こちらが、お部屋になります」
案内人が、扉を開けた。
広い部屋。
立派な家具。
窓からは、庭が見える。
「すごい……」
ミレイは、目を丸くした。
「こんな立派な部屋……」
「新宰相様からの、配慮です」
案内人は、にこやかに言った。
「ご家族でゆっくりお過ごしください。明日、宰相様がお会いになります」
「ありがとうございます」
レオは、頭を下げた。
案内人が去った後——。
「レオさん……本当に、大丈夫でしょうか……」
ミレイは、不安そうに呟いた。
「大丈夫」
レオは、ミレイの手を握った。
「以前とは、違う。今度は——僕たちは、対等なんだ」
「はい……」
ミレイは、ルナを抱きしめた。
ルナは、新しい場所にきょろきょろしている。
どうか——。
うまくいきますように。
◇ ◇ ◇
翌日。
レオは、新宰相エドワードに会いに行った。
ミレイとルナは、部屋で待つことになった。
「行ってきます」
「はい……気をつけて」
レオは、ミレイの頬にキスをした。
それから、ルナの頭を撫でる。
「すぐ戻るからね」
ルナは、にこにこ笑った。
◇ ◇ ◇
宰相の執務室。
扉をノックすると、中から声がした。
「どうぞ」
レオは、部屋に入った。
そこにいたのは——若い男性だった。
三十代前半くらい。
穏やかな顔立ち。
グレゴリーとは、全く違う雰囲気。
「お待ちしておりました、レオ殿」
エドワードは、立ち上がって握手を求めてきた。
「初めまして。エドワード・フォン・アルトリアです」
「レオ・アシュトンです」
レオは、握手をした。
「この度は、お声がけいただき——」
「いえいえ」
エドワードは、にこやかに笑った。
「こちらこそ、来ていただき感謝しています。さあ、座ってください」
二人は、テーブルに向かい合って座った。
「まず、率直に申し上げます」
エドワードは、真剣な顔になった。
「グレゴリー前宰相の統治は——あまりにも強権的でした」
「……はい」
「彼は、あなたを——影武者として、利用した」
エドワードの目が、申し訳なさそうに揺れた。
「その責任は、王国全体にあります」
「エドワード様……」
「だから、謝罪させてください」
エドワードは、深々と頭を下げた。
「あなたに、辛い思いをさせてしまったこと——心から、お詫びします」
レオは、目を見開いた。
宰相が——頭を下げている。
「顔を上げてください……!」
「いえ」
エドワードは、そのままだった。
「これは、王国としての——謝罪です」
しばらくして、エドワードは顔を上げた。
「今、王国は変わろうとしています」
「変わろうと……?」
「ええ。強権ではなく、対話を。秘密ではなく、透明性を」
エドワードは、窓の外を見た。
「国民のための、王国に」
「……そうですか」
「そのために——あなたの力が必要なのです」
エドワードは、レオを見た。
「あなたは、五年間——『レオン王子』として、この国を見てきた」
「はい……」
「その経験。その視点。それが、今の王国には——必要なんです」
レオは、少し考えた。
それから——。
「分かりました」
レオは、頷いた。
「微力ながら、お手伝いさせていただきます」
「ありがとうございます!」
エドワードは、嬉しそうに笑った。
「では、早速ですが——」
エドワードは、書類を取り出した。
「これが、現在の王国の課題です」
◇ ◇ ◇
数時間後。
レオは、部屋に戻った。
「おかえりなさい」
ミレイが、迎えた。
「ただいま」
レオは、疲れた顔をしていた。
「大丈夫ですか……?」
「うん。大丈夫」
レオは、ソファに座り込んだ。
「新宰相——エドワード様は、いい人だった」
「そうですか……」
「グレゴリーとは、全然違う」
レオは、天井を見上げた。
「本当に、王国を変えようとしてる」
「それは……よかったですね」
「うん」
レオは、ミレイを見た。
「でも、大変そうだ。課題が山積みで」
「レオさん、無理しないでくださいね」
「分かってる」
レオは、微笑んだ。
「君が、いてくれるから——大丈夫」
ミレイは、レオの隣に座った。
「私も、できることがあれば——手伝います」
「ありがとう」
レオは、ミレイの手を握った。
「君がいてくれるだけで、十分だよ」
◇ ◇ ◇
