表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
纏物語  作者: つばき春花
第参章 月姫と月読尊
96/126

其之玖拾伍話 五珠の御魂 三之話

前回までの『纏物語』は……


「一縷よ……清き力……東城の血を受け継ぐ者よ……若き其方に五珠の力を授けよう」


「我等五珠の御魂は、お前の剣となり、盾となり、そして……お前の正義の力となろう」

【櫻嘩の纏】


そう言うと五人の身体が輝きだし、光の泡となって天に昇り行き、そこで一塊となったと同時に花火の様に弾けた。弾けた光は五色の粒に分かれ、それぞれの粒同士が集まり五つの珠を作った。其れが繋って五珠となり、一縷の手元へゆらゆらとゆっくり、舞い降りてきた。


一縷は、目の前に浮かぶ五珠を見つめ、そしてその視線を舞の方へ向けた。


舞は、小さく頷き……


「受け取りなさい……一縷」


と言葉を掛けた。


一縷は、言われた通りそれを手に取ると、左腕に通した。


「これが……五珠? とっても綺麗……」


五珠……其れは赤、青、黄、緑、白の水晶の様に透き通った光輝く珠の事。この珠に五人が持つ個々の属性の源が宿っている。


その使命を受け、緊張した面持ちの一縷に向かって舞が話を始めた。


「一縷『纏』とは、妖者……即ち、悪しき者を祓う清き力の事……それを纏う為には、まず神氣の息を身に付けなければいけません。神氣の息とは……」


舞が神氣の息の意味を説明しようとすると……


「お母さん! 神氣の息ってひょとしてこれの事?」


そう言うと、目を瞑り静かに息を整え始めた。


「すうぅぅぅぅぅぅ……はぁぁぁぁぁぁ……すぅすぅ……はぁぁぁぁぁぁ……」


舞とオジイ達には、一縷の身体から溢れ出る清い氣が見えていた。


(こりゃぁ凄い、神氣の息が完璧に行われておる)


(舞美でさえこれを完璧に習得するのに、随分と手こずったのになぁ……)


驚愕するオジイ達。舞は、その一縷に向かって問いかけた。


「一縷……貴方……いそれをつの間に神氣の息が出来るようになったの?」


「この指輪を着けるようになった時からだよ。指輪を着けると何故か息が苦しくなるんだ。でもどうしても指輪を見せたくて我慢してたんだけどある時、深呼吸してたらすぅぅって楽になって! そしたらこの刀も使えるようになったんだ!」


「おぉぉ! 其の短刀は、平野藤四郎! 久しぶりに見たぞっ!」


「おじいちゃん、この刀を知ってるの?」


「ああっ! 知ってるとも、武蔵坊弁慶が持っていた由緒正しい刀だ! なぁ千里乃守も覚えておろう、あの豪傑、武蔵坊弁慶をっ!」


彦一郎が舞に問いかけると……


「え……え……えっ……ええぇぇ……薄っすらと覚えております、彦様……」


舞は俯き、顔を赤らめ、場が悪そうに答えた(彦一郎に黙っていたが嫗千里乃守は生前、武蔵坊弁慶から求婚されていた時期があった。


「一縷、五珠の御魂を受けた今ならば櫻嘩の纏が纏えるかもしれない、試してごらんなさい(舞美……一縷に……貴方の力を与えてあげて……)」


「櫻嘩の纏……はいっお母さん!」


一縷は、そう返事を返すと目を瞑り静かに呼吸を整えた、そして大きく手を広げ胸の上で拍を打った。


『パンッ!』


そして唱える!


「櫻……纏っ!」


一縷の足元が円形に輝き『ぶわっ』っと桜の花弁が渦を巻きながら沸き上がり、一縷の身体を一気に包み込んだ。と同時にその中桜吹雪の中から幻影の様に、何者かが姿を見せ始めた。その人物とは……髪の長い学生服、セーラー服姿の女の子……その女の子が、後ろを振り返り微笑みながらゆっくり一礼をした。


(おぉぉ……舞美……) 


(舞美?! 舞美じゃ!) 


(舞美!) 


(これは……舞美……) 


(舞美ぃぃ!!)


五人のオジイ達が舞美の名を叫ぶ。


「この人が……この人が東城……舞美……さん?」


舞美の幻影は、一縷に向かって微笑みながらじっと瞳を見つめ、ゆっくりと頷いた。そして舞は、涙を滲ませながら震える声で言葉を掛けた。


「舞美……ありがとう……」


舞のその呟きに、舞美の幻影は微笑みながらゆっくり頷き、空を見上げると昇り行きながら次第に消えていった。


そして桜吹雪の中から現れた一縷の姿……それは真っ白い白衣に袴、そして櫻嘩柄の千早を纏いその腰には、平野藤四郎を差す。不思議な事に袴には、まるで本物の様に桜の花弁が舞い散っていた。


「きゃぁぁぁぁ?! 何これ?! 超かっこいいんですけどぉぉ!!」


そう言いながらくるくる舞ってはしゃぎだした。この反応は、東城舞美と同じものだった。そして腰にある短刀、平野藤四郎に手を掛けると柄と鞘に施してある彫り物に、色鮮やかな色彩が浮かび上がった。


鞘から抜き目の前に翳すと仄かに桜の香りが漂いい、軽く一振りするとその風の力で周りの木々が大きく靡いた。その力に一縷の胸は、高鳴った。


「これが纏う言って事?! 凄い力が、勇気が湧き出てくるっ! どんなに悪い奴が来ても、どんな妖者が来ても絶対に負ける気がしない! お母さん、オジィ様達ありがとう!」


そう言いながら、はしゃぐ一縷。でも心の中では、とても恥ずかしくて面と向かって言えない事を考えていた……


(そして……これで……この力で……私が、お母さんを、お母さんを絶対に守ってあげるんだ!)


もう絶対に大事な人を失いたくない、もう絶対に悲しい思いをしたくない、もう絶対に誰にも悲しい思いをさせたくない。纏った力を嬉しく思いながらも……そう心に決める一縷であった。



つづく……



次回の『纏物語』は……


『其之玖拾陸話 地獄の掛り稽古 神一縷編』



『其之玖拾陸話 野弧の憂鬱』


です。どっちにしようかなぁ……


ご期待くださいませ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