場面26:新機能テスト
昨夜のハプニングから一夜明け、俺はなんだか非常に寝覚めの悪い朝を迎えていた。
セラもフェリシアさんも、そしてミミでさえも、朝食の席ではどこかよそよそしいというか、俺と目を合わせようとしないというか……。うん、気まずい。非常に気まずい。
あの後、どうやって場が収まったのか、正直あまり記憶がない。ただ、アリアの「マスピ、ドンマイ! これもハーレム主人公の試練だよ! ま、アタシは高みの見物決め込んでたけどね!」という脳内通信だけが、やけに鮮明に思い出される。余計なお世話だ! というか、お前も同罪だからな!
そんな微妙な空気を引きずりつつも、俺たちは【生成AI】の新たな可能性を試すため、新拠点に設けた専用の訓練場へとやってきていた。
広々とした土のグラウンド。周囲には頑丈な訓練用の的や障害物も設置してあり、これなら多少派手な実験もできそうだ。
「よし、アリア! 早速だけど、新しく解放されたモジュールを試してみよう!」
俺が気合を入れ直して言うと、肩の上で待機していたアリアのアバターが、待ってましたとばかりに勢いよく飛び上がった。
『オーケー! マスピ! まずはどっちからいく? ロマン溢れる【魔法モジュール】? それとも、肉体改造できちゃう【スキルモジュール】?』
「まずは、魔法から試してみようか。俺自身、魔法なんて使ったことないから、基本的なところからだけど」
『りょ! んじゃ、アリア様もそれに合わせて、アバターチェンジ! いくよー! ピロリン♪ マジカル・トランスフォーム!』
アリアがそんな掛け声と共にくるりと回転すると、彼女のアバターが眩い光に包まれた! 彼女の周囲に幾何学的な光のラインが走り、それが収束すると同時に新しいコスチュームが実体化する。
そして、光が収まった時、そこにはいつものカジュアルな姿ではなく、フリルのついたミニローブを身にまとい、頭にはとんがり帽子、手には可愛らしい星型のステッキを持った、まるでアニメかゲームから飛び出してきたような「魔法少女風」のアリアが立っていた!
(うわぁ……。まあ、可愛い……のか? いや、アリアが可愛いのは認めるけど、この格好はちょっと……うん、色々コメントしづらいな!)
「魔法少女アリア☆爆誕! って、マスピなんか顔赤くない? もしかして、この可憐な姿に見惚れちゃった感じ?」
アリアが星型ステッキをクルクル回しながら、得意げにウィンクしてくる。
「な、なんでもない! 昨日の夜、ちょっと寝不足なだけだ! それより、早速魔法を生成してみよう! ええと…『プロンプト:初心者向けの火属性攻撃魔法を生成。威力は低くてもいいから、安定して発動できるものを』」
俺がそう指示すると、アリアの持つ星型ステッキの先端がピカッと光り、俺の目の前のスキルウィンドウに、何やら複雑な魔法陣のような図形と、短い詠唱文が表示された。
『はいよー! 火球生成魔法「プチフレイム」、術式データ転送完了! マスピの魔力回路に直接リンクさせるから、イメージと詠唱に集中してね! OK! この世界の基本的な火の元素マナの励起パターンを解析して、最小構成の攻撃魔法として再構築っと…できたよ!』
言われるがまま、俺は表示された魔法陣をイメージし、ぎこちなく詠唱を口にする。
「来たれ、炎の小片……プチフレイム!」
すると、俺の掌から、ポンッ、と小さな火花が飛び出した。……本当に、ただの火花だ。掌に、まるで小さな太陽が生まれたかのような、確かな熱量を感じる。しかし、それはすぐに霧散し、的に向かって飛んだのは、頼りない線香花火のような火の粉だった。
「……しょぼい」
思わず本音が漏れる。
「ユウ様、今のマナの流れが少し不安定でした。もう少し、こう……精神を集中させて、体内の魔力を炎のイメージと共に練り上げるように……」
いつの間にか隣に来ていたセラが、真剣な表情で的確なアドバイスをくれる。彼女は魔法の専門家だ。その言葉には説得力がある。
俺はセラのアドバイス通り、深呼吸して精神を集中させ、再度詠唱する。
今度は、さっきよりは少しだけ大きな、ピンポン玉くらいの火球が現れ、近くの的に当たってパチパチと小さな火花を散らした。
「おおっ! 少しはマシになったか……!? よし、アリア! 次は水属性の魔法を生成してくれ! 『プロンプト:初心者向けの――』」
『あ、マスピ、ちょっと待った! 大事なこと言い忘れてた!』
俺が意気揚々と次の指示を出そうとした瞬間、アリアが慌てたように声を上げた。
『今の【魔法モジュールVer.1.0】だと、マスピがストックできる魔法は、一つだけなんだよね。モジュールのバージョンとストック数は連動してるから、Ver.1だと1個、Ver.2になれば2個って感じで、最大Ver.5で5種類の魔法を同時にストックできるようになるはず。だから、今ここで新しい水属性の魔法を生成すると、さっきの「プチフレイム」のデータは上書きされて消えちゃうけど……それでもいい?』
「え……? 一つだけ……?」
俺はアリアの言葉に、思わず固まる。
(マジかよ……! 毎回新しいの作るたびに上書きって、それ、実質使い捨てってことか!? 欲しい魔法やスキルが出るまで延々と生成し続ける……って、それもう、ただのガチャじゃないか!)
