第18話 誓いの日と、束の間の幸せ。
結婚式の朝。
ミレイは、早くから目を覚ました。
隣では、レオがまだ眠っている。
今日——。
今日、私たちは夫婦になる。
ミレイは、レオの寝顔を見つめた。
穏やかな顔。
でも、時々——苦しそうに、眉をひそめる。
きっと、夢を見ているんだ。
追われる夢を——。
ミレイは、そっとレオの頬に手を添えた。
「大丈夫ですよ……私が、ここにいますから……」
小さく呟く。
すると——レオの表情が、穏やかになった。
ミレイは、微笑んだ。
今日だけは——。
幸せでいよう。
二人で——。
◇ ◇ ◇
朝、町の広場では——準備が進んでいた。
「花を、もっと飾ろう!」
「テーブルは、こっちに!」
「料理の準備も、急げ!」
町の人々が、忙しく動き回っている。
みんな、二人のために——。
「おはよう、ミラ!」
女性たちが、声をかけてきた。
「さあ、支度よ! あんたが主役なんだから!」
「はい……!」
ミレイは、女性たちに連れられて——支度部屋へ。
◇ ◇ ◇
一方、レオは——。
「リオ! いや、レオか」
ガレスが、笑いながら言った。
「お前、緊張してるな?」
「はい……少し……」
レオは、正直に頷いた。
「まあ、当然だよな」
ガレスは、レオの肩を叩いた。
「大丈夫だ。お前なら、ミラを幸せにできる」
「……はい」
レオは、深く息をついた。
今日、僕は——。
ミレイと、正式に夫婦になる。
何があっても、守り抜く。
この人を——。
◇ ◇ ◇
昼過ぎ。
町の広場には、たくさんの人が集まっていた。
町の人々。
商人たち。
旅人たち。
みんな、二人を祝福するために——。
花が飾られた祭壇。
テーブルには、料理が並んでいる。
音楽隊が、準備をしている。
そして——。
式が、始まった。
音楽が流れる。
人々が、通路を開ける。
そこから——ミレイが、現れた。
白いドレス。
髪には、花の冠。
シンプルだけど——とても、美しい。
レオは、息を呑んだ。
綺麗だ……。
こんなにも、綺麗だ……。
ミレイは、ゆっくりと歩いてくる。
少し緊張した顔。
でも——レオを見つけると、微笑んだ。
その笑顔に、レオの胸が熱くなった。
ミレイが、レオの隣に立った。
「綺麗だよ」
レオが、小さく呟く。
「ありがとうございます……」
ミレイは、頬を染めた。
二人は、手を繋いだ。
◇ ◇ ◇
町長が、前に出た。
「さて、皆さん」
町長は、にこやかに言った。
「本日は、レオとミラの結婚式に、お集まりいただきありがとうございます」
拍手が起きる。
「二人は、この町に来て——まだ数ヶ月です」
町長は、二人を見た。
「でも、その短い間に——二人は、この町の大切な仲間になりました」
「そうだそうだ!」
町の人々が、口々に言う。
「レオは、よく働いた!」
「ミラも、頑張ってたぞ!」
「いい子たちだ!」
レオとミレイは、涙が溢れそうになった。
「そして、今日——二人は、正式に夫婦になります」
町長は、二人に向き直った。
「では、誓いの言葉を」
レオは、ミレイの手を握った。
「ミレイ」
真っ直ぐに、見つめる。
「僕は、君を愛しています」
「レオさん……」
「これから、どんなことがあっても——君を守ります」
レオの声が、震えた。
「君と一緒なら——どんな困難も、乗り越えられる」
「はい……」
「だから——」
レオは、ミレイの手を強く握った。
「ずっと、一緒にいてください」
ミレイは、涙を流しながら頷いた。
「私も——レオさんを、愛しています」
「ミレイ……」
「レオさんと出会えて、本当によかった」
ミレイは、笑顔で言った。
「レオさんと一緒なら——どんな未来も、怖くありません」
「ミレイ……」
「だから——」
ミレイは、レオを見つめた。
「ずっと、一緒にいてください。私を——愛し続けてください」
レオは、涙が止まらなくなった。
「ああ……約束する……」
「では」
町長が、満足そうに頷いた。
「二人は、夫婦です!」
拍手が、起きた。
歓声が、上がった。
音楽が、鳴り響いた。
レオとミレイは、抱き合った。
「やっと……やっと、夫婦になれた……」
レオが、ミレイの耳元で呟く。
「はい……!」
ミレイも、レオを強く抱きしめた。
それから——。
レオは、ミレイの唇にキスをした。
深く。
愛おしく。
人々の前で——。
歓声が、さらに大きくなった。
「おめでとう!」
「幸せにな!」
「ずっと、仲良くな!」
町の人々が、口々に祝福する。
レオとミレイは、涙を流しながら——微笑んだ。
幸せだ。
こんなにも、幸せだ。
◇ ◇ ◇
それから、宴が始まった。
料理が振る舞われ、酒が注がれる。
音楽隊が、陽気な曲を奏でる。
人々は、踊り、歌い、笑う。
「レオ! ミラ! こっちに来い!」
ガレスが、手招きした。
「乾杯だ! 二人の門出に!」
「乾杯!」
みんなが、グラスを掲げた。
レオとミレイも、グラスを掲げる。
「乾杯!」
カチン、とグラスが触れ合う音。
温かい笑顔。
祝福の言葉。
ああ、僕たちは——。
こんなにも、愛されている。
レオは、ミレイの手を握った。
ミレイも、握り返す。
