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第二話 5年前へ(1) 美人すぎる狐と、童顔すぎる陰陽師

神社での、あのゴブリン退治の帰り道。

——葉子は、ちょっと落ち込んでいた。


「結局、(つぐ)さんに迷惑かけちゃったなぁ……」


そんな彼女の横に、いつの間にか妖艶な女性が立っていた。


「どうした?いやに暗いじゃないか?」


スーツ姿なのに、どこか現実離れなほどの雰囲気をかもしだしている。


「ムイカリさん。」


切れ長な美しい、淡い金色に光る瞳に

長身なその出で立ち、モデルも真っ青なそのスタイルは。


まさしく夢の美人秘書!……ちょっと怖いけど。


葉子の狐のお面に入っていた。狐のムイカリである。


(いと)しの継にいいとこ見せられなくて残念だったねぇ〜」


葉子は顔を真っ赤にして


「いっ!?いや!あの、べつにそんなんじゃなくって……」


恥ずかしがる葉子。

それを見て、ムイカリは優しい表情になり。


「じゃあ、なんだい?」


葉子はうつむいて


「私、恩返しのつもりで修行してきて。

一人じゃ何にもできなくて……

少しでも役に立ちたくて。でも……」


感情がとめどなく出てくる。


意味も、前後の脈絡もない言葉。


でも、それだけに痛いくらいに気持ちが伝わるとムイカリは思う。


何も言わず、葉子をギュッと抱く。


「継さんの所に来たら、変われると思ってたのに………」


「葉子…」


瞳を覗き込むムイカリ。


その表情は、どこか母親にも似ている。


「大丈夫だよ、この五年。

アンタは間違いなく凄い成長をしているよ。

お姉さんが保証してあげる」


と、葉子を強く抱き寄せて、頭をイイコイイコするムイカリ。


身長差か、ちょうど胸が顔に埋まる。

男なら羨ましいシチュエーションだ。


「ちょっ………ムイカリさん、苦しい……」


「さあ、このお姉さんに遠慮なく甘えな!」


「………ありがとう。……でも、もうお姉さんって歳じゃ……」


「んなっ!?このガキ」


と、そうこうしてるうちに。後ろから追いかけてくる足音。


少年バージョンの孝継(たかつぐ)だ。


「おーい!葉子さん、大丈夫だった?

あれ?ムイカリさんも。どしたの?

人間バージョンになって?」


葉子は孝継を見るやいなや、肩に手を置いて。


「たか君こそ!大丈夫だった?

