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私たちは、申し込めば路上ライブができるようになっているところをネットで見つけて、その場所で頑張ることにした。
そこで、行ける日は必ずやるというくらい回数を重ねて、ようやく少しはお客さんに鑑賞してもらえるようになった。
とはいっても、周辺で歌唱やパフォーマンスを行っている、他のアイドルや歌い手さんたちと比べたら全然、足もとにも及ばない。観てくれる人は、前のときは見るからにそういう感じだったが、やっぱり私たちに同情して足を止めてくれているだけかもしれないし、たまにもらえる直接やSNSでの嬉しい言葉も、同様に駄目な私たちをかわいそうだと思っての、お世辞の可能性がある。
どれだけファンを獲得すればいいのか、青山さんが言ってくれないので、ゴールがわからないし、どっちにしても今の状態では合格にならないのは確実だ。あの秋葉原での件は許してくれたけれど、ファンをちっともつくれないからデビューはなしってことになるのも、なくはないんじゃないだろうか。
「帰ろっか?」
「はい」
「……はい」
私の問いかけに、理恵ちゃんと葵ちゃんはうなずいた。
路上ライブを終えて、今日もたいした成果はなく、しばらくトボトボと歩いていると、私たちと同じ歳くらいと思われる二人の女のコがこういった会話をしながらすれ違っていった。
「ねえ、ヴォイスがいよいよデビューするらしいよ」
「ほんとに? 超楽しみー」
そのちょっと後に、理恵ちゃんが口を開いた。
「八重さん。今、通り過ぎていった女性たちが話していた、ヴォイスのこと、ご存じですよね?」
「うん、もちろん」
「ヴォイス」は、近々デビューするらしいと、ネットですごく話題になっている歌手なのだが、詳しい情報は一切明かされていないのである。ベールに包まれているからこそ、人々の想像をかきたて、期待感が膨らんで、盛り上がりは日に日に増している状況なのだ。年配には「誰? それ」という状態な人も多いだろうけれども、若者はほとんど知っているに違いない。
「覆面シンガーなんでしょ?」
「やっぱりそうなんですかね」
今は顔を出さない覆面シンガーがたくさんいるが、「ヴォイス」もそうなのだろうと多くの人が考えている。
「いいよね、覆面シンガーって。プライベートが守られるし、私たちみたいにファンを獲得しようと必死に何曲も歌ってもほとんど聴いてもらえないみじめな思いをしないで済むもん」
「ほんと、うらやましい。声だけで勝負できるんですから、よっぽど歌が上手なんでしょうね。一応同じ歌手というカテゴリーでも、ヴォイスと私たちじゃ、天と地、月とスッポンですよ」
すると、思ってなかった言葉が耳に届いてきた。
「そんなことない」
「え?」
私と理恵ちゃんは声を漏らした。発言の主は、葵ちゃんだった。
「八重さんも、理恵ちゃんも、スッポンなんかじゃなくて、とても素敵です。二人と一緒に、歌ったり、活動できて、私は幸せ。覆面シンガーになるより、この三人のほうがずっといいです」
……葵ちゃん、そんなことを言ってくれるなんて。
「うん、そうだね。私も二人と同じグループになれてよかったよ」
私は、うっすら涙が浮かんできたなか、そう返した。
本当にそうだ。お調子者で、いいかげんな人間かと思った理恵ちゃんも、おとなしくて、頼りないように感じた葵ちゃんも、私なんかよりずっとしっかりしているし、性格もすごく良い。以前に理恵ちゃんが私と一緒のグループにさせてくれた青山さんと神様に感謝って口にしたけれど、私こそお礼を言いたい。
「わ、私もです~」
理恵ちゃんに至っては、もっと感動したようで、号泣している。
「もしデビューできなくても、二人とは友達でいたい。いいですか~?」
「もちろん」
葵ちゃんが答えた。
「当然だよ」
私も続いた。
「そういえば」
理恵ちゃんが涙をぬぐいながら尋ねた。
「葵ちゃんはどうしてアイドルになろうと思ったの? 私は家が貧しくて、八重さんは勉強が苦手だからっていうのが、きっかけだったわけだけど」
葵ちゃんは、一瞬沈黙してから、声を発した。
「私は、小学生時代、引きこもりだったんです」
え。
私と理恵ちゃんは、黙って彼女の話に耳を傾けた。