一気に期待感が萎んでいくのを感じる。これは、かなり大きな制約だ。
『マスピ、顔に「なんで俺のスキル、こんなソシャゲ仕様なんだよ…!」って絶望してる顔だね!』とアリアがツッコむが、そんなことはどうでもいい。
『でもでも、安心してマスピ! モジュールのバージョンを上げていけば、ちゃんとストック数も増えるから! だから、今はどの魔法を「今の自分」にインストールしておくか、よーく考えて選んでね! スキルも同じだから、そこんとこヨロシク!』
アリアは俺を励ますように、しかしどこか楽しそうにそう言った。
(いや、落ち込んでいても仕方ない。文句を言ってもスキル仕様は変わらないんだ。今は、この限られた条件の中で、最大限の成果を出す方法を考えるしかない。そして、一刻も早くモジュールをバージョンアップさせるんだ!)
俺は内心で悪態をつきつつも、気を取り直す。
「分かった。それじゃあ、今は「プチフレイム」のままでいい。次は【スキルモジュール】を試してみよう!」
『あいよっ! アリア様、再びトランスフォーム! スキルインストール!』
アリアが再び光に包まれ、今度はスポーティな動きやすい格好――まるで格闘家のような――に姿を変えた。頭には気合の入ったハチマキまで巻いている。
「スキルマスター☆アリア、ここに参上! アタシに教えられないスキルはない!(…たぶん! Ver.1だから、まだあんまり難しいのは無理かもだけど! こっちもストックは一つだから、そこんとこヨロシク!)」
「威勢がいいな……。それじゃあ、まずは基本的な身体能力の向上からだ。『プロンプト:フェリシアさんの剣技データ(以前スキャンしたもの)を参考に、基礎的な回避ステップスキルを生成。初心者でも扱えるレベルで』」
『あいよっ! 回避スキル「クイックステップ」、生成完了! マスピの運動神経にインストール開始!』
瞬間、俺の体に、何やら新しい動きの感覚が流れ込んでくるような、不思議な感覚があった。
(頭の中ではフェリシアさんの華麗な動きが再生されるのに、俺の体はまるで錆びついたブリキ人形だ…! 元の世界では運動神経皆無だった俺の身体スペックでは、いきなり高度なステップは無理がある!)
「うおっとっと……!」
頭では理解できても、体がすぐにはついていかない。
イメージ通りにステップを踏もうとするが、足がもつれてしまい、なんともぎこちない動きになってしまう。
「プププ! ユウ、だっさーい!www まるで生まれたての子鹿みたいにゃー!」
ミミが腹を抱えて大笑いしている。くっ……! このおチビ猫め!
「……話にならんな。基本が全くもってなっていない」
フェリシアさんが、呆れたように深いため息をついた。そして、すっと俺の隣に近づくと、その手が俺の腰にそっと触れた。
「!? ふぇ、フェリシアさん!?」
「黙っていろ。基本はこうだ。もっと腰を落とし、視線は常に前。相手の動きを予測し、最小限の動きで攻撃を避けるんだ」
彼女の低い声と、腰に添えられた手の温もり、そして間近に感じる彼女の息遣い……。
(ち、近い! 近すぎるって!)
昨夜の出来事がフラッシュバックし、俺の顔は再びカッと熱くなる。
だが、彼女の指導は的確で、その動きは洗練されていた。彼女が手本として見せてくれる回避ステップは、まるで舞うように美しく、そして無駄がない。
(なるほど、重心移動と視線の使い方が根本的に違うのか…!)
彼女の真剣な眼差しと、時折厳しさの中に混じる微かな優しさに、俺の心臓は別の意味でも高鳴っていた。
「……少しはマシになったか? まあ、及第点には程遠いがな。だが、飲み込みは悪くないようだな。明日からみっちり鍛え直してやるから覚悟しろ」
しばらく直接指導を受けた後、俺の動きは最初よりはいくらかマシになったようだ。
フェリシアさんは、ぶっきらぼうにそう言いながらも、その口元には微かな笑みが浮かんでいるように見えた。
「魔法・スキルの生成……非常に興味深いです」
セラは、純粋な知的好奇心から、俺のスキルウィンドウに表示されていた術式データに釘付けのようだ。
新しく解放された【魔法モジュール】と【スキルモジュール】。
まだVer.1で、生成できるものも初歩的なものばかりだし、ストック数にも大きな制限がある。
だが、その可能性は無限大だ。
(今はまだ一つの魔法、一つのスキルしか使えないけど、これがもっとストックできるようになって、もっと高度なものが作れるようになったら……。考えるだけでワクワクする。そのためにも、もっとAILvを上げて、アリアを、そして各モジュールを進化させないと!)
これからの戦闘や探索、そして生産活動に、とてつもない変革をもたらしてくれるに違いない。
そして何より、こうして仲間たちと一緒に試行錯誤し、新しい力を開拓していくのは、素直に楽しかった。




