表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
人外の狂涛  作者: 江華
9/15

スライムのような人外

「、ォ…ア…」 ゴポッ…ヌッチ…


空気の抜ける音や水特性の小さな音を立ててそいつは私たちに手を伸ばしながら鈍い動きで近寄ってくる。

ローガンも何かに引っ張られるように触りまではしないが、重要管理区域の中に入った。


「な、なあ、下がれって、おい…」


アダムズはさっきからビビり散らしている。いや、先程から何か困惑したような風だった。空に帰ってこない問いかけを投げてはハンマーで殴った男より酷い顔をしていた。

構えていたはずの拳銃はすでに下げられていた。


「、ィ、ァ…ィゲェ、テェ」


いつの間にか黒色のこのスライムがローガンの足に縋り付いている。そして左右不対称についている目から涙を流していた。


「…ォ–ァ、ン」


静かに何かが壊れていく予感がした。瞬間、これまでに感じた事のない怒りと吐き気を催した。


「おい、あ、あまりそいつに近付くな。その奥の部屋にはお前みたいな奴よりも凶悪で管理が難しい奴が入るところだ。そいつが何をしでかすか分かったもんじゃない。そもそも何で牢屋にいないんだ…」

「…お前ら…。人外を何だと思ってる…」

「…は?急に何言ってんだ?」


スライム…エオローを優しく持ち上げる。こいつはまだ泣いていた。


「人外をお前ら人間だけのためにこんな好き勝手していいと思っているのか!!」

「だから何を言い出してるんだ!」


下げられていた銃が再び構えられる。そして今度こそローガンに向かって2、3発発射された。距離は2m。

だが、避けるどころかローガンはアダムズに近付いて行った。驚くアダムズ。弾丸は人瞬きする一瞬でどこかに消えてしまった。


「...へっ!?」

「外道が!こいつは間違いなくエオローだ。お前ら...こいつに一体何をしたんだ...」


ローガンの方を見るが開けた口を閉じるだけで脱走した人外諸共無傷で立っていた。確実に当たるはずだった弾の行方が分からなくなった。アダムズは明らかに混乱していた。

そんな様子が見てとれたが構わずローガンはアダムズに近付いた。ローガンはただただ目の前の人間をひたすらにぐちゃぐちゃにしようとしか考えられなかった。


「ァア、メェエ…ォァン」


何を感じ取ったのか、ローガンの抱えている人外が腕を伸ばしローガンの頬に触れた。


「!」


気を取られるローガン。微かに隙ができた。アダムズは追い詰められはしたがそれでもこの時を見逃さず、素早く距離をとった。


「待てっ!君が言うその人外が本当に友人な筈が無いんだ!」


銃を構えながら訴えた。


「なに...?」


ローガンの動きが止まった。腕に抱いている人外はずっとローガンを見上げている。


「重要管理区域の人外はさっきも言ったように凶暴で管理しにくい人外が居る場所だ。私達の中でも入れる人は限られる。それでもそこに入る人外の情報は上下関係なく全員に通達が行く。」

「...」


ローガンは静かに聞いている。だが絶対に目は離さず、殺気を感じる目つきで、かきたくもない冷や汗をアダムズはずっとかいている。


「だが...君の友人の様な人外が収容されてる事は知らされていないんだ。だから、きっとお互いに何か誤解が...」


アダムズは話しながら必死にこの場の打開策を考えていた。

ローガンは既に人間界から簡単に出られない程の罪を犯し続けている。しかも、本人の勘違いで。勿体無いと同情してしまうほど、人生を棒に振ってしまっている。銃に太刀打ちできてしまうとはいえ、立場的には圧倒的な差がある。今それを利用し、何とかローガンを落ち着かせようとした。


「エオローは...」


ローガンが口を開く。

いつ襲ってきてもおかしくないとローガンを脅威と感じてしまうが、まだお互いに会話を交わす事ができるのだとアダムズは希望を持った。


「エオローは元からこんな体だった訳じゃない。私と似たような黒い肌に顔には大きな牙と口しか持っていない人外のはずだった。そして、エオローを見た留置所の人間はエオローは必死に無罪を訴えていたと言っていた。私の言いたい事が分かるか?人間界行ってから3日間、人間がエオローをこんな目に遭わせたんだ。これは決定的なんだ」


この時、アダムズの全身から鳥肌が湧きだった。アダムズは最初ローガンの人外姿を見た時、顔のどこを見ればいいか分からなかった。だが今、ローガンには目が無いのに目が合っている様な感覚に陥った。アダムズは、ローガンのその大きな口から目が離せずにいる。顔を背けたくても背けてはいけない恐怖感に包まれる。動いたら殺される。逆に今逃げないと殺される。銃を持っている両手が無意識に震えた。


「じゃ、じゃあ、友人は最初っから...いや、そんなはずは...こんな事は国自身でさえも許されない罪だ」


本当の勘違いは自分だったのかと言い表せない無数の感情が渦となってアダムズは困惑した。

その時、重要管理区域の奥から足音が響いてきた。暗くてよく見えはしなかったが足音の正体はすぐに現した。


「さっきから騒がしいぞ!誰だ!管轄外の者じゃないだろうな!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