第三話 5年前へ(2) 美人狐の前で変身したらジジイが空気投げされた件
前回までのあらすじ。
警棒で妖怪ぶっ倒してたら→5年前の回想入って
→狐憑きの美少女を助けようと思ったら→エロいキツネに出会って……←イマココ
「つまり、ウチのお嬢に会わせられれば。解決できるんだね?」
と、ムイカリさん。
「たぶん、祟がそこから来てるんならね」
と、僕。
「そう、なら。」
ムイカリは、多少イヤな顔しながら。
「手段は無くはないけど………」
顎に指を当て、考えるムイカリ……
すごく考え込んでるな……?
そしてハッとした表情を浮かべるムイカリ。
「ところでアンタ。藁にもすがるつもりで連れてきたはいいけど。
その格好はどうにかならないかい?」
僕の上から下まで見てムイカリさんが言う。
「ん?問題あるか?」
「まあね~……こうなったら色々会わせなきゃいけない人とかもいるからねぇ。
ちょっと説得力がね。」
まあ、わかる。前述したとおり、
今の僕には威厳もクソもありゃしない。
「ん、わかった格好が大切なんだな。」
僕は、胸元からペンダントを取り出す。
銀色のペンダントトップには龍の紋様が刻まれている。
「白龍、現出!」
ペンダントが少し光ると、そこからすこし小さい白蛇が姿を現す。
ムイカリさんが、ちょっと目をパチクリさせて。
「え?白………龍?
………ん?、龍?」
2度言った(笑)
まあ、そう思うよね?。
それに対して、白龍が反論した。
「いやいやいや!エロきつネーチャンに言われる覚えはないんじゃ!」
と、白龍。
こらこら、いちおう相手は神様だよ?
「いや、……龍って………蛇じゃん」
それはそう、ツッコミたい気持ちはわかる。
「……ってっ!誰がエロきつネーチャンだいっ!」
ヲイ!今ごろかよ?
もう僕も心の中でツッコミきれねえぞ?
「じゃって、エロいキツネのネーチャンじゃから。
それに、ワレは今はまだ龍になる修行の途中じゃから。
四捨五入すれば龍なんじゃよっ。だからもう白龍なのじゃ!」
「もういいか?話がすすまんから。
形状変化!白龍!」
僕が白龍を掴むと、
白龍は淡い光を放ちながら。ペンの形に姿を変える。
そして、額にまるで象形文字に見える文字を書くと。
書いた文字はその後、スーっと消えた。
文字が光を放ち、継の身体を走る稲妻が一瞬で漆黒の戦闘装束を形成する。
まるで、神楽舞の装束と現代の戦闘服が融合したような衣装。
それは、狩衣と呼ばれた陰陽師の正式衣装を
現代風にアレンジしたものだ。
その腰の帯には、ちょっとその服装には似つかわしくない特殊警棒が光る。
そして、僕の容姿は。20才前後くらいの精悍な青年の姿に変わる。
「やっぱ、まだ着慣れないな……」
ムイカリさんは再び目をパチクリさせながら。
「すごいね、そんなの初めて見るよ。
さっき額に書いた文字でそうなってるのかい?」
ムイカリさんが不思議そうにたずねる。
「そう、これは龍体文字っていって、わが家の秘蔵さ。
文字それぞれに力があって。いま使ったのは『か』
可視化の力を持っていて、おまじないとして持ってれば
普段見えないものも見えてくるし」
白龍のペンをムイカリさんに見せて。
「白龍が変化したペンを使えば、鬼の力で
他人が可視化する情報を書き換えたりもできるんだ」
「ふーん、便利なもんだねぇ。」
ジロジロと物珍しそうに近寄って見てくる。
変化で背は伸びたはずなのに、まだムイカリさんの方が高い………
「ともかく、それなら大丈夫そうだねぇ。ついてきな」
先導して歩き出すムイカリさん。
「あ、そういえば、アンタの名前って。聞いてなかったよね?なんていうの?」
僕はちょっと考えて。
「継。五鬼 継」
___________
屋敷をムイカリさんの案内で歩く。
すごい豪邸だ。
途中、使用人の人に何人かすれ違う。
普通にムイカリさんに挨拶していく。
ムイカリさんは、この家の人間にとってどんな存在なんだろう?
