其之玖拾伍話 五珠の御魂 三之話
前回までの『纏物語』は……
「一縷よ……清き力……東城の血を受け継ぐ者よ……若き其方に五珠の力を授けよう」
「我等五珠の御魂は、お前の剣となり、盾となり、そして……お前の正義の力となろう」
【櫻嘩の纏】
そう言うと五人の身体が輝きだし、光の泡となって天に昇り行き、そこで一塊となったと同時に花火の様に弾けた。弾けた光は五色の粒に分かれ、それぞれの粒同士が集まり五つの珠を作った。其れが繋って五珠となり、一縷の手元へゆらゆらとゆっくり、舞い降りてきた。
一縷は、目の前に浮かぶ五珠を見つめ、そしてその視線を舞の方へ向けた。
舞は、小さく頷き……
「受け取りなさい……一縷」
と言葉を掛けた。
一縷は、言われた通りそれを手に取ると、左腕に通した。
「これが……五珠? とっても綺麗……」
五珠……其れは赤、青、黄、緑、白の水晶の様に透き通った光輝く珠の事。この珠に五人が持つ個々の属性の源が宿っている。
その使命を受け、緊張した面持ちの一縷に向かって舞が話を始めた。
「一縷『纏』とは、妖者……即ち、悪しき者を祓う清き力の事……それを纏う為には、まず神氣の息を身に付けなければいけません。神氣の息とは……」
舞が神氣の息の意味を説明しようとすると……
「お母さん! 神氣の息ってひょとしてこれの事?」
そう言うと、目を瞑り静かに息を整え始めた。
「すうぅぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁぁ……すぅすぅ……はぁぁぁぁぁぁ……」
舞とオジイ達には、一縷の身体から溢れ出る清い氣が見えていた。
(こりゃぁ凄い、神氣の息が完璧に行われておる)
(舞美でさえこれを完璧に習得するのに、随分と手こずったのになぁ……)
驚愕するオジイ達。舞は、その一縷に向かって問いかけた。
「一縷……貴方……いそれをつの間に神氣の息が出来るようになったの?」
「この指輪を着けるようになった時からだよ。指輪を着けると何故か息が苦しくなるんだ。でもどうしても指輪を見せたくて我慢してたんだけどある時、深呼吸してたらすぅぅって楽になって! そしたらこの刀も使えるようになったんだ!」
「おぉぉ! 其の短刀は、平野藤四郎! 久しぶりに見たぞっ!」
「おじいちゃん、この刀を知ってるの?」
「ああっ! 知ってるとも、武蔵坊弁慶が持っていた由緒正しい刀だ! なぁ千里乃守も覚えておろう、あの豪傑、武蔵坊弁慶をっ!」
彦一郎が舞に問いかけると……
「え……え……えっ……ええぇぇ……薄っすらと覚えております、彦様……」
舞は俯き、顔を赤らめ、場が悪そうに答えた(彦一郎に黙っていたが嫗千里乃守は生前、武蔵坊弁慶から求婚されていた時期があった。
「一縷、五珠の御魂を受けた今ならば櫻嘩の纏が纏えるかもしれない、試してごらんなさい(舞美……一縷に……貴方の力を与えてあげて……)」
「櫻嘩の纏……はいっお母さん!」
一縷は、そう返事を返すと目を瞑り静かに呼吸を整えた、そして大きく手を広げ胸の上で拍を打った。
『パンッ!』
そして唱える!
「櫻……纏っ!」
一縷の足元が円形に輝き『ぶわっ』っと桜の花弁が渦を巻きながら沸き上がり、一縷の身体を一気に包み込んだ。と同時にその中桜吹雪の中から幻影の様に、何者かが姿を見せ始めた。その人物とは……髪の長い学生服、セーラー服姿の女の子……その女の子が、後ろを振り返り微笑みながらゆっくり一礼をした。
(おぉぉ……舞美……)
(舞美?! 舞美じゃ!)
(舞美!)
(これは……舞美……)
(舞美ぃぃ!!)
五人のオジイ達が舞美の名を叫ぶ。
「この人が……この人が東城……舞美……さん?」
舞美の幻影は、一縷に向かって微笑みながらじっと瞳を見つめ、ゆっくりと頷いた。そして舞は、涙を滲ませながら震える声で言葉を掛けた。
「舞美……ありがとう……」
舞のその呟きに、舞美の幻影は微笑みながらゆっくり頷き、空を見上げると昇り行きながら次第に消えていった。
そして桜吹雪の中から現れた一縷の姿……それは真っ白い白衣に袴、そして櫻嘩柄の千早を纏いその腰には、平野藤四郎を差す。不思議な事に袴には、まるで本物の様に桜の花弁が舞い散っていた。
「きゃぁぁぁぁ?! 何これ?! 超かっこいいんですけどぉぉ!!」
そう言いながらくるくる舞ってはしゃぎだした。この反応は、東城舞美と同じものだった。そして腰にある短刀、平野藤四郎に手を掛けると柄と鞘に施してある彫り物に、色鮮やかな色彩が浮かび上がった。
鞘から抜き目の前に翳すと仄かに桜の香りが漂いい、軽く一振りするとその風の力で周りの木々が大きく靡いた。その力に一縷の胸は、高鳴った。
「これが纏う言って事?! 凄い力が、勇気が湧き出てくるっ! どんなに悪い奴が来ても、どんな妖者が来ても絶対に負ける気がしない! お母さん、オジィ様達ありがとう!」
そう言いながら、はしゃぐ一縷。でも心の中では、とても恥ずかしくて面と向かって言えない事を考えていた……
(そして……これで……この力で……私が、お母さんを、お母さんを絶対に守ってあげるんだ!)
もう絶対に大事な人を失いたくない、もう絶対に悲しい思いをしたくない、もう絶対に誰にも悲しい思いをさせたくない。纏った力を嬉しく思いながらも……そう心に決める一縷であった。
つづく……
次回の『纏物語』は……
『其之玖拾陸話 地獄の掛り稽古 神一縷編』
か
『其之玖拾陸話 野弧の憂鬱』
です。どっちにしようかなぁ……
ご期待くださいませ……