怪我してない?妖異は一匹って話しだったけど。

もしかしたら数匹いるかもしれなくて。」


少しかがんで目線をあわして心配そうに覗いてくる。


ちょっとテレて、目線を外す孝継。


〚……継の時とは、明らかに目が違うよな……ちぇ……〛


少し情けなくなる………


「あ、ああ。大丈夫だよ。

それに、僕だってちゃんと陰陽術師なんだから!」


しかたないとはいえ、年下扱いしてくる葉子に少し気まずい。



…………頭のミミがピンッと立って、何かを察したムイカリ。


ニシシとした表情になり……


「ボディーガードのアンタがいればもう大丈夫だね。

私も力を使って少し疲れたよ。ちょっと眠らせてもらうよ。」


と、言うと小さい狐に変化して狐面の中に入っていくムイカリ。


顔が、ボッと赤くなる孝継。


それとは対照的に、葉子は考え込んでいた。


〚ボディーガード……守る……私が……継さんみたいに……〛


と、葉子の中で。言葉が反芻(はんすう)していた。


バッ!と顔を上げた。瞳には星がきらめいている。


「うん!たか君は

この葉子おねえさんがちゃんと守ったげるからっ!」


と、ドンと自分の胸を叩く。


いや、違うと思う。


孝継は思うのであった。



___________________


ここで、少し過去の話に入りたい。


二人の出会いは、5年前に遡る。



◇◇◇ 回想:5年前 ◇◇◇



5年前。京都の山奥。


ここに豪邸を構える蔵間家。


この家の敷地内にある稲荷社は、かなり力があるようで。


狐を神様と崇める事で繁栄を約束された家のようだ。


あるとき、この家の令嬢が狐憑きにかかってしまった。


この令嬢が蔵間葉子、この時17才。


そしてこの時、20才の継が、


たまたまここに居合わせてしまうのだが。


この事件が継が陰陽師として力を使う最初の案件となる。


継が、その力を覚醒するのは、


さらにその5年前の15才の頃。


普通の中学生であった孝継の枕もとに亡くなったはずの、


ひいお爺さんが立った事がきっかけであった。



その時に、五鬼(ごき) (つぐ)という名。


そして鬼の力。ひいお爺さんの陰陽術師としての修行を受けた。


鬼の力の影響か、継の見た目としての成長は、この時に止まっている。


五鬼とはなにか?それはまた別の機会に説明する。


ともかくも、それから5年。


修行を重ねた継が京都に用事で来た際に、


珍しい複数本の尾を持つ狐に出会い。


追いかけているうちに道に迷い、そしてこの山に入り


蔵間家の騒動に巻き込まれる。


道に迷った手前、道を聞きに家に上がらせてもらって。


ついでにお茶もいただいてたのが運の尽き。


ついつい、そこの使用人から事情を聞いてしまった。



継が蔵間家につく前にも、どうやら幾人かの霊能者や祈祷師が訪れていたようで。


その家の稲荷社は取り潰す事になっていたようだ。


娘が狐憑きになってしまっているのだから当然といえる。


実際、遠目から見ても。娘は発狂状態になっており。


いつどんな被害が出るかもわからない危険な状態になっていた。


しかし、気にはなるが。


もう継には、ほとんどやる事は無い。


気になっていることとしては、あの稲荷社にはそんな祟るような邪悪な感じがしない。


むしろ、取り潰す方が悪影響がないだろうか?


もう少しちゃんと調べた方がいいのではないだろうか?


しかし、途中から来た。ポッと出の継に発言権は無いのだ。


「さて。どうしたもんかな…、なんとかしてはあげたいけど……」


継が茶をすすりながら途方にくれていると、


背後から気配……



継が目をやると、そこには女性……なのだが、かなりの長身。


切れ長の綺麗な瞳は不思議な色をしていて。少し金色。


スーツの上からでもわかるモデルばりのプロポーションは、


どこか人間味を帯びていないかのような印象もあった。


まさしく夢の美人秘書!


15才の頃から身長が変わっていない、155センチほどしかない


孝継にとっては、こういう女性は苦手である。


「陰陽術師の方ですよね。」


その女性は言った。


孝継は少し驚いた。


なぜなら、いまの孝継の格好は。


よくあるTシャツにデニムのズボン。なんならアディダスのスニーカーを履いて。


小旅行用のリュックを背負った。見た目中学生………



自分で考えてて情けなくなるが、


全く、これでよく陰陽術師と連想できたものだ、と感心するレベルだ。


ともあれ、自分には別に身分を隠す必要も意味も無い。


「そうです、あなたは?」


「私はムイカリ。こう見えて狐です。」


と、言うと。


ムイカリと名乗った女性は、数本尻尾のある狐に変化した。


あの、たびたび姿を現していた狐だ。


「私は、あの稲荷社の狐です。

今は信仰を失っていて、稲荷としての力はほとんどありません。

あなたとコンタクトできたのは、

おそらく貴方の内にある人外の力によるものと思います。」



そういえば聞いた事がある。


稲荷という神様も、その存在が維持できるのは人の信仰に依るものだと。


神は、人より信仰される事で神になれる。


なるほど、僕の鬼の力に反応しての事か。


「さて、私も素性を明かした事ですし。本題ですが。」


言葉と同時にまた人間の姿に。


「あの、ムイカリさん。なんでまた人の姿に?」


「ん?だって、人の男は好きなんだろう?こういうのが?」


いや、そりゃ好きだけどもっ!!


ただ偏見というか…どっからの知識だ?


………まあ、いい。話がすすまないのでそのあたりはもうスルーしよう。


……というか……


「いやに会話がフランクになりましたね?ムイカリさん。」


「いや、なんかめんどくさくなってきたから?」


この短期間に?!まあいいんだけど。


「で、本題だけど。率直(そっちょく)にいうと、

この家のお嬢ちゃんに憑いてるのは。私じゃないんだよね」


それはなんとなく察してた。


むしろ、あの社自体に禍々(まがまが)しさは感じなかった。


(たた)ってたんなら、もっと社自体も、おどろおどろしいオーラを発してるはず。


「そう。で、あなたは何が原因だと?」


たずねてみる、あらかたもう察しはついてるんだろうと思って。


「話が早くて助かるよ。もう一つ狐がいるんだよ、狐塚(きつねづか)

それが原因だと思うんだけど。いまでは忘れ去られていてもう覚えている人もいない。」


なるほど、なら……


「逆探知しよう、この家のお嬢さんに会える事ってできる?」


次回につづきます。

ブックマークや感想など、していただけるととても嬉しいです!


TikTokでも投稿しています。

最新版はそちらで

「警棒使いの新米陰陽師」で検索。

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