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纏物語  作者: つばき春花
第参章 月姫と月読尊
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其之玖拾漆話 地獄の掛り稽古 神一縷編

真夜中の神武館道場……一見真っ暗闇の道内。しかし今この中では、常人には見えない掛かり稽古が繰り広げられていた。


『ガギッゴギッィィィィィン!!』


黄金色こんじきいろの纏を纏い、槌の様な大太刀を振り回す一縷。その凄まじい力に、舞は太刀を受け流しながらも後退りを強いられた。


「どうよっお母さん! 私も纏を随分使いこなせるようになってきたでしょっ?!」


「ふんっ……」


一縷のその言葉をワザと視線をずらし鼻で笑う舞。それに『カチンッ』ときた一縷は……


「こらぁぁぁぁっ! お母さん、今鼻で笑ったなぁぁぁ!! もう絶対本気で行くからねっ!! たぁぁぁぁっりょく! 纏!!」


舞に走り突っ込みながら拍を打つと纏の形が忍び装束のように変わり手に持つ獲物は、鎖鎌の様な刀と鞭が合わさった特殊な物に変化した。そして刀を振りかざし斬り込むと、一縷の身体が舞の目前で四人に分身した!


「どうだぁぁぁ躱せないでしょ!! お母さん敗れたりぃぃぃ!!」


しかし!


「貧弱です……一縷……」


何の前触れもなく、舞の身体が四人に分身し、一縷の剣をすべて弾き返した。それどころかいつの間にかに一縷の背後を取り、剣を振りかざしていた。


「火……焔舞……」


『ババァァァァン!! ボワッボォォォン!!』


剣を振り抜くと同時に一縷の目前で暴爆したと同時に激しく火柱が立ち昇った。間一髪、その太刀を躱した一縷、しかし剣から繰り出された炎を躱す事が出来ず、体が激しい火焔に包まれた。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、熱ちぃ! 熱いぃぃぃぃぃ!! はく纏!」


皚珠の珠は、回復の珠。一縷の身体の内から純白の火が燃え上がり真っ赤な火焔を一瞬で消し飛ばした。


「はぁはぁはぁはぁぁぁ………………もぉぉぉぉぉっお母さん!!! 私、完全んんんんにおこだからっ!! おこだからねっ!!」


そう叫ぶと大きく手を広げ拍を打った!


せき纏!」


一縷の身体が緋焔に包まれ真っ赤に燃え盛る、そして腰の銅剣を抜くとそれが火焔の剱となって辺りを真っ赤に染める。


(こりゃ一縷! 舞も火焔を纏っているのだぞっ!)


(お前の力で同じ火焔に太刀打ちできる訳なかろぅ!)


「そんなのやってみなけりゃ分かんないじゃない?! たぁぁぁぁぁぁッ!!」


『ガキィィィン! ギギギッ……ギリギリギリッ……」


舞の持つ火焔の剱と激しく鍔迫り合いをする一縷。母の剣も大した事はない……そう考えた時……


「一縷……貧弱ですよ……」


一縷の剣は、軽々と高く跳ね上げられ胴が無防備になった。そこへ舞(嫗めぐみ)必殺、お決まりの……


『ドゴゴッッ!!』


膝蹴りが一縷の鳩尾に綺麗に決まる。


『ぐえっ!!!』


一縷の身体が九の字に折れ曲がる。


「よいしょっと……」


『ドガッ!!』


「きゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


『バキバキバキッッ!! ドガッ……』


左足を軸にしてくるっと回る舞、これもまたお決まりの強烈な回し蹴りが脇腹に入る。一縷の身体は、軽々と道場の外に放り出され大きな樫の木に激突して止まった。


(ちょっと……未熟な舞の身体では動きが少し鈍くなるわ……)


「かはっ!……げほっ!…………痛ぁぁぁぁぁぁい……げほっ……」


咽る一縷へ向かって舞が静かに歩み寄り言い放つ。


「どうしたの一縷? もう降参なの?」


「くっ! まだまだぁぁぁ!! たぁぁ!!」


斬りかかる一縷の剣を素早く躱し、夜空高く飛びあがる舞。それにいち早く反応し追いかけ、飛び上がる一縷。飛び去ろうとする舞を必死に追いかける。


「源三郎! 力を貸して! せい纏!」


一縷は、剱を鞘に納め素早く拍を打ち源三郎の力を纏った。


「お母さんの……足を止めるっ! 水飛燕!!」


そう唱えると両手の平から水の塊を作り出し、舞に向かって複数投げつけた。するとその水塊が鳥の形になり一気に加速して舞目掛けて突進していく。しかし舞は、それを難なく剱と蹴りで打ち砕いた。


「よぉぉし! お母さんの足を止めた! これでもくらえっ!!」


『パンッ!!』


そう言って拍を打つと一縷の後ろに水柱が二本湧き立ち、それが巨大な二匹の水龍と化した。舞を睨む二匹の巨大な水龍。一縷はにやりと笑い、舞に向かって一丁前にの賜った。


「ふんっ、お母さん!! 怪我をさせてしまったらごめんなさい! 龍極舞、其之一!!」


『グギャォォォォォッ!!』


二匹の水龍が雄たけびを上げながら大口を開け、舞に向かって突進して行く! 


