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天才棋士との結婚生活  作者: 有原優
結婚編

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第十五話 美晴のアドバイス

 


 ある日、美晴とカフェに行くことになった。勇人君を一人にするのは少し心配だったが、美晴の意見も聞いておきたい。

 このままでは心配だったのだ。勇人君をこのまま欝々しい気持ちのまま置いとくのは。


 それに、もう美晴の誘いを断るのはやめにしたいのだ。

 寂しい思いを指せたみたいだから。


「それで、あれからどうなの? 旦那さんとの関係は」


 早速席に着くと、美晴がそう訊いてきた。しかも興味津々に。

 なんだか、茶化されてるみたいで、少しいやだったが、これから勇人君の相談をするからタイミングはいい。


「うん……いい感じだよ。でも……」

「でも?」


 美晴は顔を近づけてくる。近い……。



「あの人は本当に将棋がしたくないみたい」

「……という事はこの前の病欠って……」


 流石は美晴。察しがいい。


「うん。そう言う事だよ」


 それを聞いた美晴は数秒黙り込んで、髪の毛を整える。

 思考を整理しているようだ。


「そんな噂は聞いてたけど、本当なんだね」


 私は「うん」と首を縦に振る。やっぱりうわさにはなっているのか。

 まあ、SNSではそこそこそんな噂を聞く。


「それで、私は彼に将棋を引退させたいの」


 私はそう言い切った。

 そう、彼は将棋をもう指したらいけない。

 本来好きなはずの将棋を苦しみながらなんて。

 もし、これから回復したとしても、それは一時的な物になると思う。今まで何度勇人君の体力が回復しているように見えたことがあったか。

 でも、それは本当に長続きはしなかった。

 実際に今は一番精神が落ち込んでいる今まで塁を見ないほどに。

 これでは、永遠に完全なる回復などしない、

 将棋を続けて、私たちが慰めて、精神が回復しようと、またこうなるという事は目に見えている。

 私は絶対にそんな彼に将棋を指せなんて鬼のようなことは言えない。


「うん、私もそれに賛成だよ」

「え?」


 反対されると思ってたから正直びっくりだ。

 だって、普通「恵まれてるくせに嫌なんて言ったらだめだよ:だとか、「それは人類の宝を失う事になる」とか、「もったいない:とか。「君だけの問題じゃない」とか言われるだろう。

 だから、勇人君は引退するなんて考えられないのだ。


「何を驚いてるの? そりゃあ、したくもないものをする方がおかしいでしょ。だいだい、今の世の中そう言うプロが簡単に引退できない環境がおかしいの。スポンサーなんてどうでもいいみたいなスタンスでいいじゃん」


 美晴の意見も尤もだ。サッカーのプロや野球のプロが怪我とか病気以外で一流の選手が引退するなんて聞かないのだもの。そう言う人たちの中にも、勇人君みたいに早く引退して別の生活をしたい人もいるのだろうか。


「私はそんな人生はかわいそうだと思う。一般企業でも辞めたいのにやめられない人っているじゃん。パワハラとかで。それと同じだと思うわ。一般企業と同じと考えたら辞める自由はあるはずなんだから」


 正論すぎる。将棋とか、そんなものだと思うからいけないのだろう。

 一般企業に話をすり替えればこんなに苦しむ必要もないって。


「それに、渡部八冠のせいで、将棋界が面白くなくなっているって言ってる人もいるんでしょ? だったら辞めたら批判も落ち着くでしょ」

「そうね」


 考えれば考えるほど、勇人君が遠慮する必要がないように思える。後はこれを勇人君に伝えれば。

 説得材料になりえるだろう。


「ありがとうね、今日は」

「じゃあ、お礼として」


 悪戯な笑顔を見せる美晴。


「今度はのろけ話を聞かせてよ」


 嫉妬してたんじゃないの⁉ と、思わず突っ込みそうになる気持ちを落ち着かせ、


「分かった」そう言うと、美晴は見るからに喜んだ。


 そんなに人のイチャイチャ話をし訊きたいの?

 需要とかあるのかな。


「えっとね、あれからずっとイチャイチャしてる」

「どんな?」


 そう言われドキッとする。

 あれから結構いちゃいちゃというのも、レベルが上がってしまっているのだ。


「キスしたり、ハグしたり」

「その先は? 押し倒したり押し倒されたりとか」


 ちょっ、この子は何を言ってるの?



「簡略的に言えば、エッチなこと」

 確かに結婚してるからそう言う行為をする場合もある。だけど、


「落ち着いてよ。まだよ!」


 少し大きめの声で言う。すると、周りの人達からじろっと見られた。

 恥ずかしい。大きな声を出し過ぎた。


「とりあえず、ちゃんと場をわきまえた話にしよっか」


 そう、美晴に低い声で言った。さすがにそう言う話に対する免疫なんてないし、ここはカフェなのだからそう言う話をする場でもない。

 周りに聞かれたら恥ずかしいだけだ。てか、恥ずかしかった。


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