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第十話  5年前へ(9) 夜明け、そして舞台は現在へ。

【前回までのあらすじ】


警棒で妖怪退治 → 5年前の回想へ

狐憑きの美少女と出会う → キツネがエロい

ジジイが空気投げ → ゴブリン大佐登場

祠の復活 → 僕、気絶 ← イマココ



________________



…………どこだ?ここは?…………


ふわふわして、体が地についてない感覚………


気がつくと、僕は地面のない真っ白い空間にいた。


「爺ちゃん…。ゆき(じぃ)、居るんだよな?」


何もない空間に話しかける。


すると、真っ白い空間の1点から波紋が広がって。


やがて風景が浮かび上がる。


それは、僕にとっては見慣れた風景。


五木家のほど近くにある、さびれた道場。


僕とゆき爺が夢の中で、いつも稽古している場所だ。


つまり、ここは今は夢の中なわけだ。


そこに、人の良さそうな笑顔をたたえた老人が一人立っていた。


ゆき爺だ。


ゆき爺は、僕の、ひい爺ちゃんにあたる。


正式には[五鬼(ごき) 幸継(ゆきつぐ)]、先代の五鬼 継だ。


「タカ坊、また派手にやったようじゃな」


ん?という仕草でゆき爺ちゃんはいう。


「ゆき爺との修行の通りにやっただけだよ。

それより、なんで今。僕はここにいるんだ。」


「ふむ」


と、ゆき爺は顎にたくわえた髭を触りながら。


「タカ坊、頭を触ってみい」


と、自分の髪の生え際あたりを指差し言う。


言われた通りに触ってみると、わずかに突起?


これって?……


(つの)じゃ」


「角ぉ!?………マジか……」


イヤイヤ、こんな目立つところに?


と、思い焦っていると。ゆき爺が。


「安心せい、それはここでしか見えん。

ここは言わば魂そのものの姿が見えとるからな」


って事は、現実世界ではこの角は生えて無いんだな。


ひとまず、安心はしたけど…


「なあ、ゆき爺。これってやっぱり、鬼の力を使いすぎたから?」


「そうじゃな、鬼の力は人ならざる力。使いすぎれば、魂もそれに近づいて行く」


「それって、つまり。使いすぎれば完全な鬼になるって事?」


「そうじゃ、まだその角は先が出てる程度じゃが、使い続ければ完全になる。

いわば、それは目安じゃな」


「え?じゃあもう使えないじゃん」


「時間が経てば引っ込むわい、短時間で使いすぎただけじゃ」


「それを聞いて安心したけど、それって完全に鬼になったら、

僕はどうなるの?性格が凶暴になるとか?」


「伝承によれば、性格どころか姿形まで完全に鬼になる………らしいが」


「めちゃめちゃ大事(おおごと)じゃない!?

そんな大事な事、先に言って欲しいよ」


「まさか、ヤツらとこんなに早く戦う事になろうとはな。」


ヤツら……今日戦ったアイツらか?


「なあ、ゆき爺。聞こうと思ってたんだ。

今日戦ったヤツら、邪気を使ってたんだ、何者なんだ?」


ゆき爺は、ウムッと(うなづ)く。


「ヤツらは、自分達で【獄鬼衆(ごくきしゅう)】と名乗っておる」


「獄鬼衆………」


アイツらも、鬼に関係してるのか?


「ワシも、何度かしか遭遇(そうぐう)した事がないがな。

日本の各所に作られた結界を壊しにきよる」


「なんでそんな事をするんだ?」


「わからん…だがタカほも見たと思うがヤツらには普通の武器は通用せん」


「うん、鬼の力でしか対抗できないんだね」


ウムッ、と頷くゆき爺。


そこで、だんだん景色かボヤけてくる。


夢から覚める……


「時間か、雷光纏身(らいこうてんしん)はなるべく使うな。鬼化を早める」


「わかった、ゆき爺、ありがとう」


そうして、また真っ黒になる……



_________



…………目覚めたら………


また真っ黒だった?なぜか頭に重量感……


……これは?……


「ん?目覚めたかい?」


ムイカリさんの声?……ムイカリさんが頭の重量物をどけると。顔が見える。


………ムイカリさんに、膝枕されていたらしい。


……って事は、あの頭の重量物は………



「……うわぁっ!!」


僕は飛び起きた!!心臓に悪い。


周りを見ると、さっきの祠の前。ギンジも心配そうに見てた。


ムイカリさんはニシシと見てる……


そして、ギンジはそんなムイカリさんの胸を見て……


「(ボソッ)いいな…おっきくて……」


………いや、ギンジ。見てたのそっちかい?



