取り調べ
エレベーターから降りると1人、警官とは違う格好をした男性が立っていた。
「1課の方たちですよね。収容対象の人外を受け取ります」
「では、任せた」
エレベーターから出るとすぐに扉が閉まって上の階へと上がっていった。
「着いてこい。貴様には聞きたい事が沢山ある。簡単にここから出れると思うなよ」
雰囲気がさっきまで一緒にいた警官たちとは違う。格好も少し違うようだ。警官には鷹の入った紋章をつけているが、こいつは一本の道から三本に分かれたよく分からないマークをつけている。きっと、警察とは別物と思った方がいいのかもしれない。
面白みもないシンプルな白い廊下を歩き出す。それに着いて行った。
「路地裏で男性1人に暴力を振るった。当時は変装を解いており、素の姿で周囲の人たちを混乱させた」
男性が立ち止まる。前には部屋があり、扉が開かれる。中は机が部屋の真ん中に1つ、椅子が机を挟むように手前と奥に1つずつあるだけの簡素なものだった。
「入れ。あった事全て話してもらうぞ」
座れと促されたので奥の椅子に腰掛ける。続いて男も座る。ここはいわゆる取り調べ室という所だろうか。
「君、名前は?」
「ローガンです」
「フルネームで?」
「はい」
男は紙に1つ1つメモしながら質問を続けた。
「それじゃあ、殴った男性と何があったか、きっちりその口から話してもらうぞ」
それからうんざりするほどの質問攻めをくらい、何の誤解もないよう慎重に答えた。
「ただでさえ中身人外なのに何も素顔を見せなくったって…」
男が大きなため息をついた。
「それはわざとじゃなくて、うっかり…」
本当に何も意識していなかった。なんせ人間に変身するなど初めての体験だ。こうもあっさりバレるとは思わないだろう。
「う~ん、せっかく天然記念物としてあるんだからもう少し謹んで…」
今、分かりやすく自分が混乱したのが分かった。聞き間違いかと疑った。
…なんて言った?
「天然、記念物、?」
「知らない?人外が天然記念物登録されてるの」
「いえ…何で…」
「何でって、国がそう決めたんだから。保護する価値があるって」
「は…?」
説明されても訳がわからない。同じ言語のはずなのに理解ができない。私の頭がおかしいのだろうか。エオローは知っていたんだろうか。
「でもまあ、たまにいるんだよね。人に危害を加えるとか、問題起こす人外って」
男はまたため息をついた。
「全く、天然記念物って気高いものなんだよ?そんなものをもらっておきながら…」
耳に直接ブチッと何かが切れるような音が聞こえた。理解すまもなく、視野が狭くなって気づけば立ち上がって男に怒鳴っていた。
そんなもの欲しくてもらったわけじゃない。何故何もしていないというエオローを連れて行った。何が天然記念物だ。上から目線で、人外はものじゃない。
言いたかった事を全て言うと、部屋の唯一の扉が開いた。男が顔を覗かせている。
「あ、アダムズ…」
不安そうな顔をしている。アダムズとはずっと話していた男の名前だろうか。
「心配ない。大丈夫だから」
アダムズが制止する。すると、男は引っ込んでいった。ローガンの声が外まで聞こえていたということか。アダムズがまたローガンを見据えた。
「ローガンだっけ?ちょっと落ち着け。今日はもういいから。明日また話を聞く。今日はここに泊まっていけ」
ポタッと音が聞こえた。音がする方を見ると机の上に見覚えのある肌色の液が付いていた。顔を触るとまたせっかくつけた塗装が崩れていた。
「あと、」
アダムズが続ける。素顔が見えても思う事は何も無いらしい。
「エオローだっけ?君の友達?探してるの?」
「はい…」
「君はここに友達がいると思っているみたいだけどいないよ、ここには」