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纏物語  作者: つばき春花
第参章 月姫と月読尊
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其之玖拾弐話 野弧

野弧やこ


人間に取り憑き、幻を見せたり、病気や災いをもたらす悪弧とされている

『私も纏えるようになりたい』……そう伝えた一縷に母は『次の週末に、ある場所に行くから一緒に来て』とだけ告げた。


かんなぎ凛】


一縷は、未知の力を纏う事への期待感と、不安感が入り交じりとても不安定な精神状態に陥っていた。


顔は強張り、人の話は上の空、授業中も寝不足による居眠りや、ぼぉぉっとしている事が多く、教師から怒られる事多々数。


良き相談相手、親友の蘭子に『纏う』事を相談する訳にも行かず、一人思い悩み、終いには、その生活態度を蘭子から怒られる始末だった。


昼休みの事だった。一人屋上に行き、ため息をつきながら遠くを眺める一縷。


「はぁぁぁぁぁ……あんな事、言っちゃったけど、私もお母さんみたいに……強くなれるのかなぁ……すっごく不安……はぁぁぁぁぁぁ……」


手摺に伏せながら独り言を吐き、長い溜息をついた、すると……


「こんにちは、一縷さん!」


その声にゆっくり振り向くとそこ立っていたのは、剣道部主将、巫凛がいつの間にか後ろに立っていた。


「巫……先輩……」


「どうしたの? 私が来たのにも気付かないで、何か悩み事? ふふふっ」


一縷の顔を覗き込みながら笑みを浮かべる凛。


(近くで見でもうっわわわ、すっごいカワ美人!)


まともに顔を見た一縷は、顔を赤らめ思わず顔を背けた。身長は人並み、長い黒髪をポニーテール風に結い、白い肌に整った顔立ちで学校で評判の大和撫子で有名人だった。


凛は、一縷の背けた顔を両手でそっと挟み自分と目線が合うようにクイッと引き向けた。そして不敵な笑みを浮かべながらこう呟いた。


「ふふふっ……私貴方が気に入っちゃったの……。貴方のその内に秘めた計り知れない力……とっても面白いわぁ、ふふふっ……」


見つめる瞳が一瞬、黄色い獣の様にギラリと光る。その表情にゾッとした一縷は、凛を突き放し平野藤四郎を抜き構えた。


「貴方先輩じゃない?! 誰っ!!」


「昨日会ったばかりなのに、もう忘れちゃったの? 私よ、わ、た、し」


「お?! お前はっ狐?!」


「思い出してくれて嬉しいわぁ、一縷さん。私の名は野弧、うぅぅん……でも、やこ、じゃ可愛くないからぁ人間で言うとぉ……やっこも可愛くないしぃぃ……そうだっ! のっこ! のっこがいい! じゃぁ私の事は、のっこと呼んで下さいね!」


それを聞いた一縷の怒りが爆発する!


「なぁにが『のっこと呼んで下さいね』だっ! 今度は、凛先輩に化けたのか! 卑劣な妖者、お前を絶対許さないっ! たぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


瞬で斬りかかる一縷、しかし野弧は、ひゅっと浮き上がり軽々とその太刀を交わし、柵の上にふわりと降り立った。


「ふふっ気を付けて一縷さん……確かに美月には、化けていた。だけど今の私は、巫凛そのもの……つまり私はこの体と心にも憑依しているの……。だから私を斬るという事は、この子の……この体と心をも傷付ける事になるのよ」


一縷達が使う清き刀は、悪しき者だけを斬り祓う。例え憑依されていたとしても、それは変わらない。しかし野弧が言った『心にも憑依している』と言った事が引っかかっていた。もしそれが本当ならば……凛の心を斬ってしまったなら凛の心が死んでしまう……。


野弧は、そう言い切ると一縷の前にふわりと降り立ち、クルクルと回りながら嬉しそうに言いだした。


「この子の体、気に入ったわぁぁ……。居心地がよくてここにいると何か神氣が湧き出ると言うか……こんな感覚初めて! とってもいい気分よ!」


そう言ってはしゃぐ野弧を、鬼の形相で睨みつける一縷。すると急に真顔になって立ち止まり野弧がゆっくりと語る。


「心配しないで一縷さん。私この子に危害を加えるつもりは、毛頭ないわ。只さっきも言った通り、私、貴方が気に入っちゃったの。だから暫くこの子の身体を借りて貴方の傍に居させてもらうわねっ」


そう言い終わると黄色い瞳が黒く変わり……凛の意識が戻った。


「あれ? ここ何処……あっあれ、一縷さん?! こんにちはっ。ここ屋上?……私、なんで此処にいるのかな?」


そう言いながらキョロキョロ辺りを見渡す凛。


「あ、あああぁいいやだなぁ、凛先輩! 屋上でぇ……ほら一緒にtimeleszの新曲聞こうって誘ってくれたじゃないですかぁハハッハハハ……」 


「そう? そうだったっけ?……私セクゾは好きだけどtimeleszは、あんまり聴かないんだけどなぁ……」


しどろもどろでその場を取り繕った一縷。心の中で(野弧ぶっ飛ばす!)と強く思っていた。




つづく……




次回……纏物語『其之玖拾参話 五珠の御魂 序章』


ご期待ください。 



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