最期の年
みんなは年越しに何をするだろうか。蕎麦を食べるのか。それともいつものように寝るだろうか。もしくは知り合い、友達にあけおめメールをおくるのか。
さまざまな人がいるだろう。
私の家では、親戚一同集まって紅白歌合戦を観るのが常例だ。
その集まりで一際人気なのが愛犬のムクだった。この家に来てから十年になる。
親戚に可愛がられるのをみると、私も触りたくなる。
ムクに「こっちにおいでー」と、声をかける。
ばあちゃんがムクを抱っこしてこちらに来る。もう年なため、歩けずこうしてばあちゃんにいつも抱っこしてもらっていた。
「病気の方は大丈夫なんですか?」
その様子を見て心配したが、見栄を張るように言った。
「大丈夫さ。この子はまだ生きる。」
ばあちゃんは自分に言い聞かせているようにも見えた。
ムクは今、延命治療を受けており、動かなくなってもおかしくなかった。ばあちゃんが数十万を注ぎ込んで病院に行く姿には私も母も愛情を感じた。
ムクを見る。まだ幼い頃の面影は残っており、小型犬であるせいか、あまり大きさに変化がないように感じられた。
「もうカウントダウンが始まった!」
従兄弟が目と眉毛を広げて、急かすそうな声色で一同はテレビに目を向けた。
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年を越す直前は緊張感で、皆黙っていたが、迎えたときは口を揃えて「明けましておめでとう」と、言葉をもらす。
その後に、友達からのあけおめメールが届き、それを返していく。
おせちやら、お酒を片付けている親戚を横目に、最年少の私はコタツでぬくぬくしていた。
ふと、いつもならお構いなしに鳴いているムクの声が聞こえないのを気がかりに思った。
その姿を見つけ、ムクの体を揺するが反応がない。
嫌なものが脳裏に過ぎるが、それをふりほどく。
ふと、お腹の方に目をやって、手をのせる。
動かなかった。息をしていなかった。
意識が後ろに引っ張られる感覚がした。
「ばあちゃん!ムクが息してない」
自分でもビックリするほど冷静だった。「ばあちゃんに知らせないと」という心持ちでいっぱいだった。
親戚中がこちらに寄ってくる。母は、気を使ったのか、
「私たちでなんとかしとくから、あんたは寝室に戻りなさい」
寝室へ促す声に従って、私は暗闇の廊下を歩いた。
翌朝、ばあちゃんはムクであったものと一緒に寝たらしい。
周りはばあちゃんを憐れんでか、ムクについてはあまり触れなかった。
明日には葬式があるのだとか。
また、幸せなふたりが見れるのを願う。
明けましておめでとうございます