事実と迷い
「!?」
その場の全員が驚き、犯人は誰かと周りを見渡し自分の身の潔白を表そうというのか徐々に構えられた銃がざわめきが広がると共に下がっていった。
ローガン自身、さっきまで無遠慮に殺そうとしていたにも関わらず目を見張った。
ドチャッ、という音と共に死体になった上官は壁とローガンの服に赤いシミを床には赤い水溜まりを、血なまぐさい空気が作られた。
誰もが口をつぐんだ。
その時、ローガンが口を開けた。数名がそれを見たがそれは呆けた様にしか見えなかったのだろう。
「ぇっ...」
ローガンをその目に映したアダムズは闇に包まれていった。
次第に開かれるその口に最も近くにいたエオロー・上官の死体・アダムズが吸い込まれていく。
もう既に一杯一杯な刑務官達は冷や汗が止まらないようだ。
ローガンはまだ口を開けている。
「うっ、」
刑務官の中の誰かが言った。恐怖しているのか何が言いたいのか分からない。それでも同じ刑務官には伝わったらしくどれもハッとしたような顔立ちで次々銃を構え出した。
銃口がローガンに向き、やっと自体を把握した時、ここからの脱出を断決した。
すぐさま体ごと壁に向き変える。この人外の行動は意味不明だった為、刑務官は戸惑った。
(降参の表しだろうか)
、と。
しかし既に多くの罪をここで犯した。今更何をしようとここで射殺する他無い。ここで今、死ぬ事は決定事項なのだ。
「ぅっ...撃てえぇーーー!!」
ただのコンクリートの壁に弾丸が食い込み穴が空いていく。煙だか土埃だかが舞い上がり少しの視界を遮った時、さっきまでローガンが立っていた壁が1m程の穴が空いていた。さらにここは地下であり、空いた穴は真っ暗な空洞としてそこに存在していた。
刑務官は手段はともかく即座に脱走したのだと理解した。ローガンを捕まえるため、銃を構えていた者たちは中に入って追おうとする者、穴の口から再び発砲しようとする者。各々居たがまず、脱走者報告を全体に伝える事。暗闇の中でも進む事ができる装備を整え、穴に入る班と地上から地面似たような怪しい空洞を探す班での行動を振り分けた。
ここからが早く、刑務所全体に先程アダムズが呼んだサイレンが鳴りアナウンスも追加された。
「逃亡者の報告有り!逃亡者の報告有り!1、2階近辺の刑務官は直ちに1階へ!」
放送を背中から聞きながらローガンは暗い穴を進んでは止まってを繰り返していた。止まる度に土を食うかのごとくえぐってえぐって空間を作り這いつくばって進んでいる。
垂直に進んでいたがやがて傾斜になり、地上へ顔を出した。
外は刑務所の敷地外であったが後ろを振り返ればまだ人が右往左往している様が見てとれた。
ローガンは安堵すると共にアダムズに撃たれた傷が痛みだし、本当の危機はこれからだとより気を引き締めた。1度、家に隠れようかと思ったが既に道は封鎖手配がされている予感がし、まだ人の世界に身を置く事を選んだ。逃亡先は考えあぐねていた。
まず、この右足 ・ 左腕の怪我を何とかしなくてはと口から上官の死体を出した。その死体の衣類を一部破り取り、それそれの患部に巻き付けた。顔も人間よりにし、とにかく刑務所から離れられるよう振り撒くために街に向かって歩き出した。
街に着いた時、昼間いた時とは雰囲気ががらりと変わっていた。多くの警官らしい人がそこらじゅうをうろついている。
人目を避け、次第に建物に囲まれ影がより濃い人が寄り付かなそうな場所に辿り着いた。
ローガンは息が荒く、その場に座り込んでしまった。
そして、エオローとアダムズを口の中から解放した。
それぞれ寝そべって出てくる。
「うわああぁぁぁぁぁぁ!!!!」
うつ伏せだったアダムズが叫んだ。ローガンが右足でアダムズを蹴る。
我に返ったアダムズは辺りを見渡し、明らかに弱っていたローガンに質問の雨を降らせた。しかしローガンは質問に答えることも無くもはや目すら合わせない。
アダムズはため息をつき、酷い夢を見たと呟きながらローガンの視線の先を見た。
そこにはエオローがここに居ないかのように静かに伏していた。
「...エオロー........?」
ローガンは恐る恐る話しかけた。返事は帰ってこずその時、脳裏に上官の死体様子がよぎった。
慌てて駆け寄るローガンにアダムズは絶句して見ていた。
この姿になってしまったエオローは体温が元から無くどっちか分からなかったが呼吸が止まっていた。
エオローを抱き、静かに泣くローガン。
「力尽きたんだ...」
アダムズは呟くように言った。
それはたとえ誰かが何も言わなくても周知の事実だった。当たり前が当たり前であるがためにローガンは着実と認めたくないこの真実を受け止める他無い。
ローガンは静かに泣く。追っ手にこの声が聞こえないように。しょうが無いと言えてしまう大声を上げたアダムズを既に蹴ってしまったため、自分が声を上げて泣く事は無い。代わりにエオローを抱く手に力が込められ、時折声が漏れ、それすら止めようと全身に力が入り応急処置で巻いた布に血が滲み出た。
アダムズはただ立って見ていた。その目にはローガンに銃を突きつけた時と時と似たような感情が湧いた。




