其之玖拾参話 五珠の御魂 一之話
そして週末の朝。
「ふぁぁぁぁぁ……おはよぉぉお母さん………」
大きく欠伸をする寝不足気味の一縷。それもそのはず、時間は3時……朝の3時である。舞から『明日の朝早くに家を出る』と聞かされてはいたが『助手席で寝れるからいいや』と遅くまで勉強……するはずもなくスマホのSNSで蘭子と盛り上がっていた。なので寝不足気味である。
「おはよう、一縷。準備はいい? じゃぁ行きましょうか」
舞は、まだ寝ぼけている一縷から荷物を受け取り、車のトランクを開け放り込んだ。外はまだ真っ暗な時間、こんなに朝早く出かけるのは、今から向かう場所がここから遠いから……と一縷は、思っていた。
『キュルルルルル、ブオォン! ブオンブオン!!』
舞の愛車は、赤いトヨタの86(ハチロク)しかもMTだった。亡くなった父親の趣味なのか……それとも舞の趣味なのか、色々弄っていて結構五月蠅い。
『ブロォォォブロロロロロォォォォォ……』
その五月蠅さからか、近所迷惑にならないようゆっくりと住宅街を進む86。そして一縷が……
「お母さん……私寝るから着いたら起こしてね……」
そう言いつつシートを後ろに倒そうとしたその瞬間!
『ヴオオオオオオオオオオオオオオォォォォンンンン!!! ヴオオオオオオオオオオオオオンンン!!!』
86から今まで聞いた事のない爆音が唸り響き、一縷の身体が一瞬にしてシートにめり込んだ! そして窓の外の景色が物凄い速さで流れていく。その加速に体がシートに押し付けられ息苦しくなる。
恐怖で顔が引きつる一縷。と目の前の信号が赤に変わる。
「おおおお母さん信号! 赤っ!!」
『キィィィィィィィィィィィィィィィィッッ……』
交通法規通り、きちんと停止線の前で止まる。そして……
『ヴオオオオオオオオオオオオオオォォォォンンンン!!! ヴオオオオオオオオオオオオオンンン!!!』
止まっては加速、止まっては加速、一縷は、この速度にもう生きた心地はしない。
「ち、ちちちちょっと…おおおお母さん、もうちょっとスピート落とした方がいいいいいかも……」
半べそを掻きながら舞に訴えると……
「そお? やっぱりこの時間はいいわね……五月蠅い○察もいないし……他の車は少なくて道は空いてるし。とても気持ちいいわ……」
そう言いながら左手で華麗にシフトアップしていく。
何の事はない、早朝に出た訳は、86で思いっきり全開走行をしたかっただけであった。
『ヴオオオオオオオオオオオオオオォォォォンンンン!!! ヴオオオオオオオオオオオオオンンン!!!』
(たたたたた助けてぇぇぇぇぇ! わわわ私死んじゃうぅぅぅぅぅ!!)
つづく……
※小説の中での行為です。皆様、交通法規を守り安全運転を心掛けましょう。
井桁舞(嫗めぐみ)は、以前からかなりのスピード狂で速い乗り物に強い興味があった。それが分かる物語は……
纏物語 外伝 神守を継ぐ者『其之肆 いざ遊園地へ』
纏物語 第弐章『其之伍拾伍話 双子の兄妹』
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