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第五話 5年前へ(4) 狐に憑かれた少女は眠り。祟(たた)りの元へ、そして不穏な影……

前回までのあらすじ

5年前の回想に入ったら→ジジイが美人な狐に空気投げされた直後爆発?!→ゴブリンが自爆して?←イマココ



「ぐっ……!」


腕に噛みつかれた――!


幸い、僕の狩衣には龍体文字『ふ』を縫い込んである。


その効果で、多少は呪的な影響が緩和されているようだ。


骨までは届いていないが、皮膚は裂け、肉まで食い破られそうな勢い。



「葉子っ……!やめなっ、やめなさい!」



ムイカリさんが必死に止めようとするが、力が強すぎて引き剥がせない。


その間にも、僕の腕からは血がポタポタと地面に落ちていく。


しかし僕は、あくまで冷静だった。



「ムイカリさん、大丈夫。問題ないから」



落ち着いた口調でそう言うと、僕は静かに警棒を構え――


「白龍、形状変化!」


警棒から光が走り、白龍が飛び出す。


「やれやれ……へ、へ……じゃなくて、龍使いが荒いんじゃ」


「今、自分で、“ヘビ”って言いかけたでしょ……」


「なんじゃと!?それを言うたら――」


ムイカリさんがツッコみを入れる。白龍が反論しかけたところで、僕は指令を発動。


白龍の姿が、まばゆい光とともに“ペン”へと変化した。


(……このやり取り、毎回恒例になるんだろうか)


白龍の声が、僕の頭の中で抗議してくる。



内容は……公序良俗に著しく反するので、ここでは割愛する。


――争いは、同レベルでしか成立しない。


などという哲学的な思考を脳裏に浮かべつつ、僕は行動に移る。


ペンを手に、葉子の額へとそっと近づける。


だが、彼女は暴れて文字が書けない。


……不安なのか。


噛まれたまま、僕は彼女の瞳をまっすぐに覗き込んだ。


「大丈夫。君は悪くない……」


できるかぎり優しく、穏やかな声でそう言う。


すると、葉子の目がふと揺れる。


「……ごめんなさい……」


か細く、今にも消えてしまいそうな声。

その瞬間、彼女の身体から力が抜けた。


すかさず、僕は額に龍体文字『の』を書く。


『の』――それは、パニックや制御不能な感情を鎮める文字。


やがて葉子は、操り人形の糸が切れたように、ふらりと崩れ落ちた。


彼女の顔を見ると――頬はこけ、肌は血の気が引き、真っ白に近い。


「いけない!すぐ医師を! それに、アンタもだよっ!

その腕、早く診てもらわないと!」


ムイカリさんが叫ぶ。涙目になりながら。


「うん、その前にこれを」


僕は、自分の血を使い、2枚の札に龍体文字を書くと、葉子の胸元と腹に貼り付けた。


「それは……?」


「龍体文字『ふ』と『き・に』だよ。

『ふ』は邪気を祓って、血流を整える効果。

『き・に』は身体の回復を助ける力がある。

本来、龍体文字は書いた本人にしか効果が出ないけど――

血や体液、髪を“媒介”にすれば、他人にも効果を伝えられるんだ」


そう説明しながら、自分の腕にも『き・に』の文字を書いた湿布を貼る。


ムイカリさんは、呆れたように笑って言う。


「本当、便利だねぇ。なんでもできちゃうんじゃない?」


「便利だけど、そこまで万能ってわけでもないよ。

……あんまり時間もないようだし」


そう言いながら、僕は葉子の身体を見やる。


彼女の身体から、黒い“霧”のようなものが滲み出ていた。


「瘴気……。これで、祟りの出どころが追えるね」


「『ふ』の効果で、表に出てきたんだね」


ムイカリさんがうなずく。さすが神様、話が早い。


“祟り”も“呪い”と同じ。

対象に拒絶されれば、持ち主のもとへと戻っていく。


あとは、あれを追えば――元にたどり着ける。


「でも、継。アンタ、本当に腕大丈夫?」


「これ?」


僕は湿布をバリッと剥がして見せた。

傷は、もうすっかりふさがっている。


「……アンタ……」


言葉を失うムイカリさん。


龍体文字の力もあるだろうけど、これは――

たぶん、鬼の血の影響だ。


まだ少し痛みはあるけど、もう問題ない。


「じゃあ、行きましょう。ムイカリさん!」


瘴気はすでに、葉子から完全に離れ、夜の空へ飛び去っている。


「う、うん……」


……え、何その目。


“ちょっと引いた”みたいな顔してるんだけど。


――神様がこれしきで引かないでよ!


むしろ心のほうが傷ついた継であった。


* * * * *


その頃――


蔵間家の裏山。


崩れかけた塚の前に、一人の男が立っていた。


その背後には、例のゴブリンもどき。


「……クッ、こんなところで“鬼の末裔”と遭うとは……」


男は苛立ちのままに、振り返りざまにゴブリンの頭を裏拳で吹き飛ばす。


ゴブリンの肉体は黒い瘴気に変わり、消えていった。


「……忌々しい“五鬼家”か。まさか、まだ生きていたとは……」


静かにそう呟くと、男は闇の中へと歩き去った。


* * *


その塚の近く。


森の中、ひときわ目を惹く一本の巨木。


その根元に、縄で手足を縛られた“誰か”がいた。


だが、その顔は――人ではなかった。


狐の面のように、まるで動物じみた顔つき。


「……にげろ……」


かすかな声が、夜の風に紛れて消えた。


――つづく。


_____________


龍体文字解説

(文字自体の形は、それぞれ調べてください。)


『か』

目に見えないものをとらえやすくする。

西の方角。白龍の力を持つ。


『ふ』

強力な邪気払いの力を持つ。

不浄な流れを整える力ももつ。


『き・に』

痛み止め。自然治癒力を高めてくれる。

なぜか機械の調子も良くなったりする。



今回は以上になります。


いつも見てくださりありがとうございます。


いつも見に来て下さりありがとうございます。

気に入っていただけたら、ブックマークやユーザー登録。

感想なんかもいただけたら励みになります。


この回想編終了までは1日ごとの連続投稿しようと思います。

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