「僕は…あれから気を失ってたんだ?どのくらい眠ってました?」


「そんなには眠ってないよ、せいぜい10分くらいさ」


「そう………」


その間、看病してくれてたのか。ムイカリさんも優しいとこあるな、感謝だな。


そして!さっきの夢を思い出す……


獄鬼衆…、鬼の力…、そして角………


もっと、強くならなきゃ………


と、考えながら……ふと、頭の角を指で確認してみる……


良かった、ない。


それを見て、再びニシシ顔になるムイカリ。


「なんだい、この子は。そんなにさっきの感触が忘れられないのかい?」


と、自分の胸を寄せてパフパフさせる動作をするムイカリ………


前言撤回!やっぱ、ただのエロキツネだわ。コイツ。


「よしっ!では早速すぐに会長に知らせにいきましょう!!」


とたんに顔を真っ青にして硬直するムイカリ。


ほんとわかりやすいな。



___________



それからの話しをしたい。




それから僕達は、無事に山を下り。


蔵間家に狐塚の報告をする。


そうして、今後。管理がしやすいようにと、


屋敷の外のすぐそこ、鬼門方向の場所へと変更になったようだ。


そこに小さな祠が建てられ。結界も張り直された。


もともと、裏山のあの場所では。


時の経過とともに若干、気の流れが変化していたようだ。


なので、ムイカリさんが言うには。


鬼門封じとしては、今のこの形の方が気の流れは整うのだという。



そして屋敷では。僕達がいない間に、


葉子の父。【蔵間(くらま) 総一(そういち)】が、


いつの間にか帰宅していて。立ち入り禁止の稲荷社の封印を解いていた。


どうやら、ムイカリさんが急に力を取り戻す事になったのは。彼のおかげらしい。


ムイカリさんと彼との再会では笑えた。


「やあ、向狩(むいかり)くん。久しぶりだね。」


総一さんがムイカリさんにしゃべりかけると、ムイカリさんは顔真っ赤にして。


「やっ……やはっ!総一様!?はっ……えと、あのっ…」


珍しく、しどろもどろ(笑)


なるほど!あのエロ会長のセクハラの元でも、


この蔵間家の稲荷(いなり)でいる理由がよくわかったよ。


そこで、葉子の母の【蔵間(くらま) 加護(かご)】も出てきた。


「向狩さん、葉子の為に、いろいろと頑張ってくれてたんだよね!

聞いたよありがとう!」


と、ムイカリさんに飛びついてきた。


「なんだい?相変わらず暑苦しいね」


と、その表情からは嬉しさが滲み出ている。


「当たり前だろ、アンタらの子供って事は。私の子供も同然なんだからね。」


ムイカリと加護。しばしお互い抱きしめあう。


「こらこら、加護。向狩も疲れてるんだから、解放してあげなさい」


と、総一。


「はあぁーい!」


と、総一と加護、二人が微笑み合う。


それを、微笑ましくも。少し寂しそうな表情で見てるムイカリさん。


三人とも、友人みたいなもんかな?


………なるほど、切ないね。



そこで、完全に人間に変化したギンジがおそるおそる登場する。


(あね)さん、そろそろ出てきてもいい……?」


「あ、ああ。ギンジ。待たせたね、この二人だよ、私がアンタに会わせたいのは。」


そして、ギンジは、総一さんの顔を見てビックリする。


「そ………宗一(そういち)っ………?」


「は…はい、私が総一ですが?どこかでお会いしましたか?」


不思議そうな顔で問いかける総一さん。


ギンジは、気まずそうに……


「あ、ああ…。総一さん。いやあの、いつも向狩さんからお聞きしていたもので…」


ムイカリさんもフォローにはいる。


「ああコイツは。私の部下のギンジ。私と一緒にここの経営コンサルにはいるよ」


と、ポンとギンジの肩をたたく。


「そして、ゆくゆくは。ここの経営コンサルの全面を任せようかと思ってる」


総一さんと加護さんはビックリして。


「えっ?ここの経営コンサルタントを辞めるのかい?どうして?」


ムイカリさんは笑って。


「ここと関わりを断つわけじゃないよ。

…ただ、葉子嬢ちゃんだよ。あの子、ずっと寝たきりだっただろ?

