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場面17:オリヴィアへの報告

工房での歓喜も束の間、俺たちは完成したばかりの試作品――『元気モリモリブロック最終改良版Ver.3.5』、『タクミ・グリップ最終調整版』、そして稼働を始めたばかりの『フロンティア・ウェザーリポートVer.1.5』の初期予測データ――を手に、足早に代官屋敷のオリヴィアさんの執務室へと向かっていた。


これまでの苦労が報われるか、そして何より、フロンティアの未来を変える第一歩となるか。期待と緊張が入り混じり、俺の心臓は早鐘のように鳴っていた。


アリアも俺の肩の上でソワソワと落ち着かない様子だ。この瞬間を、俺たちはずっと待ち望んでいたのだから。


「ユウ様、お待ちしておりました。皆様のお顔を拝見するに……どうやら、素晴らしい結果をご報告いただけそうですわね?」


執務室に通されると、オリヴィアさんはいつものように優雅な微笑みで俺たちを迎えてくれた。だが、その青い瞳の奥には、隠しきれない期待の色が浮かんでいるのが見て取れた。


俺はゴクリと喉を鳴らし、手に持っていた風呂敷包みを恭しく彼女の執務机の上に広げた。

そこには、俺たちの血と汗と、そしてアリアの無茶な計算の結晶が並んでいる。


「オリヴィア様、ご依頼の件……なんとか、形になりました」


まず、『元気ブロック』。見た目は相変わらず武骨なレンガのようだが、その中には凝縮された栄養と、ミミすら唸らせた改良済みの風味、そして驚異的な保存性が秘められている。


次に、『タクミ・グリップ』。フェリシアさんの厳しいテストと、職人たちの多様な意見を反映し、アリアが素材配合と形状をミリ単位で最適化した、まさにオーダーメイドの逸品だ。


オリヴィアさんは、一つ一つを手に取り、その質感、重さ、そして込められた機能性を、まるで宝石を鑑定するかのように冷静に、しかし熱心に確かめている。また元気ブロックの欠片を口に含んでみる。


彼女の白い指先がグリップの滑らかな曲線や、ブロックの硬質な表面をなぞるたびに、俺の緊張は高まっていく。


「素晴らしい出来栄えですわね、ユウ様。この元気ブロックは、冒険者だけでなく、長距離を移動する商人や、いざという時の備蓄食料としても計り知れない価値があるでしょう。口にした時の満足感も、以前の試作品とは比較になりませんわ。そしてこのグリップ……! 実際に道具に装着すれば、我が街の職人たちの生産性を飛躍的に向上させるに違いありませんわ。彼らの長年の悩みを、こうも的確に解決するとは……驚きです」


彼女の声には、抑えきれない感嘆の色が滲んでいる。そして、俺は最後の切り札を取り出した。


「そして、こちらが『フロンティア・ウェザーリポート』の、これまでの観測データと、今後数日間の予測結果です」


俺はアリアに指示し、工房のディスプレイと同じように、オリヴィアさんの執務室に設置させてもらった予備の魔力水晶ディスプレイに、気象システムの予測画面を映し出した。

フロンティア周辺の地図の上に、風の流れを示す青い軌跡が滑らかに動き、マナの濃度変化が柔らかなグラデーションでフロンティアの大地を覆っていくのが視覚的に表示されている。そして、数時間後、翌日、さらには三日後までの天気、気温、風向、マナ濃度の予測値が、具体的な数値と共に示されていた。


それを見た瞬間、オリヴィアさんの表情が一変した。普段の冷静沈着な彼女からは想像もつかないほど、その美しい青い瞳が驚愕に見開かれ、言葉を失ったかのようにディスプレイを凝視している。


やがて、彼女は震える指でディスプレイに触れ、信じられないといった面持ちで呟いた。


「こ、これほどの精度で……数日先までの天候が予測できるなど……! 農業計画の大幅な効率化、物流ルートの最適化、冒険者の安全管理の徹底……いえ、それだけではありませんわ! 祭事の計画から、街の防衛計画に至るまで……フロンティアの運営そのものが、根底から変わります……! これは……まさに革命ですわ!」


彼女の声は興奮に上ずり、白い頬は高揚感でバラ色に染まっている。才媛オリヴィア・ヘンドリックが、これほどまでに感情を露わにするのを、俺は初めて見た。


それほどまでに、この気象予測システムが持つ可能性は、彼女にとって衝撃的だったのだろう。


やがて、彼女は深い感動が収まらないといった様子で、俺の手を両手で強く握りしめた。


「予想以上ですわ、ユウ様! 貴方のその『発想』する力、そしてそれを『形』にする力……それは、このフロンティアが喉から手が出るほど求めていたものです。既存の常識を打ち破り、新たな道を切り開く……まさに、希望そのものですわ!」


その真っ直ぐな称賛の言葉と、力強い握手に、俺の胸は熱くなった。


追放され、役立たずと蔑まれた俺が…誰かの希望に…。アリアと、そして仲間たちと、必死にもがいてきた結果が、こうして認められるなんて……。胸の奥から熱いものがこみ上げてくる。これは、フロンティアのためにも、もっと頑張らなければ。


これまでの苦労が、全て報われたような気がした。


「さあ、早速、これらの素晴らしい発明品をフロンティアの、いえ、世界の役に立てるための具体的な計画を立てましょう! 量産体制の構築、販売戦略の立案、そして気象観測システムの本格的な運用開始……必要な資金、人材、流通ルートの確保は、このオリヴィア・ヘンドリックが、代官家とフロンティアの名誉にかけて、全てご用意いたしますわ!」


彼女は力強く宣言すると、ふと、悪戯っぽい笑みを浮かべた。

そして、俺にだけ分かるように、片目を軽くつむって、ウインクしてみせたのだ。


不意打ちのウインクに、俺の心臓が大きく跳ねた。

え、今の、何……? オリヴィアさんが、ウインク……?

普段の冷静沈着な彼女からは想像もつかない、まるで悪戯っ子のような一瞬の表情……。俺は、彼女のまた新たな一面を見たような気がして、心臓が妙な音を立てるのを感じた。


『おーっと、マスピ! あの氷の才媛オリヴィア様が、まさかのデレ行動! いやいや、これは高度な人心掌握術の一環かも? でもマスピの心拍数グラフから分析するに、効果絶大だね! 要注意人物リスト、トップティアに更新しとこ! あとで対策プロンプト、考えとくね!w』


アリアの脳内実況が、ここぞとばかりに騒がしい。


「ありがとうございます、オリヴィア様! 俺たちプロンプターズも、全力で協力させていただきます!」


俺は、まだ少しドキドキしている心臓を抑えながらも、彼女の力強い言葉に応える。


こうして、俺たちの開発したアイテムとシステムは、オリヴィアという最高のパートナーを得て、いよいよフロンティアの、そして世界の未来を動かすための大きな一歩を踏み出すことになったのだ。


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