第20話 脱出計画と、再びの自由。
ミレイが王都を訪れてから、一週間が経った。
ミレイは、王都の安宿に滞在しながら——レオからの連絡を待っていた。
毎日、王宮の近くを歩く。
レオのことを想いながら。
待つしか、できない。
でも、信じている。
レオさんは、必ず——。
◇ ◇ ◇
その頃、王宮では。
レオは、ユリウスと密かに会っていた。
「計画は、どうだ?」
レオが、小声で聞く。
「準備は整った」
ユリウスは、地図を広げた。
「三日後の夜。グレゴリー様が宮廷会議で不在になる」
「その時に……」
「ああ。警備も手薄になる」
ユリウスは、地図の一点を指差した。
「この通路を使えば、外に出られる」
「本当に、いいのか?」
レオは、ユリウスを見た。
「君も、罰せられるかもしれない」
「構わない」
ユリウスは、微笑んだ。
「殿下には、幸せになってほしい。それが、私の願いだ」
レオは、胸が熱くなった。
「ありがとう、ユリウス……」
「礼はいい」
ユリウスは、立ち上がった。
「三日後、深夜零時。準備をしておいてくれ」
「分かった」
レオは、拳を握った。
あと三日。
三日後には——ミレイのもとへ。
◇ ◇ ◇
三日後、深夜。
レオは、部屋で待機していた。
荷物は、最小限。
着替えと、わずかな金貨だけ。
時計が、零時を指した。
コンコン。
扉がノックされた。
「殿下、私です」
ユリウスの声。
レオは、扉を開けた。
「行こう」
ユリウスが、手招きする。
二人は、静かに廊下を進んだ。
警備兵の目を盗んで。
足音を立てないように。
緊張が、レオの背中を走る。
見つかったら、終わりだ。
「こっちだ」
ユリウスが、隠し扉を開けた。
狭い通路。
埃っぽい空気。
「ここは、昔の脱出用の通路だ」
ユリウスが、説明した。
「もう使われていないが——外に繋がっている」
二人は、通路を進んだ。
暗い。
狭い。
でも——。
自由への道。
やがて——。
外の空気が、感じられた。
「ここだ」
ユリウスが、扉を開けた。
外。
王宮の裏手。
森が広がっている。
「ユリウス……」
レオは、振り返った。
「本当に、ありがとう」
「いいんだ」
ユリウスは、微笑んだ。
「さあ、行け。ミレイさんが、待っている」
「ああ」
レオは、ユリウスと握手をした。
「君のこと、忘れない」
「殿下も、お元気で」
レオは、森へと駆け出した。
振り返らずに。
前だけを見て。
ミレイのもとへ——。
◇ ◇ ◇
王都の安宿。
ミレイは、眠れずにいた。
窓から、夜空を見上げている。
レオさん……。
いつ、会えるんだろう。
その時。
コンコン。
扉がノックされた。
「はい……?」
恐る恐る、扉を開ける。
そして——。
レオが、そこにいた。
「レオさん……!?」
「ミレイ……!」
レオは、ミレイを抱きしめた。
「会いたかった……! 会いたかった……!」
「レオさん……! 本当に……!」
ミレイも、レオを強く抱きしめた。
やっと。
やっと、会えた。
二人は、しばらく抱き合っていた。
離れたくないと、言わんばかりに。
「脱出、できたんですね……」
ミレイが、涙を流しながら言った。
「ああ。ユリウスが、助けてくれた」
レオは、ミレイの顔を両手で包んだ。
「もう、離れない。絶対に」
「はい……!」
「これから、一緒に——」
レオは、ミレイの唇にキスをした。
深く。
愛おしく。
ああ、やっと。
やっと、君と——。
「ミレイ、荷物は?」
レオは、真剣な顔で聞いた。
「すぐに出発しよう。朝になれば、追っ手が来るかもしれない」
「はい! すぐに準備します!」
ミレイは、慌てて荷物をまとめた。
数分後、二人は宿を出た。
真夜中の王都。
人通りはまばら。
二人は、足早に町を抜けた。
「馬車乗り場まで、急ごう」
「はい!」
手を繋いで、走る。
後ろを振り返らずに。
ただ、前へ——。
◇ ◇ ◇
夜明け前。
二人は、夜行の馬車に乗り込んだ。
国境へ向かう馬車。
「これで……大丈夫……」
ミレイは、ほっとした顔をした。
レオは、ミレイの手を握った。
「ああ。もう、安全だ」
馬車が動き出す。
王都が、遠ざかっていく。
二人は、手を繋いだまま——前を向いた。