学力だって落ちてるだろうからね、私が家庭教師になってやりたいんだよ」


「それはっ………ありがたいけど、そんな事まで。いいのかい?」


と、申し訳なさそうに総一。


「いいも何も、私がそうしたいんだよ。

………それに、アンタ達の相手ならギンジの方が適任だしね!」


「姐さん………」


ギンジの肩に手をやりながらウインクするムイカリ。


涙ぐむギンジ。


「ほら、泣くんじゃないよ。せっかくのメイクも台無しじゃないか」



ん?人間に化けるのって、そんなに気合いいるもんなのか?



これは、後から聞いた話なんだけど。


蔵間家の祖先は、高名な狐使いだったようだ。


その狐使いの名は【蔵間(くらま) 宗一(そういち)


その宗一に仕えていた狐が、ギンジだったのだ。


ムイカリさんも、宗一が気に入り。たびたび力を貸していたらしい。


正直、個人的には好きだったんだろうな。



残念ながら、宗一ではムイカリさんを使役するには力が足りなかったようだ。


だから変わりに、ムイカリさんは代々、稲荷社に入り。蔵間家を守ってきた。


そして、宗一は。自身の使役した狐のギンジを。鬼門封じの主にした。


そして、ムイカリさんやギンジの話によると。総一さんは、宗一の生まれ変わりらしい。



「でも、屋敷の中じゃ。騒がしいから、あの稲荷社の中を教室にして。みっちり教え込んでやるよ」


ムイカリさんが言うと、その後ろでいきなり声がした。


「イヤじゃあぁぁぁっ!!」


「げっ!?」「爺ちゃん!」「お爺さま!?」


ムイカリさんと、総一さんと、加護さんが同時に声を上げた。


エロジジ………もとい会長である。


「経営コンサルは、ワシの専属はぁ!むさい男でなく!

チチ………向狩ちゃんじゃないとぉ!!」


いま、チチって言いかけたよな?


