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第13話 森の逃避行と、二人だけの夜。

森を走り続けて、数時間が経った。


太陽が傾き始めている。


ミレイの足が、もつれた。


「あっ……!」


「ミレイ!」


レオが、すぐに支えた。


「大丈夫?」


「はい……ちょっと、疲れて……」


ミレイの顔は、真っ赤だった。


汗が、額を伝っている。


「休もう」


レオは、周囲を見渡した。


「ここなら、少しは安全だ」


大きな木の根元。


茂みに隠れるように、二人は座り込んだ。


「はぁ……はぁ……」


ミレイは、荒い息をついた。


レオは、水筒を取り出した。


「ほら、飲んで」


「ありがとうございます……」


ミレイは、水を飲んだ。


冷たい水が、喉を潤す。


「ふう……生き返りました……」


「よかった」


レオは、ミレイの額の汗を拭った。


「無理させて、ごめんね」


「いえ……私、大丈夫です」


「でも——」


レオは、ミレイの足元を見た。


「靴、擦れてない? 歩き方が……」


「あ……ちょっとだけ……」


「見せて」


レオは、荷物から布を取り出した。


「ちょっと、待ってて」


レオは、優しくミレイの靴を脱がせた。


靴下には、血が滲んでいる。


「やっぱり……怪我してる!」


「これくらい、平気です……」


「平気じゃないよ!」


レオは、丁寧に靴下を脱がせて、足に布を巻いた。


「これで、少しはマシになるはず」


「ありがとうございます……」


ミレイは、胸が温かくなった。


こんな状況なのに——。


レオさんは、私のことを気遣ってくれる。


「ねえ、ミレイ」


レオが、真剣な顔で言った。


「もし、辛くなったら——言って」


「え……?」


「僕、一人で王宮に戻ってもいい。君まで、こんな辛い目に遭わせるくらいなら——」


「ダメです!」


ミレイは、強く首を横に振った。


「私、レオさんと一緒にいるって決めたんです!」


「でも……」


「でも、じゃないです!」


ミレイは、レオの手を握った。


「私、レオさんがいないと——生きていけません」


その言葉に、レオは目を見開いた。


「ミレイ……」


「レオさんが、私の全てなんです」


ミレイの目から、涙が溢れた。


「だから、置いていかないでください……」


「ミレイ……」


レオは、ミレイを抱きしめた。


「ごめん……もう、そんなこと言わない」


「……はい」


「僕も、君がいないと——何もできない」


レオは、ミレイの髪を撫でた。


「君は、僕の全てだから」


二人は、しばらく抱き合っていた。


温かい。


安心する。


この人がいれば——。


どんな困難も、乗り越えられる。


   ◇ ◇ ◇


日が暮れ始めた。


「今夜は、ここで野宿しよう」


レオが、提案した。


「このまま夜道を歩くのは、危険だ」


「はい……」


二人は、木の根元に寄り添った。


レオが持ってきた毛布を、二人で分け合う。


「寒くない?」


「大丈夫です」


ミレイは、レオに寄り添った。


「レオさんが、温かいですから」


「ミレイ……」


レオは、ミレイを抱き寄せた。


森は、静かだった。


鳥の声。


風の音。


葉擦れの響き。


「ねえ、レオさん」


ミレイが、小さく呟いた。


「はい?」


「これから、どうするんでしょうか……」


「……分からない」


レオは、正直に答えた。


「でも、とりあえず——王都から遠く離れることが先決だ」


「遠く……」


「うん。隣の国とか——」


「隣の国……!?」


ミレイは、驚いた顔をした。


「そんな遠くまで……」


「ごめん。でも、セントラル王国にいる限り——追われ続ける」


レオは、苦しそうに言った。


「だから、国を出るしかない」


「……そうですね」


ミレイは、少し寂しそうに笑った。


「村のみんなに、会えなくなるんですね……」


「ミレイ……」


「でも、大丈夫です」


ミレイは、レオを見た。


「レオさんがいれば、どこへでも——」


その時。


ガサッ。


茂みが揺れた。


「!」


二人は、身構えた。


レオが、ミレイを庇うように前に出る。


「誰だ!?」


茂みから、現れたのは——。


一人の老人だった。


白い髭。


ぼろぼろの服。


杖をついて、ゆっくりと歩いてくる。


「おや……こんなところで、若い二人が」


老人は、優しい目で二人を見た。


「旅の途中かね?」


「あ……はい……」


レオは、警戒しながら答えた。


「そうか。この時間に森にいるとは——何か、訳ありかな?」


老人は、にこりと笑った。


「まあ、聞かんよ。人にはそれぞれ、事情があるからね」


「……ありがとうございます」


「それより」


老人は、二人を見た。


「この近くに、わしの小屋がある。よかったら、今夜はそこで休むかね?」


「え……?」


「野宿は、辛かろう。特に、お嬢さんは——」


老人は、ミレイの足を見た。


「怪我もしているようだし」


レオとミレイは、顔を見合わせた。


信用していいのだろうか。


でも——この老人からは、悪意を感じない。


「……お願いします」


レオは、頭を下げた。


「ありがとうございます」


「うむ。ついてきなさい」


   ◇ ◇ ◇


老人の小屋は、森の奥にあった。


小さいが、清潔で温かみのある場所。


「さあ、上がりなさい」


「失礼します……」


二人は、小屋に入った。


暖炉に火が灯っている。


温かい。


「お嬢さん、その足——ちゃんと手当てした方がいい」


老人は、薬箱を取り出した。


「わしは、元は薬師でね。診てあげよう」


「ありがとうございます……」


ミレイは、足を見せた。


老人は、丁寧に傷を洗い、軟膏を塗った。


