扉の奥
「お前!そこから動くな!」
後ろから声がした。振り向くと拳銃を構えたまま走ってくるアダムズがいた。
すぐさま逃げようと重要管理区域が先にあるという重苦しそうな扉に手をかけた。だが、いくら力を込めようとも開く事ができない。すると強烈な爆発音と何かが頬のすぐ横を通過して行った。
「何をしているんだ!動くなと言ったはずだぞ!いいか!?これは警告だ!仲間も呼んだ!すぐに包囲される!」
頬を掠めて行った銃弾は開けようとした扉に当たり、少しの凹みを生んで地面に転がっていた。
追っ手がすぐそこまで来ている。もう本当に逃げられそうにない。
私は最後のあがきに扉に向かって叫んだ。
「エオロー!私の声は分かるだろ!?ローガンだ!聞こえていたら返事をしてくれ!ほんとに居ないのか!ここまで迎えに来たんだぞ!返事をしろ!エオロー!おい!エオロー!」
何度も扉を叩き、呼びかける。
「お前!何をしている!」
真後ろから声がする。銃の撃鉄を起こす小さな音がはっきりと聞こえる。
もうここにエオローは居ないのかと諦めかけた時。
「...、...」
「もう逃がさないぞ!後ろで先程お前と一緒に居た私の仲間が倒れていたが何をした!!?」
今、何か聞こえた。気がした。アダムズの方を見てみるが聞こえていないようだった。今度は扉に耳をくっつけて聞いてみる。
「...ー、ア...ン、...テェ...ッ」
微かだが確かに聞こえた。私の声に反応したものだろうか。この扉の先は得体がしれない。何があるというんだろう。
「ゆっくりこっちを見ろ。ただで済むと思うなよ」
もうここらが潮時か。私は言われた通りゆっくりとアダムズを見た。アダムズは怒った顔をしていたが次第に...何だか、視線を私から外し青ざめた顔をしていた。丁度、ハンマーで殴った男の顔と同じくらいだった。
「お、おま、後ろの...」
訳が分からなかったが後ろと、言うので振り返ってみた。
「...え?」
パッと見何も無いが、足の付け根辺りに何かが当たっている感触がした。視点を下に見てみると、鍵穴から細長くて小さい黒い手が伸び出ていた。
「ッ!?」
一瞬後ろに下がるが手が出ている鍵穴から声が聞こえた。
「オ...、アン、タアウ、テテッ...」
次ははっきりと聞こえた。
「おい...今、声...」
アダムズも聞こえたようだ。試しに近ずいてみる。
「あ、おい...!」
アダムズの制止は無視し、手を触ってみた。酷く小さい。産まれたばかりの子供くらいの大きさだ。温度が無い。触れた手は私の人差し指を握った。
「...エオローかい?」
「オォ、...ン」
黒い腕はまだゆっくり動いており、そのうち鍵穴から金属の合わさる音が聞こえた。
何の音だ?
「おい...下がれ...」
変わらず、顔を青ざめながら銃を構えている。
「下がる?なぜ?きっとエオローだ」
なぜも何も無かった。アダムズは私を捕まえようとしているんだった。
「その奥は私も何があるか分からない。だからこそ、そこから離れろ」
何を言っているのか分からなかった。言い方的に私を心配しているかのような口ぶりだ。
「何をしている。早くそこから離れろと言っているんだ!今の音はその扉の鍵が開く音なんだぞ!」
ゆっくりと耳につく嫌な軋みを出して扉が開く。私は今だ離れることはせず、すぐそばで見守っている。
扉が半開きになった時、この黒い手の正体が分かった。そして分からなくなった。それはエオローではなかった。唯一共通している部分と言えば全身が黒い事だけ。それ以外は目があれば体は小さくネチャネチャしたようなスライムのような体質、人の体をしていなかった。