「あの、聞いていいですか?」
「なんだい?」
「さっきから屋敷の人たちに普通に挨拶されてますけど?
ムイカリさんはこの家ではどんな立ち位置なんですか?」
「ああ、そうだよな。不思議に思うよな。
ま、神様って言ってもイロイロなんだよ」
と、ムイカリさんは顔の前で指をクルクルさせる。
「この家は、この辺一帯の大地主でね。この山の下の土地もそうさ」
と、屋敷からも山の下が見える。クルクルさせてる指を止めて、その一帯を指さす。
いや、どんだけ土地もってんだよ?
「で、そこに建てられてる会社も、実質この一族の持ち物みたいなもんなのさ。
で、私は人間のフリしてここの経営コンサルタントしてるのさ」
ムイカリは胸をドンッ!と叩く。やたらデカい胸が弾む。
「ほら、私はこの家の繁栄を約束してるお稲荷様だからね。」
いや、繁栄を約束って、そんな直接的に?
「そ、そう……すごいね。」
少し目線をズラして、そう答えた。
………何からとは言わないけど。
と、ふと思い立つ。
「あの?そんだけ普通に周りに干渉できるんなら。
稲荷社潰すの止めさせるの。僕じゃなくてもよくないですか?」
率直に疑問を投げかけてみる。
「言っただろう?今の私はこの家から信仰を失っているんだ。
存在が認知されないくらいに希薄になってるからね。」
ムイカリは、僕の胸を指でグリグリして。
「いまは、アンタが私を認知してくれてるから、存在感を維持できているんだよ」
そして、少し寂しそうに遠くを見て……
「神ってのは、認識されて初めて“形”を保てるのさ。
信仰が切れた稲荷様なんて、ただの“忘れられたもの”さ」
………
うん、ちょっとわかった気がする。
神様ってのも、何でもできるようなもんでもないんだな……
「って、言うかさ。アンタも、もう堅っ苦しいしゃべり方やめないかい?
こっちまで肩がこるよ」
………まあ、本当。神様にもイロイロいるもんなんだな。
_________
やがて、しばらく歩いた後に。とある一室にたどり着き。
その部屋の襖の前でムイカリさんが正座する。
僕もそれにならった。
「会長、参りました。」
ムイカリさんが部屋の主に声をかけると。
「………はいりたまえ」
中から、重厚な声が返ってくる。
緊張するな……
中に入ると、部屋の奥。一人の老人が座っていた。
歳の頃は、おそらく80才前後。
ムイカリさんと僕が用意されていた座布団に正座すると、老人は口を開いた。
「久しいな、向狩くん。して、その男かね?
君が紹介したい新しい陰陽術師とやらは。」
ギラリ……鋭い眼光を向けてくる。
さすがは、こんなでかい家のトップである。
「はい、五鬼 継と申します。一見若いですが。腕は確かです。」
いやいや、ムイカリさんとは、今さっき会ったばかりですよね?
「うむ、わかった。ひ孫の葉子をたのむ……」
肩が震えている。顔が赤くなってる?
ひ孫さんの心配をしているのだろうか?
………なんか、頭から湯気も立ってる?
「では、さっそく葉子を見てやってくれ。すぐ行きなさい!」
「わかりました!では!」
ムイカリさんと部屋を出ようとした時。
「いや、向狩くんは。ここに残ってくれたまえ。積もる話もあるでな。」
ムイカリさんの動きがピタッと止まって。
ギギギ…と、音をたてながら後ろを振り返り。
「いえ、私が連れてきたのですから。私がご案内いたします。
それに、私も久しぶりでお嬢様の様子も見たいですし……」
愛想笑いをしつつ、顔が真っ青なムイカリさん。
なんか様子がおかしい。
「案内はほかに任せればよいじゃろう?ほれ!君は行きなさい。」
なんか、会長。ハァハァッ、と、息が荒い……
「会長さん………こう言ってるけど?ムイカリさん?」
なんか、僕の服の袖をガッシリと掴みながら。
しぼりだすように……
「行かないで………」
「え?」
ふるふると震えながら……え?本気でおびえてる?
