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場面9:拠点の発見と確保

焚き火の前で仮眠を取り、少しだけ体力を回復させた俺たちは、翌朝、再び森の中を歩き始めていた。

 

幸い、木々の隙間からは久しぶりに太陽の光が差し込んでいる。地面はまだぬかるんでいるが、昨日までの陰鬱な雰囲気はいくらか和らいでいた。

 

隣を歩くセラも、スープと休息のおかげか、昨日よりは顔色が少しだけマシに見える。だが、依然としてその表情は硬く、俺への警戒を完全には解いていないようだ。まあ、無理もないだろう。

 

(まずは、雨風を確実にしのげる、安全な場所を見つけないとな)

 

昨夜のシェルターは、あくまで応急処置だ。長期的に滞在できるような場所ではない。それに、いつまた奴隷商人たちのような連中や、ファングラビットのような魔物に襲われるとも限らない。

 

俺は周囲を注意深く観察しながら、比較的開けた場所を選んで進んでいく。

 

しばらく歩いた時だった。木々の向こうに、人工的な建物らしきものが見えた気がした。

 

『お、小屋発見! ボロそうだけど、雨風しのげれば御の字っしょ!』

 

近づいてみると、それは古びた狩人の小屋のようだった。壁は丸太で組まれ、屋根には苔が生えている。かなり長い間、使われた様子はない。歪んだ木の扉がかろうじて蝶番にかかっている。

 

ここなら、雨風はしのげるかもしれない。でも、中に誰かいたり、危険な罠があったりしないか…?

 

(アリアに聞いても無駄だろうな。建物の中までは見通せないだろうし、危険を察知するような機能も今のところなさそうだ。結局、自分の目で確かめるしかないか)

 

俺はセラに目配せし、二人で慎重に小屋へ近づく。扉は軋みながらも簡単に開いた。

 

内部を覗き込む。埃っぽく、カビ臭い木の匂いがする。蜘蛛の巣が張っており、誰かが住んでいる気配はない。動物が巣くっている様子もない。内部には壊れた木製の棚と、冷たい石造りの暖炉の跡があった。床には狩りの道具らしきものの残骸がいくつか転がっているだけだ。罠のようなものも見当たらない。

 

「よし、大丈夫そうだ。ひとまず、ここを拠点にしよう」

 

俺が言うと、セラは黙って小さく頷いた。昨日よりは少しだけ、表情が和らいだように見えたのは、気のせいだろうか。安全な場所が見つかったことに、彼女も安堵しているのかもしれない。

 

(これで今夜は、雨風と魔物の多少心配をせずに眠れる…! それだけでも、天国だ)

 

俺は入り口の歪んだ扉に、近くの枝で簡単なかんぬきを作って取り付けた。完璧ではないが、何もないよりはマシだろう。

 

『ま、最初の拠点としては悪くないんじゃない?』

 

アリアは素っ気ないコメントだ。とはいえ、このままでは埃っぽくて休めない。

 

俺は【生成AI】で簡単な箒と雑巾(周囲のものと、昨日の毛布もどきの一部を使った)を生成し、セラに向き直る。

 

「少し綺麗にしようか。…セラ、手伝ってくれるか?」

 

俺は生成した道具を手に、少し困った顔で尋ねた。

 

「これを使おう。……どこから出したのか、というのは説明が長くなるから省くけど、とりあえず俺の能力だと言っておくよ」

 

セラは無言で道具を受け取るが、その瞳には明らかに「?」が浮かんでいるように見えた。まあ、仕方ない。今は説明している余裕もない。

 

彼女は一瞬戸惑ったような表情を見せたが、やがておずおずと頷いた。

 

「……わ、かり……ました」

 

彼女は小さな手で雑巾を受け取ると、俺と一緒に小屋の掃除を始めた。俺が大雑把に床を掃いていると、セラは雑巾を固く絞り、黙々と壁の煤を拭き始めた。その小さな背中が、健気に見えた。

 

彼女が協力してくれたことに、俺は大きな安堵感と、ささやかな喜びを感じていた。

 

まずは、この仮の拠点からだ。ここから、俺たちの異世界での生活が、本当の意味で始まるのかもしれない。


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