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天才棋士との結婚生活  作者: 有原優
結婚編

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24/30

第24話 死


 

 そして、翌日。「行ってくる!!」そう、元気に言う勇人君が元気に外に出ようとする。


「行ってらっしゃい!」


 私は彼を抱きしめる。


「今日が終わったらもう、いなくなるんだよね」

「ああ。そうだな」

「別の世界に行くんだね」


 寂しい。でも、その感情を矢面に出してしまったら、私は勇人君の決意に蓋をしてしまうことになる。


「行ってらっしゃい!」


 私にできることは笑顔で見送ることだけだ。

 もう、勇人君に会えない。そう考えると辛い。でも、乗り越えるしかない。

 それが、勇人君の事を愛した。私に出来る最後の事だから。


 私の隣ですやすやと眠る愛ちゃん。

 彼女の寝顔を見ると本当に申し訳なくなった。


 そして、私は、その間に、美晴の家に行く。勿論愛ちゃんを連れて。


 家で勇人君が死ぬのを待つのも、寂しいものだ。だからこそ、家にいるのも良くない。

 

 そして、勇人君に最後のメッセージを送った。こういうのは手紙で渡すのがよいとされると思うが、私にはメールの方がよかった。


「勇人君。今日が最後の日だね。読んだらマスコミに見つかる前に削除してください。私は当然ですけど、今もあなたを愛しています。それは、貴方が棋士だとか、そういうことは一切関係ありません。私は純粋なあなたという個が好きなのです。でも、気にしないで。私はあなたが好きだからこそ、貴方の選択を尊重したいです。そして、私は、貴方を最初に見たときから好きでした。その顔を見たときに、私は一目で、助けたいなと思った。あなたの目が悲しい顔をしてたから。そして、私はそれからあなたと楽しい日々を過ごして、結婚して、いろいろあったね、たったの五年だけど、楽しかったよね。最後に、天国でも、幸せに生きてください。さよなら、勇人君。天国でも元気で。愛してます!!!」


 そう書いて、私は勇人君に送った。死ぬ前に彼が見るだろう。

 返信は期待していない。

 しかし、これを見て笑顔で行けたならそれほど嬉しい事はないだろう。


「美晴!!」


私は元気に手を振った。


「葵! それが子供?」

「うん。可愛いでしょ?」

「お母さん、この人誰?」

「私の友達よ」


 今も、勇人君は死ぬために、買った空き家に行っている。

 練炭自殺をするためだ。


 勇人君の事は考えないようにしている。

 考えたら今すぐに止めに走りたくなってしまうのだから。


 だけど、美晴との会話、その間私は上の空になってしまっていた。


 私はもはや何をしているかわからない。話しているのに、きちんと話せていない。そのような感じだ。

 行動しているのに、頭は真っ白。

 もう、勇人君と喋れないのが辛いのだろうか。

 ああ、私的には死んでほしくなかったな。今はもう、そう深く思う。


 その時に、ニュースが流れた。


「ニュースです。元棋士の渡部勇人さん(31)の死亡が確認されました。自殺ではないかという見解が示されています。これから詳しい調査が行われるとみられています。では、急ですが渡部勇人特集を始めます」


 そうテレビのニュースで紹介された。これを聞いて、勇人君は死んでしまったんだなと、思った。

 これでもう、勇人君に会うことはできない。

 もう覚悟はしていたが、実際その局面を目の前にしてしまうと、悲しくなる。


「うぅ、うぅ」


 覚悟していたはずなのに、涙が出てくる。

 ああ、涙が止まらない。


「うわあああああ」


 愛ちゃんも目の前にいる。だから涙を止めなければならないという事を私は知っている。でも、涙が止まらない。


「美晴ごめん」


 そう言って、戸惑いを見せる愛ちゃんを美晴に預けて、私は別の部屋に行き思い切り泣いた。


「葵は知ってたんだね」

「うん」


 十分後、私は美晴を呼んだ。その頃にはもう愛ちゃんも眠りについていたようだ。


 私は、立ち上がり周りをうろうろと歩く。


「私は知っていながら彼を見捨ててしまったの。彼に、人生の楽しみを結局教えてあげられなかった。それが悔しいの」

「悔しいという想いの方がでかかったの?」

「うん。だって、私は負けたの。彼が背負う運命に」


 そう、私は彼の死ぬ運命を変えられなかった。彼の人生が幸せに終わるなんて言うことは無かったのだ。

 自殺という世間では否よりの賛否両論の死に方をしたのだ。

 これが負けたと言わないでどういうのだ。


「私は彼を幸せにしてあげたかったよ」


 そう言って泣いた。私は大泣きをした。

 そして、しばらく美晴の家にお邪魔になってから家に帰る。

 もう、勇人君のいない家に。

 そこには、警察がやってきてた。

 私は悲しい気持ちを押し殺して、質問に答えた。あくまでも自殺教唆などの罪に問われないようにして。


「私は今日、美晴……友達の家に行ったんですけど、そこのテレビで主人の死が報道されて驚きました。確かに前からその全長はありました。だけど、まさか本当に死んでしまうとは……という感じです」


 そしてある程度のことを説明した。そしてマスメディアに私のことを報道しないようにも言った。

 そして、当たり前の話だが、数日間警察の方にいろいろと聞かれ続け、疲れた。


 大丈夫だよ。子供を必死で育てて見せる。そして大人になったら、あの渡部勇人の娘だって、教えてあげるんだ。もう、私は大丈夫だよ。一人でも生きていけるから安心して。

 私は、私たちは大丈夫だ。


 それからあっという間にいつもの生活に戻った。幸いあれからも渡部勇人の自殺の原因に女の影アリとか、謎にYOUTUBEで言われたりしたくらいで、勇人君の妻が私だとは一切ばれてはいなかった。

 私の家に久しぶりに羽田さんが来た。

 そう、もはや私だけのものになってしまった家に。


 私は羽田さんに感情をぶちまけた。今まで悔しかった感情や、苦しかった感情など、全てを。


「そうか、葵さん、あなたは渡部君のためにいろいろと尽力したんだね」


 羽田さんにそう言われたとき、うれしい気持ちになった。でも、


「でも、私は彼を救えなかった」

「いいんだよ。それは彼の選択なんだから」


 あくまでも私が以前から思っていたことだ。だけど、不思議に少し心の溝が埋まった気がした。


「それより、もっとご飯は食べた方がいい。その華奢な体では、いつか栄養失調になるからな。悲しい時こそ食べろ」

「はい、分かりました」


 そして私は家で焼き肉をたくさん食べた。勇人君の遺影の前で。

 私が悲しんでいたり、苦しんでいたら、勇人君を心配させてしまう。そんなことさせるわけにいかない。

 そして私は、悲しさを押し殺して、今日も生きていく。




こんな作品を書いてると誤解されるかもしれませんが、私は別に肯定していません。

作中で出ている通り、周りの人を悲しませる行為なので

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