廊下の端
「...は?いないってどういう...」
扉が外側から開かれる。するとさっき顔を覗かせたアダムズというやつと同じ制服を着た男が入ってきた。そいつは私の手錠を遠慮なく強く引っ張りだした。
「大人しくしてね。今から部屋に連れていくから」
アダムズは先程から質問する度こまめに記していた紙を凝視している。私はこの引っ張る力に抵抗しながらアダムズに噛み付くようにエオローの所在を問うたが、1ミリもその顔を紙から上げることは無かった。依然強い力が手錠にかかり半ば私は引きずられるようにして部屋から出た。
「えーと、君の部屋は...」
部屋の外は変わらず薄いシミや凹みがある何の変哲もない白い廊下があるだけだった。今度はアダムズと来た逆の道を連れられる。次第にただの廊下は牢屋が両サイドに隣接する廊下へ変わっていった。様々な人外が囚われている。
私は消化しきれない気持ちで悶々としていた。
だって、エオローがここに居ないはずが無いのだ。人外である私がこの人外専門の施設に居るように、同じく人外であるエオローがここに居なくてどこに居ると言うのだろうか。
人外とバレずに人間用の施設に行った?あいつは人間が、ここの世界が好きで何度もあの長い道のりを歩いて遊びに行った。そんな奴が人間に危害を加えるはずが無い。あったとしてもそれは人外とバレた時。だからここに居ないはずが無い。
意を決し、足を止めた。男も止まる。
「何をしている!大人しく前へ進め!」
男は私の後ろにある両手を縛るように握っており、私を押しながら廊下を進んでいる。進めなくなった男は強い力で私を押す。
私は念の為と家から持って来たゴムハンマーを口から出した。
「なっ、何をしてるんだっ!」
途中まで吐き出したハンマーの柄を口で噛み挟んだ。異様な光景が目に入った様な男は振り返ると青ざめた顔をしていた。その振り返った拍子にハンマーが男の顎に命中する。
「がッ?!」
男は悲鳴めいた声を上げ、倒れた。ハンマーが口から落ちる。
私は即座に後ろに拘束された腕を前に回し、男の持ち物を探った。手錠の鍵が欲しかった。しかし、いくら探してもあるのは牢屋の私が今夜寝泊まりする部屋の鍵しか見つからなかった。
仕方なくその不自由なまま走り出す。あてなんて無いが、どこかの牢屋にエオローが居ないか探した。だが、どれだけ走ってもその姿欠片も見当たらず、とうとう端に着いてしまった。一時は落胆したがその端には扉が付いており、重要管理区域と記してあった。