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私たちはアイドル  作者: 柿井優嬉


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 事務所で、集まった私たち三人のもとに、青山さんがやってきた。

「デビューの件だけどさ」

 来て早々に、そう切りだした。

 予想はしつつも、「いや、そんなはずはない」とも思っていた、「白紙になる」という言葉が続けて出てきそうに感じて、私は緊張して息をのんだ。

「決まったから」

 え? 本当に白紙が決まったの? 

 あれ? いや、待て。白紙とは言ってないか。

 ということは……デビューすることが決まった? え? うそ、ほんとに?

 私たち三人は顔を見合わせた。

「ファンを全然つくれていないのに、なんでデビューさせてくれるんですか?」と口にしようかと思ったら、その前に青山さんがしゃべった。

「で、話してなかったけど、きみたちのグループ名は『ヴォイス』だ」

 はあ?

「ヴォイスって、あの、今、巷で話題になってるのですか?」

 偶然一緒の名前なんてタイミング的にあり得ないだろうし、もしそうだったら違うのに変えるはずだし、私は訊いた。

「何だ、ヴォイスを知ってるのか。って、そりゃ知ってるか。そうだよ。あれは、きみたち三人のことなんだ。それからデビュー曲だが、タイトルは『きみの声』で、作詞は青山美悠だ」

 ええっ?

「青山美悠といったら、元メニューのメンバーで、青山さんのお姉さんの、あの方ですよね?」

「もちろん、そうだ」

 青山さんははっきりと肯定してうなずいた。

 あの元大人気アイドルの青山美悠が作詞した楽曲でデビュー? 彼女が作詞をするなんて聞いたことがない。もしかして初めてやるんじゃないだろうか。しかも、若者で知らない人はいない状態のヴォイスでって、今売れている芸能人でも喜ぶようなぜいたくな条件で、私たちはデビューできるの? 本当に?

 私と理恵ちゃんと葵ちゃんは、またしても、そしてさっきよりも驚いた表情で、顔を見合わせた。

「どういうことですか?」

 今までの華やかさとは無縁だった活動とのギャップが大き過ぎて、にわかには信じられないし、理解できていないポイントもあって、何が何やら頭がこんがらがりながら、私は青山さんに問いかけた。

「どういうことって、話したまんまだが?」

「だって、私たち全然ファンを獲得できてないですよ。それに、世間ですごく話題になってるヴォイスが自分たちだとか、訳がわからないんですけど」

「つまり、こういうことだ」

 腕を組んで、青山さんは語りだした。

「アイドルで売りだそうというんだから、きみたちの容姿は悪くない。しかし、めちゃくちゃいいかというと、そこまででもない。顔だけなら、オーディションに参加したなかに、もっといいのはいた」

 うん。それは確かで、まったく異論はない。平凡な容姿だと自覚がある私はもちろんのこと、女性全体からいったら上位に属する可愛さの葵ちゃんと理恵ちゃんも、とても綺麗な人が集まる芸能界の女優やアイドルのなかでは平均的なレベルだ。

「じゃあ、なぜ、何を基準に、きみたち三人を選んだのかというと、その答えはグループ名にある」

「……声、ですか?」

 私は言った。

「そうだ。例えば、すごくハンサムや美人で人気の俳優が歌手デビューすることがある。すると大抵、一曲目はけっこう売れる、けれど、二曲目、三曲目と、出すごとに下降線をたどる。それは、いくら彼らを好きな人が多くても、やはり歌である以上、聴きたいと思える声やメロディーじゃなければ長持ちはしないからだろう。歌唱力があればいいってものでもないと思う。あまりに下手なのは論外だが、売上と歌の上手さは比例していない。楽曲の良さはもちろんのこと、聴いていたい声質というのがあって、それが重要だと俺は考えている。今、説明したように、顔が良くて人気が出れば、歌はたいしたことがなくても、何曲かは馬鹿売れする可能性があるけれども、その場合、売れなくなるのも早い。人をデビューさせるというのは、世の中には簡単にさせてるのもいるのだろうが、責任を伴う行為であって、長く活動できる見込みのある者を選ぶべきだと思う。それで、専門家の意見を聞くなど検討を重ねて、きみたち三人の歌声なら、アイドルとは呼べない歳になっても曲を聴いてもらえる確率が高いということで選んだってわけだ」

 ……そういえば、オーディションを受けてから、合格の知らせが届くまで、ずいぶん日にちがあって、だから今回も駄目だったんだとほとんど諦めていたが、歌声で選ぶのに時間がかかったからだったのか。

 それに、なぜこの三人なのか、くり返しになるけれど、全員ずば抜けては可愛くないから、キャラクターでチョイスしたのかな? でも、そのポイントでも私は際立ってないし、無口なコを一人入れるにしても三人しかいないのに葵ちゃんはおとなし過ぎるよな、などと思っていたが、こういうことだったのか。

 そうそう、わずかにいる私たちを応援してくれる人に、「声が良い」と言ってもらえる機会が少なくなかった。自分たちではその褒め言葉にピンときてなかったけれど、あれはお世辞じゃなかったのか。


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