それから、日々は忙しくなった。
レオは、毎日エドワードと会議をした。
国の政策。
改革案。
民衆の声。
全てを、一緒に考えた。
「レオ殿、この案について——どう思いますか?」
エドワードが、書類を見せる。
「そうですね……」
レオは、真剣に考えた。
「この部分は、もう少し——民衆の目線で考えた方がいいかもしれません」
「民衆の目線……?」
「はい。私、フェルトハイムという町で——普通の人として暮らしていました」
レオは、説明した。
「そこで学んだことは——政策は、上からではなく、下から見ることが大切だということです」
「なるほど……」
エドワードは、感心した顔をした。
「さすがです、レオ殿」
「いえ……」
二人は、何時間も議論した。
時には意見が対立することもあった。
でも——。
対等に、話し合えた。
それが、レオにとって——何よりも嬉しかった。
◇ ◇ ◇
ある日。
エドワードが、提案してきた。
「レオ殿、ご家族を——王宮に招待したいのですが」
「え……?」
「奥様とお嬢様に、お会いしたいんです」
エドワードは、にこやかに言った。
「レオ殿を支えてくださっている方々に——お礼を言いたくて」
「……いいんですか?」
「もちろんです」
レオは、ミレイに相談した。
「王宮に……?」
ミレイは、緊張した顔をした。
「大丈夫。エドワード様は、いい人だから」
「でも……私、王宮なんて……」
「君は、僕の妻だ」
レオは、ミレイの手を握った。
「堂々としていればいい」
「……はい」
ミレイは、勇気を出して頷いた。
◇ ◇ ◇
翌日。
ミレイとルナは、レオと一緒に王宮を訪れた。
エドワードの執務室。
「ようこそ」
エドワードは、温かく迎えた。
「レオ殿の奥様ですね。初めまして」
「は、初めまして……ミレイと申します……」
ミレイは、緊張で声が震えていた。
「そして、こちらが——」
エドワードは、ルナを見た。
「可愛らしいお嬢様ですね」
ルナは、エドワードをじっと見ている。
それから——。
にこっと、笑った。
「おや」
エドワードは、嬉しそうに笑った。
「気に入られたようです」
「この子、人見知りしないんです……」
ミレイは、少しほっとした。
「それは素晴らしいことです」
エドワードは、椅子を勧めた。
「どうぞ、座ってください」
三人は、座った。
ルナは、ミレイの膝の上。
「ミレイ様」
エドワードは、真剣な顔で言った。
「レオ殿を、支えてくださり——ありがとうございます」
「い、いえ……」
「レオ殿は、王国にとって——かけがえのない存在です」
エドワードは、レオを見た。
「彼の知識、経験——そして、何より——誠実さ」
「エドワード様……」
「それも、全て——あなたが支えてくださったからこそ」
エドワードは、ミレイに頭を下げた。
「本当に、ありがとうございます」
ミレイは、涙が出そうになった。
「私……そんな……」
「いえ」
エドワードは、顔を上げた。
「あなたは、素晴らしい方です」
それから、エドワードはルナを見た。
「そして、このお嬢様も——きっと、素晴らしい子に育つでしょう」
ルナは、エドワードに手を伸ばした。
「おや……」
エドワードは、笑いながらルナの手を握った。
「将来が、楽しみですね」
◇ ◇ ◇
その夜。
部屋に戻った三人は——ほっとしていた。
「エドワード様、いい方でしたね」
ミレイが、微笑んだ。
「うん」
レオも、頷いた。
「本当に、変わったんだ。王宮が」
「はい……」
「これなら——ここで、やっていけそうだ」
レオは、窓の外を見た。
「王国のために、働ける」
「レオさん……」
ミレイは、レオの手を握った。
「無理しないでくださいね」
「分かってる」
レオは、ミレイを抱き寄せた。
「君と、ルナがいる。それを忘れない」
ルナは、二人の間で——すやすやと眠っていた。
小さな家族。
新しい場所で。
新しい挑戦。
でも、変わらない——絆。
◇ ◇ ◇
こうして、レオの新しい生活が始まった。
顧問として、王国のために働く。
家では、夫として、父として——家族を大切にする。
バランスを取りながら。
ミレイとルナと共に——。
新しい未来を、築いていく。
物語は、また新たな章へ——。