「イヤです、一緒に行きます!」
ムイカリさん、本気で抵抗してる……
「いや、向狩君はここに居なさい。
あ、五鬼 継くんと言ったね?君は行きなさい」
なんか会長、顔がいかがわしくなってる?
「いかないでっ!」
「いきなさい!」
しばらく同様の問答が続く。
僕はどうすればいいんだ?
しばらく繰り返してから、とうとう会長がシビレをきらしたかねように。
「向狩ちゃん!よいじゃろう!?久しぶりなんじゃからぁっ!!」
と、叫んで。まさかのルパンダイブをかます爺さん。
ふ〜じ◯ちゃ〜ん!という声が聞こえて来そうだ。
プツンッ!!
ムイカリさんの方向から、何かがキレる音がする。
「こんのっ!エロジジイがぁ〜!!」
と、腕をつかみ。こちらもまさかの空気投げ!
ハデに爺さんは襖をブチやぶり隣の部屋まで吹っ飛んでいった!
………いや、相手は仮にも老人だよ?
「もう行くわよ!継」
「あの…、だ………大丈夫?会長さん?あれ?」
見たら、隣の部屋では黒服の何人かが、爺さんをナイスキャッチしてた。
大丈夫そうだが、これ日常風景なのか?
「だからイヤだったのよ!
二人きりになると私をエロい目で見てきて。
だんだんエスカレートしてるんだからっ!」
ムイカリさんについていき部屋を後にする。
後ろでは「向狩ちゃあぁぁぁん」という情けない声が響く。
最初の威厳はどこへいった?
ともかくも、許可は得た訳だ。
…………継とムイカリさんが部屋を去った後、
会長はキリッとした顔になり。
「葉子を、頼む………」
と、黒服に逆さまにナイスキャッチされた体勢で言う会長。
いや、そのかっこで言われても………
たぶん、その部屋の黒服全員が思っただろう。
___________
会長の部屋を後にして、廊下を歩きながら。
ムイカリさんに聞いてみる。
「ムイカリさん、そのお嬢さんのいる部屋って近いの?」
「ああ、会長や他の方の安全を考えて。
あの塀の向こうの離れに結界を作って………」
と、長い廊下の曲がった先にある塀を指差す。
[ドガーンッ!!]
と、そのタイミングで、その塀の向こうから爆発が起こる!
マズイッ!
「あの爆発の場所ですか?急いで向かうっ!」
急いで庭に降り、靴を履く。
靴の横を触ると。そこに龍体文字が浮かび上がる。
この龍体文字は『ち』身体能力を部分的に強化する龍体文字だ。
この靴に最初から仕込んでいたものだ。
靴の周囲に風が集まり、竜巻が舞う。
その瞬間。爆発的に加速した僕は、いっきに塀に迫る!
そして、足を踏み込むと、その勢いのまま塀を飛び越える。
横を見ると、ムイカリさんは普通について来てた。さすが狐の神様!
そして、離れの部屋の前にたどり着いた僕たちは。驚きの光景を見た。
次回につづく
________
警棒使いの陰陽術師 設定集
五鬼家
役小角が使役した鬼【前鬼】【後鬼】産み遺した5人の鬼。
その末裔。
それぞれ【童】【助】【上】【熊】【継】の一文字ずつを受け継いでいる。
ムイカリ
葉子の顔の横につけている狐のお面の中に入っている、高位の狐。
元々は京都の山奥に豪邸を構える蔵間家の敷地内にある稲荷社の狐。
代々、蔵間家の繁栄を助けてきた。
現在は、葉子のそばで力になっている。
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