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アノヒト

月が綺麗な夜

ふと左をみた

誰もいないのはわかっていた

なのに

「月が綺麗ですね」

とつぶやいていた

俺は文学的ではないけれどこの言葉の意味は知っていた

仲間とキャンプをしている夜に月見がてら仲間と騒いでいるとき

泣きたいくらい綺麗に輝く月が目に入って 

「月 綺麗だな」とその幼馴染に同意をもとめたときにおしえてもらったのだ

さる文豪が、ある言葉の和訳に使ったのだとかで、

異性が隣にいる時に使うと、勘違いする事があるから気をつけるようにと注意されたのだ。


だからおれは

あの時あの月を見て、

「月がきれいですね」 といった時

その思いをこめていたと記憶している

もう名前さえ覚えていないアノヒト

赤く輝く月がアノヒトの綺麗な瞳のようで

あの世界で出会えた奇跡に感謝した


なんでも無い日の朝

玄関を開けて一歩足を踏み出したとき

冗談みたいに始まったあの物語

あの物語の主はいった

主の願いをかなえれば

元の世界にかえることもできるし

対価として一つ願いをかなえると

世界征服とか人の心を操るとか願いを増やすとかはだめだけど

一生生活に困らなくなるとか

好きなことをして生きていけるとか

そんな人の迷惑にならない願いなら

だいたいのことは一つだけ叶えてもらえると聞いた時に

アノヒトにもう一度会いたいと

願ったからまた会えたのだとおもっていた


アノヒトと紡いだ物語は過酷なこともあったが

概ね順調で、

よくある話だったから割愛させていただく

アノヒトがその身にアレを封じてすぐ、アレが最後の抵抗をみせ、俺たちの止まっていたはずの時間を動かした

そのため俺たちが元の世界に戻りたいならできるだけ早く戻らなければならなかった

俺たちの止まっていた時間がうごきだしたことで、元の世界とこの世界との時間の流れにズレができ、こちらに来る前に戻る事ができなくなるかもしれないとか

へたをしたら何年も経っていて

浦島効果とでも言うのか

そういったことになるかもしれないというので、俺たちは急いでもとの世界にもどしてもらったのだ


願いを叶えるのは元の世界に戻ってからでもいいとのことだったし

俺がアノヒトと出会えたことは本当にただの偶然で

俺の望みもちゃんと一つ叶えてもらえるというし深く考えることなくそのまま流されるように

それぞれがそのまま元の世界にもどったあと

なんの不都合もなくそれまでの日常に戻っていたからわからなくて

気づいた時には呆然としたのだ


ある夜 輝く月を見た時に

あの時俺の左にいたアノヒトの顔が

霞が掛かったようにしか思い出せなくなっていた

あの世界の記憶は消えていなかったのに

あの世界でおきたたくさんの物語はちゃんと覚えているのに

アノヒトの事だけなぜ思い出せないのか

願いを叶えるための繋がっていたあの世界の主とのツールを使って連絡をとって問いただした


同じ世界に帰れると信じていた 

まさか封じたアレが完全に消滅するまで

その身の時を止めたままあちらに残っていなければいけないなんて知らなかった

なぜアノヒトのことを思い出せなくなったのか 

についてだが

この世界とアノヒトとの繋がりが完全に切れたからだと言われた。

この世界でのアノヒトの痕跡は全て消されているという

初めからいなかったことになっている存在を

思い出せない事に気づいたことすら異常なことだと言われた

この世界との繋がりがない?

輪廻の輪もあの世界につながった?


きいてない

そんな事

しらされなかった事実に

打ちのめされた

例外としてあの世界での繋がりがある俺は

アノヒトを思い出した時点でもうこれ以上は忘れないだろうと言われても

ちっとも嬉しくなかった


初めて見かけたあの時から気になっていた

はにかんだ笑顔がすきだった

普段は控えめなのに

やると決めたら突き進んでいく姿が眩しかった


同じクラスになったことはないけれど

アノヒトのクラスの友達に

会いにいくふりをしていつも見ていた

俺のクラスにアノヒトの友達がいて、

時々遊びに来るのがうれしかった。

でもヘタレな俺は思いを伝えることも出来なかった


だからあの物語で出会えた奇跡に感謝した

あの物語の旅の中で少しだけ仲良くなれたと思っていた

こちらに戻ったら勇気を出して

この思いを伝えるつもりだったのに

アノヒトとの思い出が消えていくだけでなく

その存在さえもなくなっているなんて

今の俺には耐えられなくて


アノヒトがあの世界でひとりぼっちなら

友達でいいからそばにいたい

たとえ俺に思いを寄せてもらえなくても

そばにいられるだけでいいと思うのに…


アノヒトはとても素敵なひとだったから

旅する間も何人もの男に思いをよせられていた

だから今ごろあの世界で

俺の知らない誰かと新しい物語を紡いでいて

それを、友人として側で見守らないといけなくなるかもしれない

なんて思ってしまったらなかなか踏み出せないでいる


どんな願いもかなうなら

アノヒトの想いを俺に向かせてくれたらいいのになんてひどいことをおもったりした

人の心に干渉する事はできないなんて

あんなにがんばったのに

「望むことならなんでも」じゃないなんて酷いじゃないかなんて勝手なことも思ってしまう

そしてヘタレな俺は

今日もまた願いを保留にする


アノヒトを忘れる恐怖に怯えながら

アノヒトのそばに行く勇気もない俺に

嫌気がさす日々をすごしながら

月夜を歩くのも辛くなるくらい

いくばくかの時が過ぎた頃


アノヒトの夢を見た

アノヒトはあの赤い月を見ながら

あの時のように

「月がきれいですね」

とつぶやいていた

隣には誰も居なかった

俺が隣にいってもいいだろうか

あの言の葉の意味を知るものは

あの世界にはいないから


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