「大丈夫です!会長っ!このギンジにお任せくださいっ!」


とギンジ、自身の筋肉美をアピールするかのようにポーズをとる。


「だからイヤじゃあぁぁぁ!むさい男わあぁ!」


「あの、オレ…。これでも女です」


「へっ………………!?」


会長と僕、加護さんと、周りのSPが同時に声を上げる。


平然としてたのはムイカリさんと総一さんくらい。



…………しばしの沈黙………



会長が、上から下までギンジを見る………


ギンジ、再び筋肉美アピール。


「やっ…………やっぱりイヤじゃあぁぁぁ!!!」


とうとう暴れ出した会長。


「ギンジッ!!」


「はっ!」


ムイカリが命じると、ギンジが会長にヘッドロックをかける。


………イヤ、だから老人にヘッドロックって……



しばらく、数秒のち。会長は沈黙した……


そんな会長に向かってムイカリが、かわいこぶりな口調で。



「ん会長ぉぉ♪ギンジをぉ♪経営コンサルタントにしてぇ♪いいよねぇ?♪」


ギンジにヘッドロックかけられたままで、コクコクと頷く会長。


あきらかにギンジが無理やりうなずかせてる……。


「キャアアン♪ありがと会長ぉ♪」


周りもドン引いてた………


ま、いっか。



そして、僕は。翌日朝、屋敷を後にする事にした。


元々の目的地に向けて。



***


場所は変わり。薄暗い、壁は岩に固められた。


洞窟?のような場所。


洞窟にしては不自然にだだっ広い。


そこにうずくまり、苦悶の表情を浮かべる男。


ムガイだ。


「くっ………、あのガキ……」


「手ひどくやられたねぇ☆」


いつの間にかムガイの後ろに立っていた、

体のラインをやたら強調した派手なドレスを着た。

例えるなら、一昔前のキャバクラ嬢みたいな女性が話しかけた。


「クラメか……」


どう見ても派手めなクラメが、ムガイを煽るように言う。


「私の力、使っちゃったねぇ〜☆行く前は絶対使わないとか言ってたのにぃ☆

ねぇ☆どんな気持ちぃ?イキって出てったのにぃ☆

ボロボロになって助け求めて来てぇ☆ねぇ☆どんな気持ちぃ?」


と、あの空間の裂け目を手から発生させる。


どうやら、あの装置は彼女への合図だったようだ。


ムガイは顔を真っ赤にしながら。



「………うるせぇ……」


といい、歩いてその場を去った。


「ありゃりゃ?☆本気で落ち込んでた?☆」


と、言ってクラメも反対方向に歩いていった。



***



再び蔵間家の前。


翌朝、出発しようとする背中を、呼び止める声が?



「待って………下さい………」


ムイカリさんに肩を貸してもらいながら、葉子がたっていた。



「えっと?………お嬢さん。体は大丈夫?」


僕は、大丈夫じゃないよな?と思いながらも声をかける。


「はいっ………あの……ありがとうございますございました!

私、あなたに噛みついてた時。かすかに意識があったんです…」


ポロポロと、話しながら涙が伝う。


「意識はあるのに、体は勝手にみんなを傷つけて………。

そんな時に、大丈夫って、私は悪くないって。

そしたら、なんだか体が軽くなったんです」


それは、たぶん。鬼の血で、祟りが中和されたからだと思う。



「私も……なりたいんです……!

 自分を許して、誰かを守れるような……あなたみたいな人にっ!」


僕は、ウンと(うなず)いた。


「なれるよ。だって君、もう強いもん。……あれ、マジで痛かったし。ちょっと泣きそうだった」


と言って、右手を見せながら、軽く舌を出す。


ボフッ!!


顔から湯気が出そうなくらい真っ赤になる葉子。


「アハハッ!ウソウソ、ごめんごめん!

ほらっ、ぜんぜん怪我もしてないし、平気」


右手の袖をまくって、グー、パーと開いて見せる。


一瞬ア然とした葉子は、ぷぅっとほっぺを膨らませた。


「びっくりしたじゃないですかぁ!」


「アハハ、ほんとごめん。でもね、最後には君、ちゃんと邪気に勝ってたんだ。

……強いよ、君は」


「……っ、はいっ!」


ようやく笑顔が戻る。


「じゃあ、行くね」


手を振って歩き出すと……その時。


目の前に、静かに黒塗りのクラウンが止まった。


そこから現れたのは、メガネに黒髪。糸目で少しニヒルな微笑をたたえた男。


「平助さん」


五鬼(ごき) (じょ)と呼んでくれよ。」


後ろ頭をポリポリかきながら言う。


「それより探したよ。さ、乗って。」


と、クラウンのドアを開ける。


僕は、振り返り2人に手を振ると。車に乗り込んだ。


助さんも乗り込むと、そのままゆっくり走り始めた。


その姿を小さくなっていくまで見送りながら、葉子はムイカリさんに話しかける。


「ムイカリさん。私も、なれるかな?あの人みたいに………

私を許してくれた、あの人みたいに…強く……」


ムイカリは、口元に優しい微笑を見せて。


「なれるさっ!アンタには、私のとっておきを教えてやるっ!」


「はいっ!」


そうして、2人は車の姿がみえなくなるまで見送った。



__________



車の中で。


「つっかれたぁ~!マジで疲れたぁ!」


僕は緊張が解けて叫んだ。


「お疲れ様。待ち合わせ場所に来ないと思ったら。

まさか、今回、依頼しようと思ってた場所に先にいるとは思わなかったよ。」


「ええ!?そうだったの?」


ビックリ!偶然にもほどがある。


「それはそうと、その姿は?」


「あ、そうだ。忘れてた」


僕は、額の文字を、手で拭って消すと。


[ボンッ]と、元の姿に戻る。


「それが、噂の龍体文字だね。やっぱりすごいね。…………ん?」


バックミラー越しに見ると、僕はもう眠ってた。


「本当に、お疲れ様。」



こうして、僕は、最初の仕事をなんとか終えた。


それからさらに5年、実戦の経験もつみ。修行もかさねる。



そして——物語は再び、“現在”へと動き出す。




つづく

ここまで読んでくれてありがとうございます。

やっと長かった過去編が終わり、現在の時が動き出します。


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