第111話 崩れる場所
街の動きを見て、レオはすぐに一つの結論に達していた。
この街は壊れる。
問題は“どこで壊れるか”だけだ。
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拠点として用意された建物の中で、レオは簡単な図を描いていた。
街の流れは複雑ではない。むしろ単純だ。だからこそ、詰まりやすく、崩れやすい。特定の地点に負荷が集中し、そのまま連鎖していく。
「自然に任せれば、全体が崩れる」
エドワードが頷く。
「はい。既にいくつかの経路で兆候があります」
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レオは線を一本引いた。
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「なら、ここに集める」
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街の中心ではない。
外れでもない。
流れが必ず通る“中間点”。
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「……わざと詰まらせるのですか」
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エドワードの問いに、レオは首を振る。
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「詰まる場所を固定する」
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それが違いだった。
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「崩れるのを止めるんじゃない」
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「崩れる場所を決める」
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制御する。
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それが、この街での最初の一手だった。
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その日の午後。
街の一角で、小さな変化が起きた。
特定の倉庫に、荷が集中し始める。流れを調整し、あえてそこへ通すようにする。
最初は気づかれない。
だが徐々に、負荷がかかる。
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「……なんだ、ここ」
運搬人が顔をしかめる。
荷が多い。
処理が追いつかない。
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だが——。
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他は、流れる。
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街全体では、むしろ動きが良くなる。
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歪みが、一箇所に集まる。
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その変化はすぐに広がる。
「最近、あそこだけおかしくないか」
「他は楽になったがな」
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違和感。
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だが同時に——。
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利便性。
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否定しきれない。
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使者がレオのもとへ来る。
「報告が上がっている」
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「一部で不満が出ている」
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当然だった。
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レオは頷く。
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「そこは崩れる」
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あっさりと言う。
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使者の表情が固まる。
「……いいのか」
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レオは視線を外さない。
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「いい」
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「そこが壊れれば、他は守られる」
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冷静な判断だった。
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使者は何も言えない。
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だが——。
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理解はしている。
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全体を守るための犠牲。
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それを選ぶしかない。
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一方、裏側。
この動きはすぐに察知されていた。
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「……集めているな」
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暗がりの中で、男が呟く。
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分散していた歪み。
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それを、一点に。
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「面白い」
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小さく笑う。
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「なら——」
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視線が鋭くなる。
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「そこを壊すだけだ」
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当然の帰結だった。
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一方、街の倉庫。
負荷はさらに増えていた。
荷が溜まり、処理が遅れ、人の動きが荒くなる。
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限界が近い。
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だが——。
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それが狙いだった。
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レオはその様子を見ていた。
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「……ここで来る」
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小さく呟く。
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崩壊は避けられない。
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だが——。
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制御できる。
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それが、この街での最初の均衡だった。
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歪みは集められた。
そして次に来るのは——。
“意図された崩壊”だった。




