第21話 新しい命と、深まる愛。
妊娠が分かってから、二ヶ月が経った。
ミレイのお腹は、少しずつ大きくなっていた。
「ミラ、無理するなよ」
エルザが、心配そうに言った。
「重いものは、私が運ぶから」
「ありがとうございます……でも、まだ大丈夫です」
ミレイは、微笑んだ。
「お腹も、そんなに大きくないですし」
「それでも、気をつけなさい」
エルザは、優しく諭した。
「あなたは、今——二人分の命を抱えてるんだから」
二人分の命。
その言葉に、ミレイは胸が温かくなった。
お腹に、手を当てる。
小さな命が、ここにいる。
レオさんと、私の——。
◇ ◇ ◇
その夜。
部屋に戻ると、レオが夕食の準備をしていた。
「おかえり、ミレイ」
「ただいま……あれ、レオさんが料理を?」
「うん」
レオは、照れくさそうに笑った。
「君、疲れてるだろうと思って」
テーブルには、シンプルな料理が並んでいる。
スープ。サラダ。パン。
「レオさん……」
ミレイの目から、涙が溢れた。
「どうしたの!?」
レオは、慌ててミレイに駆け寄った。
「ごめん、まずかった?」
「違います……嬉しくて……」
ミレイは、涙を拭った。
「レオさんが、こんなに優しくしてくれて……」
「当たり前じゃないか」
レオは、ミレイを抱き寄せた。
「君は、僕の妻で——それに、僕たちの子どもを育ててくれてるんだから」
「レオさん……」
「だから、君を大切にするのは——当然のことだよ」
レオは、ミレイの額にキスをした。
「さあ、食べよう。冷めちゃう」
「はい……!」
二人は、テーブルに向かい合って座った。
「いただきます」
レオの作った料理は——少し塩気が強かったけど。
でも、ミレイには——世界で一番美味しく感じた。
愛情が、込められているから。
◇ ◇ ◇
食後。
レオは、ミレイのお腹に手を当てた。
「まだ、動かないね」
「はい……もう少し経ったら、動き始めるって——エルザさんが」
「そっか」
レオは、優しくお腹を撫でた。
「早く、会いたいな」
「私も……です」
ミレイは、レオの手に自分の手を重ねた。
「男の子がいいですか? 女の子がいいですか?」
「どっちでもいいよ」
レオは、微笑んだ。
「元気に生まれてきてくれれば、それだけで」
「そうですね……」
「でも」
レオは、少し考えた。
「もし女の子だったら、君に似てほしいな」
「え……?」
「優しくて、温かくて——君みたいな子」
レオは、ミレイを見つめた。
「そんな子なら、きっと可愛いだろうな」
ミレイは、顔を真っ赤にした。
「も、もう……」
「本当だよ」
レオは、ミレイを抱きしめた。
「君は、素晴らしい母親になる」
「……そうでしょうか」
「絶対に」
レオは、力強く頷いた。
「だって、君は——誰よりも、優しいから」
ミレイは、レオの胸に顔を埋めた。
この人と、家族になれて——。
本当に、よかった。
◇ ◇ ◇
それから、日々は穏やかに過ぎていった。
レオは、ミレイが働きすぎないように気を配った。
重いものは、絶対に持たせない。
疲れていたら、すぐに休ませる。
夜は、必ず一緒に夕食を取る。
過保護なくらい、気を遣ってくれる。
「レオさん、私——そんなに弱くないですよ」
ミレイが、苦笑しながら言った。
「分かってる」
レオは、真剣な顔で答えた。
「でも、心配なんだ。君のことも、赤ちゃんのことも」
「レオさん……」
「だから、頼む。無理しないで」
レオの目が、不安そうに揺れている。
ミレイは、レオの頬に手を添えた。
「大丈夫ですよ。私、ちゃんと気をつけてますから」
「……うん」
レオは、ミレイの手を握った。
「ごめん。心配しすぎだよね」
「いえ……嬉しいです」
ミレイは、微笑んだ。
「レオさんが、こんなに私たちのことを想ってくれて」
二人は、額を合わせた。
温かい。
安心する。
◇ ◇ ◇
妊娠五ヶ月。
ついに、お腹の赤ちゃんが動き始めた。
「レオさん! 動きました!」
ミレイが、興奮した顔で叫んだ。
「本当!?」
レオは、すぐにミレイのお腹に手を当てた。
そして——。
ポコッ。
小さな動き。
「……っ!」
レオの目が、大きく見開かれた。
「動いた……! 本当に、動いた……!」
「はい……!」
ミレイも、涙を浮かべて笑った。
「私たちの赤ちゃん……」
「すごい……」
レオは、お腹に顔を近づけた。
「ねえ、聞こえる? 僕、君のお父さんだよ」
ポコポコ。
また、動いた。
「返事してる……!」
レオは、感動で涙を流していた。
「ミレイ……ありがとう……」
「え……?」
「こんな、幸せをくれて——」
レオは、ミレイを抱きしめた。
「君と出会えて、本当によかった……」
「私も……レオさんと出会えて、幸せです……」
二人は、抱き合った。
お腹の赤ちゃんを、間に挟んで——。
◇ ◇ ◇
妊娠七ヶ月。
