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私たちはアイドル  作者: 柿井優嬉


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「あの、私、他の二人の女のコとのグループの、デビュー前のアイドルなんです。それで、引きこもっているコが少しでも元気になるように、歌を歌ってあげたいと思っているのですが、いかがでしょうか?」

 こんな感じで、私は、調べて、所在地が遠くではない、引きこもりの団体に順番に電話で尋ねた。

「そういうのは受けつけてないから」

 だいたいはこのような具合に、介護施設のときと同じく断られた。

「ふざけるんじゃねえ!」

 そう怒鳴られたこともあった。向こうは引きこもりの子どもがいて大きな不安を抱えていたりするわけで、私たちの申し出に腹を立てるのももっともだろう。こうした反応があるのは覚悟していた。

「やっぱり駄目かな。諦めようか?」

 そういった言葉が出てきた頃だった。一本の電話がかかってきたのだ。快いとはいえない返答だった団体の一つが、念のためにと、会の家族全員に話をしてくれたらしく、そのなかで息子さんにどうか訊いてくれたお母さんからだった。

「歌を聴きたいって言うから、来てもらえるかしら?」

「本当ですか」

 やった!

「はい。もちろんうかがいます」


「よろしくお願いします」

 まずは電話でしゃべったお母さんと対面した。

「失礼します」

 それから、家にお邪魔して、前もって私たちが行くことを伝えてもらってある息子さんの部屋に足を踏み入れた。

「こんにちはー」

 あいさつをすると、中学生だという、おとなしそうな男のコは軽くおじぎをしてくれた。私たちを受け入れてくれただけあって、見るからに精神的に不安定という感じではなかった。

 そして、私たち三人は、一時間ほどだったろうか、彼一人に向かって歌を歌った。男のコは、静かに、ずっと真剣な表情で耳を傾けてくれた。

「聴いてもらって、ありがとう。私たちデビューはまだ未定だけれど、応援してくれたら嬉しいです」

 最後にそう述べて、帰ろうとしたら、男のコが「あの」と声を発した。

「ん?」という顔で視線を注ぐと、彼は心がこもった口調で言った。

「ありがとうございました。僕なんかのために、わざわざ足を運んで、歌を歌ってくれて……」

 すると、男のコの目から涙がこぼれ落ちた。

 うそ……。

 私たちは顔を見合わせた。

「そんな。こっちこそ、私たちなんかの歌を聴いてくれてありがとうだよ。ね?」

 私はメンバーに同意を求めた。

「うん、うん」

 理恵ちゃんが激しくうなずいた。

「私たちはきみの味方だからね」

 葵ちゃんが、会ってから最もというくらい、頼もしい態度でそう口にした。


「ありがとうございました」

「ううん。息子のために来てくれて、何曲も歌を歌ってくれて、お礼を言うのはこっち。ありがとうね」

 男のコのお母さんとこのように感謝の言葉を交わし合って、私たちは訪れた家を後にした。

 私たちの歌うところを真剣に観てくれた、彼のあの眼差し。そして、最後のあの涙。本当のことだったのかと実感がわかず、どうやら葵ちゃんも理恵ちゃんも同じような気持ちらしく、しばらく誰も口を開かずに、ぼーっとした状態で道を歩いた。

「あ」

 私は携帯を手に取った。

「青山さんからメッセージだ。『明日、事務所に来るように』だって」

「何でしょうね?」

 理恵ちゃんがそう返した。

「もしかして、ファンを全然つくれないから、デビューは白紙にするって告げられちゃうんじゃ……」

 私がつぶやくと、葵ちゃんが口を開いた。

「もちろん違うほうがいいですけど、今日のことがあったから、もしそうでも私は悔いはないです」

 理恵ちゃんが続けた。

「私もです。まだ三人で活動していきたいですけどね」

「やだ、私も二人と同じことを思ったよ」

 私も言った。

「でも、あれで満足しちゃうなんて、大勢のファンのために頑張らなきゃいけないアイドルとしては失格なんだろうけどね」



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