「これで、明日には良くなるじゃろう」


「本当に、ありがとうございます」


レオが、深々と頭を下げた。


「いやいや」


老人は、手を振った。


「困った時はお互い様じゃ」


それから、老人は簡単な食事を用意してくれた。


パンとスープ。


質素だが、温かい。


「美味しいです……」


ミレイは、涙が出そうになった。


温かいご飯を食べるのは——何時間ぶりだろう。


「ゆっくり食べなさい」


老人は、優しく笑った。


「今夜は、ゆっくり休むといい」


   ◇ ◇ ◇


食事が終わり、老人は別の部屋に引っ込んだ。


「ゆっくり休みなさい。何かあったら、呼んでくれ」


「ありがとうございます」


二人きりになった。


暖炉の火が、パチパチと音を立てている。


「よかった……」


ミレイは、ほっとした顔をした。


「優しい方で……」


「うん」


レオも、安堵していた。


「今夜は、ゆっくり休めそうだ」


二人は、暖炉の前に座った。


毛布を二人で分け合って。


「ねえ、ミレイ」


「はい?」


「君、疲れただろう? 先に寝て」


「でも……レオさんは?」


「僕は、見張りしてる」


レオは、優しく微笑んだ。


「万が一、追っ手が来たら——」


「レオさん……」


ミレイは、レオの手を握った。


「一緒に、寝ましょう」


「え……?」


「レオさんだって、疲れてるはずです」


ミレイは、真剣な顔で言った。


「ここは老人さんの小屋です。追っ手も、すぐには来ません」


「でも……」


「お願いします。レオさんが倒れたら——私、困ります」


レオは、負けたように笑った。


「分かった。じゃあ、一緒に」


二人は、毛布にくるまって横になった。


寄り添うように。


温かい。


安心する。


「ねえ、レオさん」


ミレイが、小さく呟いた。


「はい?」


「私……怖くないです」


「え?」


「だって、レオさんが隣にいるから」


ミレイは、レオを見た。


「レオさんがいれば——どんな困難も、乗り越えられる気がします」


レオは、ミレイの額にキスをした。


「僕も、同じだよ」


「レオさん……」


「君がいるから、僕は——頑張れる」


レオは、ミレイを抱きしめた。


「ありがとう、ミレイ」


「こちらこそ……」


二人は、抱き合ったまま——眠りについた。


   ◇ ◇ ◇


翌朝。


ミレイが目を覚ますと、レオはもう起きていた。


老人と、何か話をしている。


「おはようございます……」


「おはよう、ミレイ」


レオが、微笑んだ。


「足、どう?」


「あ……もう、全然痛くないです!」


ミレイは、驚いた。


本当に、傷が良くなっている。


「老人さんの薬が、効いたんだね」


「ありがとうございます!」


ミレイは、老人に頭を下げた。


「いやいや」


老人は、笑った。


「それより——」


老人は、地図を広げた。


「お前さんたち、隣国に行くつもりなんだろう?」


「え……!?」


二人は、驚いた。


「どうして……」


「わしも、若い頃は色々あってね」


老人は、目を細めた。


「逃げる者の顔は、分かるんじゃよ」


「……はい」


レオは、正直に頷いた。


「僕たち、国を出ようと思っています」


「そうか」


老人は、地図の一点を指差した。


「ならば、この道を行くといい」


「この道……?」


「ああ。国境に近い、獣道じゃ。追っ手には、見つかりにくい」


老人は、二人を見た。


「三日ほど歩けば、国境の町に着く。そこから先は——自分たちで道を切り開くんじゃな」


レオとミレイは、深々と頭を下げた。


「本当に、ありがとうございます……!」


「気をつけてな」


老人は、優しく笑った。


「若い二人が、幸せになることを——わしは祈っておるよ」


   ◇ ◇ ◇


老人に別れを告げて、二人は再び森へ。


老人が教えてくれた道を、進む。


「レオさん」


「うん?」


「私たち、本当に——いろんな人に助けられてますね」


「うん……」


レオは、しみじみと頷いた。


「村のみんな。老人さん。みんな、優しくしてくれた」


「はい……」


「僕、思うんだ」


レオは、空を見上げた。


「人って——本当は、みんな優しいんだって」


「レオさん……」


「王宮にいた頃は、分からなかった。でも、今は——分かる」


レオは、ミレイの手を握った。


「君と一緒に旅をして、たくさんの優しさに触れて——」


「レオさん……」


「僕、幸せだよ」


その言葉に、ミレイの目から涙が溢れた。


「私も……です」


「これからも、一緒に——」


「はい!」


二人は、手を繋いで——前へ進んだ。


国境を目指して。


新しい未来を目指して。


何があっても、一緒に——。


   ◇ ◇ ◇


その頃、王都では。


「まだ、見つからないのか!」


グレゴリーが、怒鳴っていた。


「申し訳ございません……」


指揮官が、頭を下げる。


「森に逃げ込んだようで……捜索が難航しております」


「無能め!」


グレゴリーは、机を叩いた。


「必ず見つけ出せ! あの男は、王国に必要なのだ!」


「はっ!」


でも——。


レオとミレイは、もう遠くにいた。


王宮の手が、届かない場所へ——。


   ◇ ◇ ◇


一方、ユリウスは——。


密かに、レオたちの無事を祈っていた。


(殿下……どうか、お幸せに)


(もう、戻ってこないでください)


心の中で、そう願った。


   ◇ ◇ ◇


こうして、レオとミレイの逃避行は続く。


国境を目指して。


自由を目指して。


二人だけの未来を——。


手を繋いで、前へ。


何があっても、一緒に——。


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