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場面6:運命の出会い

雨はいつの間にか上がっていた。とはいえ、森の中は薄暗く、湿った土と草いきれの匂いが立ち込めている。

 

ヒトヨタケモドキとかいう不味いキノコで僅かに腹を満たした俺は、当面の安全を確保するため、そして可能ならもっとマシな食料か、あるいは雨露をしのげる場所を見つけるために、再び森の中を歩き始めていた。

 

(スキル【生成AI】……か)

 

追放の原因となった、俺の唯一のスキル。

 

未だに全容は掴めないが、少しだけ分かってきたこともある。

 

まず、このスキルには『アリア』と名乗る、やけに馴れ馴れしいギャル口調のAI(人工知能)がインターフェースとして搭載されている。彼女の声は俺の脳内に直接響き、スキルウィンドウの操作などを補助してくれる……というか、主に文句を言ってくる。

 

そして、スキルの中核機能は、『創造モジュール』と『学習モジュール』の二つ。

 

創造モジュールは、「プロンプト」と呼ばれる指示文を入力することで、物を生成する力。完全なゼロから何かを生み出すだけではなく、周囲の物質を材料(触媒)として消費することもできる。プロンプトの書き方や材料の質で、出来上がるものの質が天と地ほど変わる。


今はさっきのシェルターや槍のように、粗末な物しか作れていないのが現状だ。MP消費は今のところ少ないように感じるが……これも作るものによるのかもしれない。

 

一方、学習モジュールは、魔物の死骸やアイテムなどを消費してデータ化し、アリアの知識を更新する力。ファングラビットの弱点が分かったのはこのおかげだ。ただし、対象物を完全に消滅させる上に、結構なMPを消費する。得た情報を引き出すためにも、わざわざプロンプトで命令してMPを使わないといけないという、なかなかに不便な仕様だ。

 

(結局、使いこなすには俺自身の発想力……プロンプトの質と、学習によるデータ蓄積、そしてMP管理が重要ってことか。前途多難すぎるだろ……)

 

アリアとの会話(?)は、基本的に脳内で行われる。スキルウィンドウも俺にしか見えないようだ。つまり、傍から見れば俺はただの独り言を呟く不審者だ。まあ、今は人に見られる心配もなさそうだが。

 

しばらく進むと、前方から微かに物音が聞こえてきた。

 

人の声……? いや、怒鳴り声に近い。それと、何かを追いかけるような足音。

 

「アリア、今の音、何かわかるか?」

 

『んー? 音源だけじゃ、何とも言えないなー。マスピが見ないとわかんない!』

 

(やっぱり、俺の五感が頼りか……)

 

俺は息を潜め、音のする方へ慎重に近づいていく。幸い、下草が生い茂っており、身を隠すのは容易だった。

 

茂みの隙間から、そっと前方を窺う。

 

そこには、少し開けた場所があった。どうやら小さな小川が流れているらしい。

 

そして――俺は息を呑んだ。

 

数人の、見るからに柄の悪い男たち。革鎧は汚れ、腰の剣は使い古されている。顔つきも下品で、一目でまともな人間ではないと分かる。奴隷商人か、あるいはただの追い剥ぎか。

 

彼らが取り囲んでいるのは、小さな女の子だった。

 

年は十歳にも満たないように見える。銀色の髪は汚れ、所々破れた粗末な服を着ている。その小さな体には痛々しい傷や痣があり、ひどく怯えた様子で震えていた。尖った耳が見える……エルフってやつ、だろうか。

 

「へっへっへ、もう逃げ場はねぇぞ、エルフのガキ!」

 

男の一人が、下卑た笑いを浮かべて少女に近づく。

 

「いや……来ないで……誰か……!」

 

少女は、涙声でか細く懇願するが、男たちはそれを楽しんでいるかのように嘲笑うだけだ。

 

男の一人が、少女の細い腕を乱暴に掴み上げた。

 

「逃げられると思ってんのか、あぁ!?」

 

(なんだあれは……ひどすぎる……!)

 

俺は茂みの中で拳を握りしめた。怒りで体が震える。

 

あんな小さな子を、寄ってたかって……。許せない。

 

『ちょ、マジで!? マスピ、無茶だって! 今のアタシじゃ大した事できないんだよ!? 情報だって、まだ……!』

 

アリアが脳内で警告してくる。確かにそうだ。俺は戦闘経験など皆無。スキルだってまだまともに使えない。相手は三人。武器も持っている。下手に飛び出せば、俺がやられるだけかもしれない。

 

(足がすくむ。ここで飛び出せば、俺もこいつらに何をされるか分からない。スキルだってまだ……。だが、あの涙を見たら、震える背中を見たら……!)

 

頭では分かっている。危険だ、と。関わるべきじゃない、と。

 

だが――。

 

目の前で怯える少女の姿が、震える小さな背中が、どうしても見過ごすことなんてできなかった。

 

(……ああ。見過ごせるかよ!)

 

俺は、震える脚に力を込め、茂みを蹴るようにして飛び出した。心臓がドクン、と大きく跳ねる。

 

「まて! その子から離れろ!」

 

自分でも驚くほど大きな声が出た。


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