お腹は、だいぶ大きくなっていた。
もう、薬草店の仕事は休んでいる。
エルザが「無理しちゃダメ」と言ったからだ。
「暇ですね……」
ミレイは、窓から外を眺めながら呟いた。
「暇なら、これ読む?」
レオが、本を差し出した。
「赤ちゃんの育て方の本。ガレスさんが、貸してくれたんだ」
「まあ……!」
ミレイは、嬉しそうに本を受け取った。
「ありがとうございます」
「一緒に、勉強しよう」
レオは、ミレイの隣に座った。
二人で、本を読む。
授乳の仕方。
おむつの替え方。
寝かしつけの方法。
「へえ……赤ちゃんって、こんなに大変なんだ……」
レオが、驚いた顔をした。
「不安になってきた……僕、ちゃんと父親になれるかな……」
「大丈夫ですよ」
ミレイは、レオの手を握った。
「二人で、頑張りましょう」
「……うん」
レオは、ミレイを見た。
「君がいれば、大丈夫な気がする」
「私も……レオさんがいれば、大丈夫です」
二人は、微笑み合った。
◇ ◇ ◇
妊娠九ヶ月。
お腹は、かなり大きくなっていた。
歩くのも、少し大変。
「ミレイ、ゆっくりでいいから」
レオが、ミレイの腕を取った。
「はい……」
二人は、ゆっくりと部屋を歩く。
「お腹、重そうだね」
「はい……でも、もう少しです」
ミレイは、お腹を撫でた。
「もうすぐ、会えますね」
「うん」
レオも、お腹に手を当てた。
「楽しみだね」
その時。
ぐっ。
お腹が、張った。
「あっ……」
ミレイは、顔をしかめた。
「ミレイ!?」
「大丈夫……です……前駆陣痛、だと思います……」
「前駆陣痛……?」
「本陣痛の前に来る、練習みたいなものです……」
ミレイは、深呼吸をした。
「すぐ、治まります……」
「そっか……」
レオは、心配そうにミレイを見守った。
もうすぐ、生まれる。
僕たちの、赤ちゃんが。
レオは、緊張と期待で——胸がいっぱいだった。
◇ ◇ ◇
そして、ある夜——。
陣痛が、始まった。
「レオさん……! 痛い……!」
ミレイが、苦しそうに呼んだ。
「ミレイ!」
レオは、すぐに飛び起きた。
「陣痛!?」
「はい……! 多分……!」
「分かった! すぐに、助産師さんを呼んでくる!」
レオは、慌てて部屋を飛び出した。
階段を駆け下り、ガレスの部屋を叩く。
「ガレスさん! ミレイが! 陣痛が!」
「何!?」
ガレスは、すぐに起きた。
「分かった! 助産師を呼んでくる! お前は、ミレイの側にいろ!」
「はい!」
レオは、部屋に戻った。
ミレイは、ベッドで苦しそうにしている。
「ミレイ……!」
「レオさん……! 痛い……! すごく、痛いです……!」
「大丈夫! すぐに、助産師さんが来る!」
レオは、ミレイの手を握った。
「頑張って! 僕が、ここにいるから!」
「はい……!」
ミレイは、レオの手を強く握り返した。
痛い。
でも——。
もうすぐ、会える。
私たちの、赤ちゃんに——。
◇ ◇ ◇
それから、長い夜が始まった。
助産師が到着し、ミレイの出産を手伝ってくれた。
レオは、ずっとミレイの側にいた。
手を握って。
励まして。
「頑張って、ミレイ!」
「うっ……! あああ……!」
ミレイは、必死に力んだ。
汗が、額を伝う。
痛みに、顔が歪む。
でも——。
諦めない。
この子を、産むんだ。
レオさんと、私の——。
「もう少しよ! 頑張って!」
助産師が、励ます。
「はい……! はい……!」
ミレイは、最後の力を振り絞った。
そして——。
「オギャア! オギャア!」
赤ちゃんの泣き声が、響いた。
「生まれた……!」
助産師が、赤ちゃんを抱き上げた。
「元気な女の子よ!」
「女の子……!」
レオは、涙を流していた。
「ミレイ……! 女の子だって……!」
「女の子……」
ミレイも、涙を流しながら微笑んだ。
「会いたい……会いたいです……」
助産師は、赤ちゃんをミレイに渡した。
小さな、小さな——。
でも、確かに生きている——。
命。
「あ……」
ミレイは、赤ちゃんを抱いた。
温かい。
柔らかい。
私たちの、赤ちゃん。
「可愛い……」
ミレイは、涙が止まらなかった。
「こんなに、可愛い……」
レオも、赤ちゃんを見つめた。
小さな手。
小さな足。
目を閉じて、すやすやと——。
「ミレイ……ありがとう……」
レオは、ミレイの額にキスをした。
「君が、産んでくれて——」
「二人の、赤ちゃんです……」
ミレイは、レオを見た。
「会えて、嬉しいですね……」
「ああ……」
レオは、ミレイと赤ちゃんを——抱きしめた。
家族。
僕たちの、家族。
これが——本当の、幸せ。
◇ ◇ ◇
こうして、新しい命が誕生した。
レオとミレイの娘——。
小さな家族の、始まり。
これから、どんな未来が待っているのか——。
でも、三人なら——。
きっと、乗り越えられる。
愛し合う家族として——。