もう、何も恐れない。
一緒なら、どんな未来でも——。
◇ ◇ ◇
数日後。
二人は、フェルトハイムに戻ってきた。
町の人々が、驚いた顔で迎えた。
「ミラ!?」
「レオも!?」
「帰ってきたのか!?」
ガレスが、駆け寄ってきた。
「お前ら……!」
「ただいま、ガレスさん」
レオは、にかっと笑った。
「戻ってきました」
「よかった……! 本当に、よかった……!」
ガレスは、二人を抱きしめた。
「もう、行くなよ!」
「はい。もう、どこにも行きません」
町の人々が、歓声を上げた。
「おかえり!」
「よく帰ってきた!」
「二人とも、無事でよかった!」
レオとミレイは、涙を流しながら——みんなに手を振った。
帰ってきた。
僕たちの、居場所に。
◇ ◇ ◇
その夜。
『金獅子亭』の二階。
二人の部屋。
「やっと……帰ってこれましたね」
ミレイが、窓から町を見下ろしながら呟いた。
「ああ」
レオは、ミレイの隣に立った。
「これから、ずっと——ここで暮らそう」
「はい」
ミレイは、レオを見た。
「でも……王宮は、また来るんじゃ……」
「来ないよ」
レオは、首を横に振った。
「もう、僕には価値がない。影武者としての」
「え……?」
「真実が公表されて、もう半年以上経った」
レオは、説明した。
「王国も、新しい体制に移行している。僕は、もう——必要ないんだ」
「じゃあ……」
「ああ」
レオは、ミレイの手を握った。
「もう、追われることはない。自由だ」
ミレイの目から、涙が溢れた。
「よかった……本当に……」
「うん」
レオは、ミレイを抱きしめた。
「これから、平和に——暮らそう」
「はい……!」
二人は、抱き合った。
長い戦いが、終わった。
これから——。
本当の人生が、始まる。
◇ ◇ ◇
それから、日々は穏やかに過ぎていった。
レオは、また『金獅子亭』で働き始めた。
ミレイも、薬草店に戻った。
朝は、一緒に朝食を取る。
昼は、それぞれの仕事に励む。
夜は、部屋で二人きりの時間。
何でもない、日常。
でも、それが——何よりも尊い。
「ただいま」
レオが、部屋に戻ってくる。
「おかえりなさい」
ミレイが、微笑んで迎える。
「今日は、何作ったの?」
「シチューです」
「わあ、嬉しい」
二人は、テーブルに向かい合って座る。
「いただきます」
温かいシチュー。
焼きたてのパン。
幸せだ。
こんなにも、幸せだ。
「ねえ、ミレイ」
レオが、ふと言った。
「はい?」
「僕、思うんだ」
レオは、ミレイの目を見た。
「君と出会えて、本当によかったって」
「私も……です」
ミレイは、涙を浮かべて微笑んだ。
「レオさんと出会えて、本当に——幸せです」
二人は、手を繋いだ。
これから、ずっと——。
一緒に、生きていく。
どんな困難があっても。
どんな試練が待っていても。
二人なら——乗り越えられる。
◇ ◇ ◇
数ヶ月後。
ミレイのお腹が、少しずつ——膨らみ始めていた。
「レオさん……」
ミレイが、恥ずかしそうに言った。
「赤ちゃん……できたみたいです……」
レオは、目を見開いた。
「本当に!?」
「はい……」
「ミレイ……!」
レオは、ミレイを抱きしめた。
「嬉しい……! すごく、嬉しい……!」
「私も……です……!」
ミレイも、涙を流しながら笑った。
新しい命。
二人の、子ども。
家族が、増える。
「ありがとう、ミレイ」
レオは、ミレイの額にキスをした。
「君が、僕の妻で——本当によかった」
「こちらこそ……」
ミレイは、レオの胸に顔を埋めた。
「レオさんの妻で、幸せです」
二人は、抱き合った。
これから、新しい章が始まる。
親になる。
家族として——。
◇ ◇ ◇
こうして、レオとミレイの物語は——新たな段階へ。
逃避行も、引き裂かれることも——全て、終わった。
今、二人には——。
平和な日々と、愛する家族がある。
そして、お腹の中には——。
新しい命が、宿っている。
これが、二人の——。
本当の、幸せ。
◇ ◇ ◇
でも、物語は——まだ、続く。
親になる喜び。
子育ての苦労。
そして、さらに深まる——二人の絆。
物語は、新しい章へ——。