その術に舞は、慌てる事なく素早く火焔の剱を神楽鈴に変え、一瞬で氷の纏を纏った、そして……


『シャン……シャシャン……』と神楽鈴を振りながら舞い踊ると、舞が放つ冷気によって向かって来る水龍が一瞬で凍りつき『ガッシャァァァァァァン!』と薄い硝子の様に割れ散った。


そして舞は、そのまま神楽鈴を頭上に翳し舞い踊りながら言の葉を唱え始める。すると次第に冷たい風が舞の頭上に集まって渦をなし、その風の渦は、見る見る巨大になり、轟音響く竜巻へと成長していく。しかもその渦の中には無数の氷塊が紛れていた。


「一縷……おこの貴方にお返しですよ……裂氷風……竜の舞」


『シャンシャシャン!!』


『ゴゴゴゴゴゴッ! グガァァァァァオォォォォォ!!!!』


舞が神楽鈴を振り鳴らすと竜巻が大竜の姿に変わり一縷を睨む。


「一縷……お覚悟……」


舞が冷たい眼差しで呟く。


「う……うそでしょ……?」


呆然と立ち竦み、その巨大な竜を見上げる一縷。


冷淡な眼差しのまま、神楽鈴を『シャンッ!』と打ち鳴らしながら一縷へ指し示す。ここで源三郎が一縷に忠告する。


(一縷! あれに食われるなっ! 舞美はこれで本当に死にかけたんじゃ!)


(千里は……舞は、本気でお主を殺す気で来るぞっ!!)


「えぇぇぇっ?! 早く言ってよっつーか、もう遅いんじゃない?!」


 大竜は、疾風のごとく一縷に襲い掛かり『バクッ』と一口で飲み込んだ! 竜の中は風の大渦。しかもその風は、体を引き千切られるような極冷の風、さらに無数の尖った氷塊が一縷の体を容赦なく痛めつける。


「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ! 痛ぁぁぁぁぁぁいっ!! 寒ぅぅぅぅぅぅいぃぃぃ!!」


舞は、続けて容赦なく、雷神の纏を纏い、剱を大きく振りかぶり、唱え斬る。


しんの……鉄槌……」


『ババババァァァァァン!!! ドオォォォォン!!!』


轟音とともに天空から巨大な……鎚の様な雷塊が大竜を直撃する! その衝撃は凄まじく巨大で激しく渦巻く風の塊に雷撃が交わった次の瞬間、轟音と共に大竜巻を一瞬で消し飛ばした!


全てが終わり辺りに静寂な時が流れる。渦中にあった大量の氷塊が一瞬で蒸発したせいか広い範囲で霧のようなものに包まれ、視界が遮られる。


「一縷……このくらいでやられてしまう様であれば……」


そう舞が呟く、すると靄の中にうっすらと見えて来る櫻色に輝く塊、よく見るとそれは、桜の花びらの塊だった。一縷は、櫻嘩の纏を纏う時に出る桜吹雪を体の周りに集め、それを自身の身体に纏い、身を切るような冷風と氷の塊から身を守り雷撃をも無効化していたのだった。


「ぷっはぁぁぁ!」


そう叫びながら花びらの塊を解き放ち、勢いよく一縷が姿を現した。さすがに舞の強烈な雷の威力をすべて無効化する事はできなかったらしくフラフラだった。そして舞を指さし怒った口調で怒鳴りつけた。


「もう! お母さん酷いぃぃ! 本当にっ本当に死ぬかと思ったんだからぁぁぁ!」


(ふふっ……ちょっとやりすぎたかなって思ったけど……あの術から……無傷で逃れる事ができるなんて……やっぱりこの子……舞美と同じ、計り知れない……才を内に秘めている……)


古の神守の娘、嫗千里乃守。幾多の妖者を祓い悪しき者から日ノ本を守ってきた神守の一人。厳しく容赦ない掛り稽古は、蛇鬼を祓った東城舞美、そして鬼姫、青井優も通ってきた道、地獄のような掛り稽古だった。しかし手加減のない……この厳しさがあったからこそ、二人は、妖者との厳しい戦いを乗り越え祓う事が出来た。一縷もこれから近い時に、想像を絶する妖者との戦いが待っている。しかしこの地獄の掛り稽古がきっと悪しき者……妖者を祓う力となって日ノ本を救ってくれるだろう。



つづく……

誤字脱字意味違い変字の途中訂正、御免……


次回予告……其之玖拾㭭話 真真まことまことし月下の刀 一之章


ご期待ください……

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