二人は、微笑み合った。
◇ ◇ ◇
夕方。
宴は、まだ続いていた。
レオとミレイは、少し離れた場所で——二人きりになっていた。
「楽しいですね」
ミレイが、微笑んだ。
「うん」
レオも、頷いた。
「みんな、本当に——優しい」
「はい……」
二人は、宴を眺めた。
笑い合う人々。
楽しそうな顔。
平和な時間。
幸せな時間。
「ねえ、ミレイ」
レオが、ミレイを抱き寄せた。
「はい?」
「君を、妻にできて——本当によかった」
「私も……レオさんの妻になれて、嬉しいです」
ミレイは、レオの胸に顔を埋めた。
「これから、ずっと——一緒ですね」
「ああ。ずっと」
レオは、ミレイの髪を撫でた。
どんなことがあっても——。
君を、守る。
絶対に——。
◇ ◇ ◇
その時。
遠くから、馬の音が聞こえた。
たくさんの馬。
レオは、顔を上げた。
「……っ」
嫌な予感がした。
「レオさん?」
ミレイが、不安そうに見上げる。
そして——。
町の入り口から、黒い軍団が現れた。
昨日よりも、多い。
数十人——いや、百人近い兵士たち。
宴が、止まった。
音楽が、途切れた。
人々が、ざわめいた。
「また……来たのか……!」
ガレスが、歯噛みした。
兵士たちが、広場を囲む。
そして、中央から——一人の男が歩いてきた。
グレゴリーだった。
「レオン殿下」
グレゴリーは、冷たく笑った。
「いや——レオ、と呼ぶべきか」
「グレゴリー……!」
レオは、ミレイを庇うように前に出た。
「何の用だ!」
「決まっている」
グレゴリーは、一歩踏み込んだ。
「お前を、連れ戻す」
「断る!」
「拒否権はない」
グレゴリーの目が、鋭く光った。
「お前は、王国のために——必要なのだ」
「僕は、もう王宮の人間じゃない!」
レオは、叫んだ。
「今日、結婚したんだ! 僕には、妻がいる!」
「妻?」
グレゴリーは、ミレイを見た。
「……その娘か」
冷たい目。
まるで、虫を見るような——。
「邪魔だな」
グレゴリーは、手を振った。
「捕らえろ。レオを」
「はっ!」
兵士たちが、動き出した。
その時。
「させるか!」
町の人々が、立ちはだかった。
ガレスを先頭に。
エルザも。
町長も。
みんなが、レオとミレイを守るように——。
「リオ——いや、レオは、俺たちの仲間だ!」
ガレスが、叫んだ。
「連れて行かせるもんか!」
「そうだそうだ!」
町の人々が、口々に叫ぶ。
グレゴリーは、鼻で笑った。
「愚かな……」
手を上げる。
兵士たちが、剣を抜いた。
「力ずくで、行く」
「やめろ!」
レオが、叫んだ。
「みんなを、巻き込むな!」
「ならば、大人しく来い」
グレゴリーは、冷たく言った。
「そうすれば、誰も傷つかない」
「レオさん……!」
ミレイが、レオの腕を掴んだ。
「行かないで……!」
「ミレイ……」
レオは、ミレイを見た。
涙を流している。
必死に、レオを掴んでいる。
ああ、どうすればいい。
みんなを守るには——。
ミレイを守るには——。
レオは、苦しんだ。
そして——。
決断した。
「……分かった」
レオは、静かに言った。
「僕が、行く」
「レオさん!?」
「ダメです! 行かないで!」
ミレイが、必死に引き留める。
でも、レオは——優しく、ミレイの手を外した。
「ごめん、ミレイ」
「レオさん……!」
「でも、これしか——方法がない」
レオは、ミレイの頬に手を添えた。
「君を、守るためには」
「そんな……!」
ミレイは、泣き崩れた。
「嫌です……! 行かないで……!」
「ミレイ……」
レオは、ミレイを抱きしめた。
最後の抱擁。
「愛してるよ」
耳元で、囁く。
「ずっと、愛してる」
「レオさん……レオさん……!」
レオは、ミレイから離れた。
そして——グレゴリーの方へ歩いて行った。
「レオ!」
ガレスが、叫んだ。
「行くな!」
「ありがとうございました、ガレスさん」
レオは、振り返って微笑んだ。
「みなさんも——本当に、ありがとうございました」
それから——。
兵士たちに、囲まれた。
「では、行くぞ」
グレゴリーが、踵を返す。
レオは、最後に——ミレイを見た。
泣き崩れている、ミレイを。
ごめん。
本当に、ごめん。
でも——君を守るためには、これしか——。
レオは、前を向いた。
そして——。
連れて行かれた。
馬車に乗せられ——。
遠ざかっていく。
◇ ◇ ◇
「レオさああああん!!」
ミレイの叫びが、空に響いた。
でも、馬車は——止まらなかった。
どんどん、遠ざかっていく。
ミレイは、地面に崩れ落ちた。
「嫌……嫌です……!」
涙が、止まらない。
結婚式の日に——。
夫婦になった日に——。
レオは、連れて行かれた。
「レオさん……!」
ミレイは、泣き続けた。
町の人々も、言葉を失っていた。
ただ——。
沈黙が、広場を包んだ。
祝福の宴は——。
悲しみの場へと、変わっていた。
◇ ◇ ◇
こうして、二人は——引き裂かれた。
結婚式の日に。
誓いを交わした、その日に。
でも、物語は——まだ、終わらない。
ミレイは、諦めない。
レオを、取り戻すために——。
立ち上がる日が、来る。
それまで——。




